■誰かの不幸を気にしても、自分の幸福度は変わらないものなのですね
Contents
■オススメ度
重たい話が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.10.11(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
英題:The Young Stranger
情報:2024年、日本&フランス&韓国&香港、119分、 PG12
ジャンル:閉塞感に打ちひしがれる若者の運命を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本:内山拓也
キャスト:
磯村勇斗(風間彩人:亡くなった父の借金を返し続ける息子、工事現場&カラオケバー)
(10歳時:林新竜)
(14、15歳時:竹野世椰)
岸井ゆきの(日向:彩人の恋人、看護師)
福山翔大(風間壮平:彩人の弟、総合格闘家)
(8歳時:岡崎琉旺)
(12、13歳時:大野遥斗)
豊原功補(風間亮介:彩人と壮平の父)
霧島れいか(風間麻美:難病を患う彩人の母)
染谷将太(大和:彩人の親友)
佐藤玲(明莉:大和の妻)
新井李都(空:大和の息子)
長井短(由梨:彩人と大和の同級生)
滝藤賢一(松浦:職質する警察官)
東龍之介(瀬戸:職質する警察官)
伊島空(治虫:警察官、壮平の友人)
山本直寛(所轄の警察官)
榎木薗郁也(警察署の署員)
大鷹明良(早川:壮平のジムの会長)
伊藤俊亮(伊藤:壮平のコーチ)
朝比奈龍希(選手)
矢柴俊博(大倉:?)
宮崎吐夢(黒木:麻美の主治医)
松田航輝(豊田:彩人の店に来る酔っ払い)
尾上寛之(吉田:彩人の店に来る酔っ払い)
カトウシンスケ(濱崎:彩人の店に来る酔っ払い)
ファビオ・ハラダ(ファビオ:壮平の対戦相手、総合格闘技の選手)
へナータ・ハルミ(通訳)
北森代紀(リングアナ)
片岡誠人(レフリー)
阿南敦子(スーパーの店長)
宮田佳典(スーパーの店員)
中村梨子(スーパーの客)
髙橋雄祐(職質受ける路上の若者)
西郷豊(カラオケ歌うサラリーマン)
安達優菜(病院の薬剤師)
瀬戸かほ(花屋さん)
イシイジュン(怒鳴る運転手)
芹澤興人(畑のおっちゃん)
サトウヒロヤ(大和の同級生)
夏目実幸(救急病院の看護師)
古谷明弘(救急医)
池田良(記者)
■映画の舞台
神奈川県のどこか
ロケ地:
東京都:文京区
後楽園ホール
https://maps.app.goo.gl/LJe7e3eQACdYjB2J6?g_st=ic
埼玉県:三郷市
BRAVE GYM三郷
https://maps.app.goo.gl/cMR9F2DyTChB96YJ6?g_st=ic
埼玉県:羽生市
スナックりりぃ
https://maps.app.goo.gl/YMxg1suR9yEEpdw87?g_st=ic
■簡単なあらすじ
亡き父の跡を継いでカラオケバーを経営している兄の彩人は、難病を患っている母・麻美の面倒を見ながらも、溜まりに溜まった借金を返すために工場で働いていた
弟の壮平は総合格闘技の道を行き、ようやくタイトルマッチが組まれるほどになっていた
彩人には恋人の日向がいて、彼女は家族同然に家事などを手伝ってくれていた
ある日、路上で職質を受けていた若者の手助けをしようとした彩人は、逆に仲間ではないかと疑われて騒動に巻き込まれてしまう
また、脳に障害のある母親は、事あるごとに問題を起こし、最寄りのスーパーには前もってお金を支払ったりして、何かあればすぐに駆けつけていた
ようやく壮平のタイトルマッチの日取りが決まり、泊まり込みで減量に入るために家を空けることになった
日向も夜勤続きになっていて、彩人は母をひとりで面倒を見ることになった
だが、母の行動はエスカレートし、さらに親友の大和の結婚記念パーティーも差し迫っていて、彩人の心にはゆとりがなくなってきてしまうのである
テーマ:不幸の源泉
裏テーマ:ひとりで抱え込める限界
■ひとこと感想
どんな物語なのかなど、ほぼ情報を仕入れずに鑑賞
思った以上に重たい話になっていて、不幸の連鎖と理不尽な状況がひたすら続くという内容になっていました
何でもかんでも自分で抱え込む彩人が抱えきれなくなるというよりは、限界点を迎えることもないまま、途中で退場するという感じになっています
映画のチラシの文言はほぼネタバレのようなもので、映画では決定的なものは最後の方まで登場しなかったりします
なので、予告編の記憶も消した上で見るのが良いのかな、と思いました
映画は、不幸の連鎖というよりは、視野の狭さと機転の弱さが困難になっているという感じになっていて、同じ状況でも同じことにならない人はたくさんいるように思います
