■告白の根幹にある苦悩の質は、心の安定化とともに変質していくもの
Contents
■オススメ度
ナチス系映画に興味のある人(★★★)
ボクシング映画が好きな人(★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.8.14(アップリンク京都)
■映画情報
原題:The Survivor
情報:2021年、カナダ&ハンガリー&アメリカ、129分、G
ジャンル:収容所で生き延びるためにボクサーになった青年を描いた自伝映画
監督:ハリー・レビンソン
脚本:ジャスティン・ジョエル・ギルマー
原作:アラン・スコット・ハフト/Alan Scott Haft『Survivor of Auschwitz, Challenger of Rocky Marciano 』
キャスト:
ベン・フォスター/Ben Foster(ヘルツコ・ハフト/ハリー・ハフト/Harry Haft:腕っぷしが好まれて親衛隊の庇護を受けるボクサー)
ヴィッキー・クリープス/Vicky Krieps(ミリアム・ウォフソニカー:ハリーに肩入れする調査会社の秘書)
ビリー・マグヌッセン/Billy Magnussen(ディートリッヒ・シュナイダー:ハリーを気に入るナチス親衛隊)
ピーター・サースガード/Peter Sarsgaard(エモリー・アンダーソン:ハリーを取材する記者)
ダル・ズーゾフスキー/Dar Zuzovsky(レア・クリチンスキー:親衛隊に拉致されたハリーの恋人)
Roderick Hill(メイア・クリチンスキー:レアの父)
【プロボクシング関連】
ジョン・レイグザモ/John Leguizamo(ペペ/ビル・ミラー:ハリーのセコンド)
Paul Bates(ルイス・バークレー:ハリーの所属するボクシングジムのマネージャー)
Charles Brice(コーリー・ウェルス:ハリーのジムのスパーリングパートナー)
ダニー・デビート/Danny DeVito(イズラエル/チャーリー・ゴールドマン/Charley Goldman:王者サイドのトレーナー)
Anthony Molinari(ロッキー・マルシアーノ/Rocky Marciano:王者候補のボクサー)
Alan Jouban(ローランド・ラスターザ/Roland LaStarza:ハリーが完敗する対戦相手)
Zsolt Erdei(ラスターザのトレーナー)
Scott Alexander Young(「Big Fight」のレフリー)
John Guerrasio(フランキー・カルボ/Frankie Carbo:ボクシングのプロモーター、マフィア)
Pablo Raybould(ブリンキー・パルレモ/Blinky Palermo:ボクシングのプロモーター)
Patrick McCullough(計量士)
Peter Linka(リングアナウンサー)
【家族・友人関係】
Saro Emirze(ペレツ・ハフト/Peretz Haft:ハリーの兄)
Svetlana Kundish(ルシュカ・リンスキー:ペレツの恋人→妻、歌手)
Laurent Papot(ジャン:収容所時代のハリーの友人)
Kingston Vernes(アラン・ハフト/Alan Haft:ハリーの息子)
Sophie Knapp(ヘレン・ハフト/Helene Haft:ハリーの娘)
Zachary Golinger(マーティ・ハフト/Marty Haft:ハリーの息子、末っ子)
【収容所時代】
Sonya Cullingford(エルス:収容所の褒美にあてがわれる女)
Michael Epp(カットナー:ナチス親衛隊)
Erik Contzius(ドイツのプロテスタント教会の音楽監督)
Bálint Magyar(ヨーゼフ・メンゲレ/Josef Mengele:ナチス親衛隊の大尉)
Adam Zambryzcki(収容所のボクシングの相手)
Gábor Czap(収容所のボクシングの相手)
András Kovács(収容所の巨漢のフランス人ボクサー)
【その他】
Aaron Serotsky(マイケル・リバーマン:ミリアムの夫)
Amalina Ace(サラ・リバーマン:ミリアムの娘)
■映画の舞台
アメリカ:ジョージア州
ティビーアイランド
https://maps.app.goo.gl/Qn8tnzgHinq28ALv9?g_st=ic
アメリカ:ロード・アイランド州
