■修羅の国で生きるには、目の前にある保障に縋るほかないのかもしれません
Contents
■オススメ度
どんよりとした雰囲気の映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.2.29(アップリンク京都)
■映画情報
原題:더 와일드: 야수들의 전쟁(野生:獣の戦争)、英題:The Wild
情報:2023年、韓国、110分、PG12
ジャンル:服役を終えたボクサーが訳あり女性と惹かれ合う様子を描いたクライムアクション
監督:キム・ボンハン
脚本:キム・ジュマン
キャスト:
パク・ソンウン/박성웅(ソン・ウチョル:懲役刑を終えた元ボクサー)
オ・デファン/오대환(チャン・ドシク:ウチョルの友人、韓国マフィアのボス)
オ・ダルス/오달수(リ・ガクス:麻薬ブローカー)
ウォヌ/원우(ヤンギ:ガクスの手下)
ファン・ムヨン/황무영(ギルテ:ガクスの手下)
チュ・ソクテ/주석태(チョ・ジョンゴン:汚職刑事)
ソ・ジヘ/서지혜(チェ・ミョンジュ/ボム:ウチョルと関係を持つホステス)
ファン・セ/황세인(イェリ:ボムの同僚ホステス)
ヨンス/연수(マダム:ホステスのママ)
チョン・スギョ/정수교(カン・ユンジェ:ドシクの右腕)
ソ・ジフ/서지후(パク・ヒョンテ:ウチョルが気にいる若者)
ビン・チャヌク/빈찬욱(キム・ジファン:懲役刑の元になった対戦相手、ボクサー)
イ・ジェフン/이재웅(キム・サンファン :ギファンの弟)
■映画の舞台
韓国のどこか
ロケ地:
不明
■簡単なあらすじ
賭けボクシングで友人ドシクと共に罠を張って荒稼ぎをするウチョルは、ある試合にて相手を殺してしまう
それは不慮の事故に思えたが、相手の体内から薬物が検出され、その事実をもみ消すために、ウチョルは自ら懲役刑に服することを決めた
それから数年後、ウチョルは模範囚として仮釈放になり、彼をドシクは温かく迎えた
刑務所に入っている間にドシクは会社を興して成功し、側近にカン室長を配して、多くの事業を展開させていた
ウチョルはバーの経営の勉強をすることになり、用心棒のようなポジションで店に関わることになった
ドシクは、ブローカーから大量の麻薬を仕入れる約束を取り付けていたが、内心では金が惜しいと思っていた
ブローカーのドシクは警察と繋がっていて、彼はウチョルを使って汚職刑事ジュンゴンを出し抜こうと考えていたのである
テーマ:因果は巡る
裏テーマ:愛の行方
■ひとこと感想
ひっそりと公開されていて、パンフレットも作られていなかったですね
元ボクサーがヤクザと繋がりがあって、汚職刑事が出てきて麻薬が登場するというもので、真新しさはほとんど感じられない作品になっていました
主人公を演じたパク・ソンウンのファン向けムービーのような感じがしました
女性の扱いが酷い作品で、殴るわ蹴るわと結構無茶苦茶で、その中で紳士的なのが主人公という感じになっています
ホステスとして会うことになった女性が、自分の過去と繋がっているというのはありきたりで、その過去の真相を知らない者から狙われたりもします
面白いかと言われれば微妙な感じですが、眠くなるような展開はなかったですね
それでも、印象に残っているシーンがほとんどなく、登場人物も少ないので、そこまで混乱することはありません
ソウルに憧れを持っているので地方都市だと思いますが、明確な場所というのは濁されていたように思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
本作のネタバレと言えば、ホステス・ボムの正体ということになりますが、彼女の存在というよりは、ウチョルとの関係が残酷なものになっています
でも、男女の仲は複雑なもので、彼氏を殺した相手だとしても、現在の愛情を止めることはできないという感じに描かれていました
とは言え、兄の彼女が殺した相手になびくのを許せるはずもなく、弟の一撃は必然だったように思えました
映画は、哀愁漂うヤクザ系という感じですが、裏の取り合いをしている様はそこまで複雑なものにはなっていません
小学生でもわかるような対立構造になっていますが、これくらいの方がちょうど良いのかな、と思ったりします
アクションシーンはボクシングのシーンぐらいで、そこまでフィジカル全開の戦いにはなっていなかったですね
パンフもなければウィキもないという出演者の豪華さを感じれば扱いが軽めなのは驚いてしまいます
■愛は憎しみを超えるか
本作のメインは、恋人を殺した相手を愛せるかという命題があって、最終的には運命がそれを許さなかったという感じに結ばれています
とは言え、ミョンジュ目線だと「試合の延長線上」という感じになっていて、その時に自分を守ってくれるものに縋り付いているようにも思えます
実際には、ドシクの企みによって、ジファンは薬を盛られてしまい、それによってパフォーマンスが低下し、本来なら死ぬことがなかった打撃で打ちどころが悪かったということになっています
この事故に見える事故を受けて、ミョンジュは理解の方に行き、弟のサンファンは憎悪を募らせていきます
サンファンもミョンジュも死因とその背景については知っているように思えますが、さらに一方で踏み込んだのがサンファンの方だったように思えました
ミョンジュはウチョルとの出会いの際に「彼が恋人を殺したこと」に気づいていると思うのですが、それでも5年以上経過していることで、彼女の中では踏ん切りはついています
それは、薬を盛ったのがウチョルではないことを知っていて、ボクシングの事故で亡くなったという手前があるのに、懲役刑に服した彼の行動を見ているからなのですね
これによって、少なくとも「憎悪の対象としては見ていない」ということになります
このフラットになった状態で接していくうちに、ウチョルの人柄というものにふれていき、彼も陰謀に巻き込まれた側だということがわかってきます
それによって、自分の立場と関係性を踏まえた結果、感情を優先することになっているのですが、これがサンファンには理解できない領域だったのですね
結果として、サンファンの憎悪が勝り、それを大いなる力が支持した、という結果になっているように思えました
■求めあうのは野獣だから
ミョンジュの視点だと、元恋人を負かした屈強のボクサーということになり、その強さというものは彼女の中の何かを煮え立たせています
それは、これまでの男性遍歴ももちろんのこと、常に満たされず飢えているから、という背景も含むと思います
ボクサーという攻撃性に満たされた元恋人を持つというミョンジュの恋愛適性を考えると、より強いものに惹かれるというのは何となく理解できます
そこに理性を求めても無理なものは無理という感じで、彼女が生きている世界で自分を守ってくれる存在というものは、とても貴重だったと言えるのでしょう
ウチョルはミョンジュが自分が殺したボクサーの恋人とは知らない状態で出会っているので、純粋な好意から派生している感情だと思います
彼の好みであったということが要因で、その邂逅を純なるものにはしなかったのは大いなる意志の表れ、すなわち「恋愛の障壁」ということになると考えられます
この映画を恋愛映画という側面で見ると、「元恋人を殺した相手を好きになってしまったミョンジュ」と「恋に落ちた相手はかつて自分がその死に関係していたことを知るウチョル」という関係性になります
恋愛の障壁は「元恋人の事故」ということになり、それを乗り越えるかどうか、ということになっていきます
倫理的な側面だとあり得ないのですが、5年が経過していること、二人の関係性と現在の背景を加味すると、二人の感情の方が罪悪感よりも優っている、という感じになっています
ウチョルとしては、ミョンジュから幸せを奪ったことになり、その埋め合わせを一生をかけて償うという決意があると思います
一方のミョンジュは、そのような感情で自分に奉仕するウチョルを受け入れるかどうかという障壁があり、彼女の選択は「受け入れる」というものになっていました
これらの選択の背景にあるのは、人間は獣という本質のようなもので、その関係性を否定できる人はいません
でも、サンファンはそれを許すことができず、暴力に打って出るという結末になっていたように思えました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、かなり狭い世界での出来事になっていて、ホステスと構成員の二組のカップルというものが登場していました
どこにも行けない者同士が絡むという展開になっていて、少しばかり通常の恋愛とは異質な印象を受けます
ミョンジュもどこか違う世界にいれば、元恋人を殺した相手に好意を持つということもなかったかもしれませんが、男女の仲というのは「お互いの背景などを寄せ付けない、魂レベルでの結びつきや閃きのよう」に思えてきます
あとがないという世界に生きていると、その未来に希望が持てず、半径10メートルぐらいの範囲で生きていくことになります
そこから抜け出せない理由の多くは、ミョンジュの場合だと借金であるとか、薬物であるとか、自己肯定感の低さ、家庭環境などの様々な要因が絡んでいると思います
そんな閉塞感の中で現れる王子様というのは、自分を第一に見てくれることが前提で、さらに自分に尽くしてくれる覚悟がある者だと言えます
その条件に合致しているのがウチョルで、たまたま元恋人の死に関連した男だった、ということになっています
とは言え、実際にこのような関係性になれば、人を殺めた過去を持つ男からは距離を置くのが当然のように思えます
なので、一般論からすればあり得ない関係で、男性側と女性側どちらに想像を巡らせても、距離を置くというのが最適解のように思えます
実際には、その選択をするまでもなく断罪され、それによって永遠の別れとなってしまうのですが、この結果を導いたのも二人の選択によるものなのですね
もし、ウチョルがミョンジュとの距離を置き続ければ、サンファンにそこまでの憎悪が発生したのかはわかりません
彼はミョンジュの異常な行動に怒りを増幅させ、それによって行動しているようにも見えるので、感情任せの行動が自身をさらに傷つける方向に向かっているのですね
このあたりの人間関係のアヤを考えると、二人が幸せになれる可能性はほぼゼロで、誰もいないところに逃避行する以外になかったと思います
物語は、それを許さないというテイストで動いていましたが、全てを捨てる覚悟がないと、このような歪な関係というものは持続しようがないのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100983/review/03546470/
公式HP:
https://klockworx-v.com/wild/