神奈川が舞台のようで、かなりねじ込んだ感じの設定になっていますが、怒られないのかな、と思ってしまいました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
本作のネタバレは予告編でバレてしまっているという感じで、どのようなことが起きたら彩人は死んでしまうのか、というところを紐解く流れになっていました
とは言え、誰が彼を殺したかという問いかけに意味はなく、どうやったら回避できたのかという問いも意味をなさないでしょう
このような状況になって、無抵抗なまま死んでしまう若者もいるという感じになっていて、それが良いとか悪いとかでも無いと思います
彩人はいわゆるヤングケアラーという立場になりますが、本来ならば行政を頼って、専門の人に任せる案件だと思います
父親の残した借金もあるようですが、そう言ったことも相談できる窓口もあるでしょう
でも、そういったことに頭が回らなくなってしまう現実というもののあって、気がついた時にはどうしようもないと思ってしまうのかな、と感じました
ともかくひたすら重いだけの映画で希望のようなものは見えないのですが、残された弟は母親をどうするのかなと思ってしまいました
おそらくは抱え込んで夢が潰えるという道は選ばないと思うので、施設に入れるなどして、格闘技に集中しようとするんじゃないかなと思いました
■抱え込むことのリスク
人には限界があって、できることとできないことというものがあります
ある種の強迫観念、自己肯定感、義務感などから過大な案件を抱えてしまう人がいますが、大抵の場合は破綻する可能性の方が高いと思えます
特にヤングケアラーなどの降って湧いたような状況から泥沼にハマることも多く、周りを見る猶予を与えてもらえない場合があります
目の前のことに集中し、できることをして1日を終えてしまうので、何かしらの方策を考える間も与えてくれません
このような場合、第三者がアドバイスをすることになるのですが、その道に精通している人がいてもなかなかうまく行かない場合があります
ある程度状況が進んだ段階だと、身の周りに起こっていることに対する慣れが起こってしまい、さらに「これをできるのは自分だけだ」と思い込むようになります
それが相互依存状態になっている場合もあり、第三者が介入しづらくなっていて、その状態に行くまでに道を探す必要があります
本人に第三者を頼る意思があっても、そういったものを信用できないと周りが考えることもあり、それが経験則と間違った思い込みである場合の区別がつきません
また、協力者は全ての面倒を見られるわけではなく、橋渡し的な存在になることもあるので、信用関係を気づくことも難しくなってしまいます
抱え込んでしまうのは、日常からそのまま移行したパターンで、今回の彩人はこの状況に近いと思います
ずっと一緒に生活していて、そのままの状態で状況が悪化してくる
そして、心に余裕が出ないまま、気がつけば思った以上に深いところにいた、ということになります
リセットできるほど精神が強ければ問題ないのですが、愛着がある場合には難しいでしょう
なので、事前にどれだけの情報を取得し、自分を客観視できるかにかかっています
それでも、心中しても良いと思えるほどにのめり込む人がいるのですが、それは本人が理解している上で覚悟を決めているので、それを無理に引き剥がすことはできません
でも、他の選択肢の存在を知れば、限界が近づいた時に変化する可能性だけは残されていると思います
一番の問題は、然るべきところに頼れなくなって共倒れしてしまうことで、稀にニュースなどで「面倒が見れなくなって殺した」というところまで行ってしまうのを見かけます
その原因は様々ありますが、ケアラーの苦しみというよりは、ケアされる側の限界であることも多いのですね
でも、本人はすでに他界しているので本当のところは分かりません
ケアラーも本当のことは言えないので、それを胸にしまったまま裁きを受けることになることになります
その胸のうちは当人が抱えたまま持っていくものなので、さらに何が起きてそうなったのかを辿るのが難しくなっているように思えます
■たらればでは答えの出ない世界
本作は、ある青年の転落を描いていて、あの時にこうしていればという思いが募る作品のように思います
でも、実際には終焉間近で救いがない状態になっていて、あの時点で「たられば」を言えないほど悲惨な状況になっていました
父の借金問題、母の介護、弟はそこから距離を置いていて、さらに身近で悪いことばかりが起こります
閉店間際に押しかけた酔っ払いと喧嘩になるとか、路上の若者を助けたら警官に凄まれるとか、その件があったから後に不利益を被るなど散々なものになっていました
映画は、転落していく様子を描くのが目的なので、理不尽に思えることが一気に沸き起こっています