プロビデンス
https://maps.app.goo.gl/TBagUFLzsUrLWpp78?g_st=ic
アメリカ:ニューヨーク州
コニーアイランド
https://maps.app.goo.gl/MXQATxp8YDrRzSfp7?g_st=ic
アメリカ:ニューヨーク州
ブライトン・ビーチ
https://maps.app.goo.gl/tLfK15aVUBhiBoEA6?g_st=ic
ポーランド:
アウシュヴィッツ=ビルケナウ(収容所)
https://maps.app.goo.gl/UdJrEu1c9TJnhhPy5?g_st=ic
ポーランド:
Jaworzno/ヤヴォジュノ(収容所)
https://maps.app.goo.gl/zBvF5SBrg8TdDqLP9?g_st=ic
ロケ地:
ハンガリー:
Úrkút/ウルクット
https://maps.app.goo.gl/gsTsGmn3sTsxDCtr9?g_st=ic
Ócsa/オーチャ
https://maps.app.goo.gl/StKieHessc2FypEUA?g_st=ic
アメリカ:ジョージア州
Savannah/サバンナ
https://maps.app.goo.gl/aevtmCr1dgRsRzDAA?g_st=ic
アメリカ:ニューヨーク
■簡単なあらすじ
アメリカでプロボクサーとして活躍していたハリー・ハフトは、ホロコーストを生き残ったことで「The Survivor」と呼ばれていた
だが、プロ転入後の実績は翳りを見せ、加齢とともに勝てなくなる日々が続いていた
ハリーは収容所に入れられる直前に別れた恋人レアの行方を追っていたが、戦争が終わって20年近くになっても、手掛かりすら掴めない状態だった
ある日、彼の元にエモリー・アンダーソンという記者がやってきて、ハリーの話を記事にしたいと言う
ハリーは当初躊躇っていたものの、自分の名前を全米中に轟かせればレアの目に入るのではないかと思って語り出す
だが、その記事は収容所時代に同胞とボクシングをして生き残ったと言うもので、裏切り者扱いされる日々が始まってしまう
そんな折、レアの調査を依頼していた事務所にて、親身になってくれるミリアムと言う女性と出会う
だが、彼女の善意を素直に受け入れられないハリーは、王者候補のマルシアーノと戦うことで、更なる自分の認知を上げようと試みるのである
テーマ:話せない過去と話せる過去
裏テーマ:心の支えとなる感情
■ひとこと感想
アウシュヴィッツの中で親衛隊に気に入られた若者が生き残ると言う内容で、実在の人物ヘルツコ・ハリーの息子アランが書いた手記が原作となっています
ハリーと言う名前はアメリカに来てからつけられた名前で、映画内では「回想録0ヘルツコ」「現在軸はハリー」と言うふうに別れていて、映像もカラーとモノクロに分かれていました
映画は実話ベースに脚色を加えたもので、かなり変わっている部分があります
そのあたりはパンプレットでは拾えませんが、英語のインタビューや取材記事などを追っていくと、どこまでが事実かと言うものを検証しているサイトまであったりします
物語は、回想録が主体となっていて、誰に語るかと言うものが変化していきます
なので、それぞれの対象者に何を話せるかと言うところに制限があり、それが時間とともに拡がっていく様子が描かれています
当初は世間の関心を引くための大枠、トレーナーのチャーリーとは細かな実情、後半のミリアムとの会話では「誰にも話せなかったこと」と言うものが登場する流れになっていました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画の主軸は「どうやって生き残ったか?」ですが、それは想像の範囲内と言う感じになっています
でも、映画では描かれていない負の部分をかなり排除しているので、かなり美談に仕上げている感じになっていますね
実際には様々な非人道的なこともありましたが、生き残ると言う一点においては肯定せざるを得ない部分があると思います
映画内では様々な工夫がされていて、ハリーの苦悩が徐々に深層に向かう感じになっています
記者は架空の存在で、物語の導入と後半のサプライズのための伏線でした
また、冒頭でサラッと重要な人物が登場しますが、構成を考えると、そこにわざわざ登場した人物には意味があることがわかります
このシーンは記者に語る部分になりますが、記者目線だと「その人物を登場させる理由」に気づけるはずなのですが、本作に登場する記者は、どちらかと言えば無能な感じに描かれています
この回収が別人に語るシーンになっているのも微妙で、劇的にするために敢えて違う人物に返答させているのかなと思いました
■ヘルツコ・ハフトについて
ヘルツコ・ハフト(Herzko Haft)ことヘリー・ホフト(Harry Haft)は、1925年生まれのポーランド人で、生まれはベウハトゥフになります
彼はアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所に入れられ、そこで生き残るために囚人仲間を相手にボクシングをさせられていました
14歳の時、ドイツ軍のポーランド侵攻と占領を目撃し、ナチス占領下では兄と一緒に密輸業を営んでいました
1942年、ユダヤ人の迫害が始まり、それと同時に強制収容所に収監されます
翌年から親衛隊の監督官に気に入られてボクサーとしての訓練を始めます
アウシュヴィッツの北側にあったヤヴォルズノ強制収容所に移動させ、そこで76回戦わされたとされています
その後、ドイツの劣勢に伴って「死の行進」に参加させられ、1945年の4月にその行進から逃げることに成功します
逃亡中に入浴中のドイツ兵を殺害して軍服を着用します
終戦までの間に村から村を移動し、その途上で「ドイツ兵でないことがバレるのを恐れて、匿ってくれた老夫婦を殺害」してしまうのですね
そして、彼は占領軍の避難民キャンプに避難し、ミュンヘンで行われた「アマチュア・ユダヤ人ヘビー級選手権」というボクシングの大会で優勝することができました
1948年、22歳の時にハフトはニュージャージー州の叔父の助けを借りてアメリカに移住を果たします
そこで彼は、ライトヘビー級のプロボクサーとして生計を立て始めます
プロとしての戦績は21戦18勝(8KO)、8敗(5KO)となっています
12連勝ののち、パット・オコナーに敗戦、映画では晩年にあたるローランド・ラスターザ、ロッキー・マルシアーノ(Rocky Marciano)戦が描かれていましたね
ラスターザは33戦無敗の強敵で、マルシアーノも18戦無敗でハフトと対戦しています
ちなみに、マルシアーノは49戦全勝でキャリアを終えたボクサーで、ラスターザにも勝っていたりします
マルシアーノに敗れたハフトはそのまま引退し、1949年11月にミリアムと結婚します
史実では引退後にミリアムと出会っているそうで、このあたりは改変されていますね
ブルックリンに青果店を出店し、1950年に長男のアランを授かっています
映画のラストでハフトはアランに自分の人生を語りますが、史実によれば2003年の78歳くらいの時だったと言います
なので、映画は少年期に語っていますが、このあたりも改変されています
その後アランは、歴史家のジョン・ラジロウスキー(John Radzilowski)とマイク・シルバーの助力を得て、2006年に本を出版しています
2011年にはラインハルト・クライスト(Reinhard Kleist)によってグラフィック・ノベルが作成され、フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(Frankfurter Allgemeine Zeitung、フランクフルト総合新聞)に掲載されました
■トラウマの解消に必要な告白
映画のメインテーマは、自分の中にある「心的外傷」の言語化であり、ハフトの中で一番キツかったことというのが、ラストに提示されています
彼の人生史を客観的に見ると、逃亡中の老夫婦殺害の方がインパクトがあったりします
この告白を省いた理由はわかりませんが、考えられるのは収容所のボクシングに特化したかったということと、本人の心的外傷のレベルを重要視した、ということだと思います
客観的に見て心的外傷になりそうなことと、主観的に心的外傷だと感じていることは違ったりもします
老夫婦の件は、逃亡中の生死を賭けた状況で起こったことであり、行為を正当化せざるを得ないように感じます
「ポーランド国内でポーランド人に対してドイツ兵と偽ったこと」と、「ポーランド人なのにドイツ兵であることを偽ったことをドイツ兵に見つかること」は少しだけ意味が違っていますね
前者はポーランド人への裏切りになり、後者はドイツ兵の怒りを買うことになります
どちらにバレるかによって、その後の人生は変わってしまうので、迫害されたユダヤ人に戻るまでは、生死以上のリスクがあったでしょう
その黒歴史は生きるための最適解として心の中に残り、正当化するより他なかったとも言えます
罪の告白は感情の言語化でもあり、それによって周知される事実というものが規定されます
それまでは得体の知れないものとして存在したものが、主語+述語に置き換えられる世界になっていて、その行動には「なぜ」という疑問符が付き纏うことになります
ある種の強迫観念のようなものがあり、想像が悪い方向に膨らんでいく中で、自分の精神を支えるために言語化されていくのですが、これは誰かに話すこともあれば、日記などのように書き記すということもあります
映画では、息子アランとの関係の修復のために告白がなされますが、史実では晩年にようやく口を開いたとなっていて、リアルの方が思い悩んだ時間は長かったことになります
それまでに手記などに記すことで心を軽くしたかもしれませんが、「生き残るため」と言えども、心を軽くすること自体を罪と捉えていた可能性もあります
それゆえに、あえて言語化せずに苦しみ続ける、という選択肢をするのも人間らしいと感じますが、実際のところは本人以外はわからないのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、生き残るために何をしてきたかということを主軸にして、その告白によって物語を展開していきました
さわりはハフトの人生に興味を持つ記者エモリーで、このキャラクターは映画オリジナルだとされています
その後、調査会社の秘書だったミリアムが真相を知ることになり、最終的には最後まで話せなかった「友人を殺した罪」というものを告白するに至ります
そして、ラストでは息子のアランに話し始めるという流れになっていました
第三者への語りとその反応は、広域に秘密が知れ渡ることになるリスクを描いています
親密になった人への語りは、自分を知ってもらうことがメインで、エモリーの知りたい欲求とは少しばかり意味合いが違います
エモリーの記事を利用してレアを探そうとしていたわけで、その効果のために表面を広く掬ったという感じになっていて、「なぜ?」という部分を置き去りにする詩的な告白のようになっていました
親密な人への告白は、悩みの度合いを理解してもらうことになり、ミリアムへの告白は「知ってほしいこと」と「幸せにはなれない自分」を吐露することに繋がります
ミリアムがハフトに寄って行った理由は色々とありますが、彼自身への興味というものが念頭にあったのでしょう
また、彼女自身が恋人とうまくいかなかった過去というものを背負っていて、その空白を埋められる相手だと感じたのかもしれません
アランへの告白がかなり前倒しになっていますが、この時点でハフトがどこまで語ったかは描かれていません
史実では晩年に語っていることになっていますが、アラン自身の受け止め方というのは年齢が違いすぎるので全く別物のように思えます
映画だと10歳前後ですが、史実だと53歳の時に聞いていることになるのですね
母ミリアムから多少は聞いてきたと思いますが、その目的は全く違うもののように思えました
映画は、劇的な物語を紡ぐために色々と改変されていますが、友人を殺したことというのがメインになっているのをどう受け止めるかでしょう
ジャンとの関係性が映画内では、命を賭けて庇う相手ということは示されますが、それ以上のことは分かりません
回想録の中にでもジャンとの日々が登場すれば後半の告白は生きてくると思うのですが、この流れだとやや物足りなさというのを感じてしまうのですね
映画ではジャンが登場するのは冒頭と後半だけになっていて、収容所内でもそこまで親密さはわからなかったりします
収容所に入ってからは全員同じ格好になっていることもあるのですが、特別な関係であることをもう少し提示してもよかったように思います
分かりやすいのは「レアとの関係を作ることになったエピソード」をきちんと映像化することでしょうか
それがあるだけで、ジャンとの長年の付き合い感というものが出てくると思うし、収容所内で回想録を紡ぐことができれば、劇的な効果を発揮したように思いました
レアとの関係は「生き残る理由を作った」というものでしたが、その理由作りに貢献したのがジャンという人物というふうに強調すれば、改変の度合いが激しいとしても、ラストの告白には重みが出てくるのではないでしょうか
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