リアルでも起こり得そうかどうかは地域にもよるかも知れませんが、個人的な感覚では、同じことが起きてもここまで酷くはならないだろうと思いました
血まみれのバーで友人が気づかないのも変だし、警官が路上詰問でいきなり回し者だと断定するのも無茶な話だと思います
結局のところ、悲惨なことになっているけど、全てが筋に見えてくるので、リアルにたらればを語る隙間がないように思えます
それでも、もしたらればを語るとするならば、自分の限界を知り、あれこれ首を突っ込まないことしかないかな、と感じました
路上で職質を受けている人を助ける意味もわからず、そのトラブルにわざわざ自分が出ていくこともありません
助けを求められたら話は別かも知れませんが、映画では警察の横暴にモノを申すというスタンスなので、自分からトラブルを招きに行っているようにしか思えません
なので、その初発の段階から不幸の連鎖が始まっていて、それが彩人の性格がもたらしたもの、のように見えてきます
これらの状況を回避するには、彩人自身が自分を知る以外に方法がないのですね
なぜか自分自身を過大評価している部分があって、それが結果として自分と周りを不幸にしているところがあります
父の借金を返せると思っていたり、弟に自由に格闘技をさせられると思っていたりするのですが、それに恋人を巻き込んでいることで不幸に道連れにしていることに無頓着なのですね
日向も彩人を支えていることに何かを感じているのかも知れませんが、結局のところ、彩人を肯定する人物と甘える人物しかまわりにはいないことが不幸を招いているように見えます
でも、人間関係というものは面白いもので、自分の思った通りの人がまわりに集まり、その決断を肯定するコミュニティができてしまうという不可思議な引力があると言えるのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、驚くほどに後味の悪い作品で、さらに「これは誰にでも起こる普遍的なもの」というメッセージが込められているように思えます
でも、多くの人が彩人のようにはならないと感じていて、それが他人事だからというものではないところにファンタジー感があるように思えました
親の介護をする人も、親の借金を肩代わりする人も、兄弟の夢のために犠牲になっても良いという人もいるでしょう
警官に不条理な仕打ちをされたり、無意味なことに首を突っ込んで損をしたりすることもあると思います
でも、最終的に自殺をするかどうかというところに行き着くのかというところは個人差があると思うのですね
本作の英題は「Young Stranger」ということで、直訳すると「見知らぬ人」というものになります
これは、こんな人が日本のどこかにはいるんですよという意味になっていますが、Strangerには「不慣れな人」という意味もあったりします
他人から見えれば「見知らぬ人」で、本人は「不慣れな人」という感じになっていて、この接点がどこかで生まれのか、生まれることもなくただ朽ちていくものなのかはわからない感じになっています
おそらくは、接点を築けない人がほとんどで、それが近しい人でも友人的な距離でも変わらないのですね
この接点というのは、いわゆる心の距離感のようなもので、最終的に接点を持つかどうかは壁の向こう側にいる人の選択になっています
本作の場合だと、彩人が心を開くかどうかにかかっていて、その扉は恋人にも開いていないように思えます
心を開くというのは言葉にすれば簡単なように思えますが、そのハードルはかなり高いものなのですね
ほとんどの人が心を開かないのは、その開き方を知らないだけではなく、そもそも開くことに意味を感じていないのだと思います
結局のところ、自分の問題は自分で解決するしかなく、誰かに何かを言ったところで、人生を賭けて踏み込んでくれる人はほとんどいません
そう言った世の中の非情さというものを感じているのですが、彩人自身はそうはなりたくないと考えているのですね
なので、無関係な職質に絡んだり、自分のものではない借金を返したり、父の意思に囚われて先行きの見えないカラオケバーを経営したりしています
自分はそうなりたくなかったという思いがあって、そして不幸が訪れるのですが、その後悔のようなものも、結局は誰にも伝わらないし、伝わっても時と共に薄れていきます
彩人が死んでしまったことで、彼に降りかかっていた問題というものは意味を為さなくなって、いずれは合理的かつ非情に整理されて行ってしまうもののように思えます
そう言った感覚が観終わった後に続くので、それが重たさになっているのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100238/review/04356519/
公式HP: