■わちゃわちゃの背景で、存在感を示した有能
Contents
■オススメ度
モキュメンタリー映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.10.19(京都シネマ)
■映画情報
原題:Theater Camp
情報:2023年、アメリカ、95分、G
ジャンル:ある経営難のシアターキャンプのひと夏を描くコメディ映画
監督:モリー・ゴードン&ニック・リーバーマン
脚本:ノア・ガルビン&モリー・ゴードン&ニック・リーバーマン&ベン・プラット
原作:ノア・ガルビン&モリー・ゴードン&ニック・リーバーマン&ベン・プラット『Theater Camp』
キャスト:
ベン・プラット/Ben Platt(エイモス・クロブシャー:演技指導担当)
モリー・ゴードン/Molly Gordon(レベッカ=ダイアン:音楽担当)
ノア・ガルビン/Noah Galvin(グレン・ウィンスロップ:何でも屋の技術屋)
ジミー・タトルロ/Jimmy Tatro(トロイ・ルビンスキー:ジョーンの息子、金融系ブロガー)
キャロライン・アーロン/Caroline Aaron(リタ・コーエン:「アディロイド・アクト」の共同創設者)
エイミー・セダリス/Amy Sedaris(ジョーン・ルビンスキー:「アディロイド・アクト」の共同創設者、ディレクター)
アヨ・エビデリ/Ayo Edebiri(ジャネット・ウィルチ:経歴詐称の新人)
ネイサン・リー・グラハム/Nathan Lee Graham(クライブ・デウィット:ダンス担当)
オーウェン・シール/Owen Thiele(ジジ・ジャルボニエ:衣装担当)
パティ・ハリソン/Patti Harrison(キャロライン・クラウス:「キャンプ・レイクサイド」の金融コンサルタント)
ベイリー・ボニック/Bailee Bonick(マッケンジー・トーマス:若きジョーン役、青いリボンの少女)
キンドラ・サンチェス/Kyndra Sanchez(ダーラ・サンチェス:成人ジョーン役を任される参加者、子役あがり)
ドノヴァン・コラン/Donovan Colan(デヴォン・ミラー:ジョーンの父親役、テコンドーができる13歳)
ヴィヴィアン・サックス/Vivienne Sachs(レイニー・フィッシャー:ぶん殴る女の子)
アラン・キム/Alan Kim(アラン・パーク:天才起業家になる参加者)
アレクサンダー・ベロ/Alexander Bello(セバスチャン・キャンベル:ブレイクダンスを披露する男の子)
ルーク・イスラム/Luke Islam(クリストファーL:巨漢の男の子)
ジャック・ソボレフスキー/Jack Sobolewski(クリストファーS:小柄な少年)
クイン・ティットコム/Quinn Titcomb(アリス・テイラー:センターで踊る小さい女の子)
マディセン・ローラ/Madisen Lora(フラニー・キング:ピンクのドレスを着ている女の子)
Jonatan Lengel(ボビー・カイ:電動車椅子の男の子)
Ceci Collura(ジェニカ・シモンズ:金髪ソバージュの女の子)
Max Sheldon(サレム:ファウンディング・ボーラーズのリーダー)
Tyrone Mitchell Henderson(デヴォンの父)
Prinscilla Lopez(エリザベス:ジョーンの同室の患者)
Jonathan Iturriaga-Dasilva(ティム:トロイの友人)
■映画の舞台
アメリカ:ニューヨーク
アディロンダック
https://maps.app.goo.gl/QGgPTjofXBBbiwSV7?g_st=ic
ロケ地:
アメリカ:ニューヨーク
ウォーウィック/Warwick
https://maps.app.goo.gl/PqVLUP6jm2ucf5Ss5?g_st=ic
アメリカ:ニューヨーク
Former URJ Kutz Camp
https://maps.app.goo.gl/kKHrXPzVHvRXmABh9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
ニューヨークにあるアディロンド・アクトでは、毎夏に子どもたちが参加するシアターキャンプが行われていた
キャンプの経営は子どもたちにも大人気のジョーンとサポート役のリタで行われていた
だが、余興のショーを見ていた時、フラッシュによるてんかんにてジョーンは失神して救急車で運ばれてしまう
急遽、息子のトロイが経営を担うことになるものの、演劇はど素人で子どもたちの人望もない
彼は裏方に徹し、演技指導のエイモスと音楽担当のレベッカが牽引することになった
キャンプには何でも屋のグレン、ダンス担当のクライグ、衣装担当のジジがいたが、人手不足のために新規雇用を行う
応募してきたのは経歴詐称のジャネットしかおらず、トロイはやむを得ずに彼女を採用した
キャンプにはライバルがいて、隣にはレイクサイド・キャンプがあり、そこは虎視眈々とアディロイド・アクトの土地を狙っていた
アディロイド・アクトは銀行への返済が滞っていて、今にも差し押さえ寸前で、レイクサイドの金融コンサルタントのキャロラインは、それを見越して近づいてくる
トロイは金策に走る中、キャロラインの思惑に振り回されることになったのである
テーマ:可能性は誰にでもある
裏テーマ:愛されることの尊さ
■ひとこと感想
同名のショートムービーを長編化した作品で、モニュメンタリーという手法で撮られています
モニュメンタリーとは、ドキュメンタリーに見せかけたフィクションで、今回は「アディロイド・アクト」のひと夏を追いかけたという風に演出されていました
創業者が倒れ、その代わりを素人の息子が担う中で、子どもたちが自由気ままに動き回る
そんな中で教師陣のプライベートでもいざこざが起きてしまい、ちゃんと本番を迎えられるのか?という緊張感が続いていきます
個性的な教師陣、個性的な子どもたちがわんさか登場し、本当のキャンプに参加しているような感覚になれる作品ですね
最後はほっこりする感じになっているので、意外な感動作になっていました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
トロイは、キャンプの経営不振に巻き込まれる素人ですが、自分なりに色々と模索していきます
その方法が斜め上なのと、基本的に抜けているキャラなので、さらにピンチを引き起こす格好になっていました
演劇の練習もトラブル続きで、レベッカの不在からエイモスが情緒不安定になり、子どもたちはマイペースという状態が続きます
そのわちゃわちゃ感の中で、意外な人物が才能を発揮していきました
特にグレンの活躍は素晴らしく、経歴詐称のジャネットが役に立つという展開はなかなか面白いものがありました
映画は、後半の演劇を楽しむための前振りが長いのですが、これくらいの長さがあればこそという感じになっています
ラストのオチも滑稽ですが、本作の場合、この物語のノリに乗り切れないとキツい印象がありますね
■シアター・キャンプとは何か
本作に登場するシアターキャンプとは、アメリカをはじめとした国で行われている「サマーキャンプ(Summer Camp)の一種のことを言います
キャンプには様々なものがあって、通常のサマーキャンプは、屋外での体験を通じて学ぶという趣旨で行われる合宿のような形態をしています
内容は、ハイキング、カヌー、キャンプファイヤーなどを楽しめる森などに出向き、舞台芸術や音楽、マジック、プリグラミングなどの様々なカリキュラムがあります
アメリカでは約75%の子どもたちが参加しているとされています
キャンプには色んな種類があって、「教育キャンプ」として「大学単位コース」「アカデミックアドベンチャーコース(高校生を対象とした野外冒険プログラム)」「SAT準備コース(推理テスト)」「学力強化コース」「国際天文学ユースキャンプ」「テックキャンプ(テクノロジー教育主体)」「語学・異文化交流キャンプ」などがあります
この他のキャンプとして、「アート・舞台芸術キャンプ」「スポーツキャンプ」「減量キャンプ」「LGBTキャンプ(内容はサマーキャンプ同様)」などがあり、本作の「シアター・キャンプ」は「アート・舞台芸術キャンプ」のカテゴリーに入ります
日本でもサマーキャンプは行われていて、ツアーを組んで郊外に出かけるものが多くあります
関東圏から信州に向かうものや、関西から兵庫県ハチ高原に向かうものなど、多くのサマーキャンプが存在します
さすがにシアターキャンプというのはなさそうですが、日本だと各種演劇学校の夏期講習がそれに近いと思います
また、学校行事の文化祭で「クラスの出し物」として行う場合もあって、同じような体験ができるプログラムというのは用意されていますね
■群像劇で個性を出す方法
本作の主役は、レベッカとエイモスに見えますが、実質的には群像劇になると言えます
物語は誰の側面からも見られるようになっていて、レベッカ目線だと「プライベートとキャンプの両立」、エイモス目線だと「キャンプの成功と諦め」になっています
キャンプを仕切るトロイの目線だと「キャンプの成功」よりは「存続」の方に舵を切っています
物語を進めていく要素は各種のトラブルや個人の思惑で、そのまとまりの無さから、どこに落ち着くかわからない展開を迎えていました
通常、群像劇というのは扱いが難しく、それは視点が定まらないことが原因になっています
誰もが色んなことを考えていてその方向に向かうために、視点の切り替わりごとに目的地が変わってしまいます
でも、本作の底流に流れているシナリオはトロイになっていて、彼の目的が達成できるかどうかが軸になっていました
それぞれのキャラクターも「自分とキャンプの関係性」に集中していて、それぞれの行動が「トロイの目的を左右している」ことになります
各キャラクターのエピソードが後ろに引っ張られないために、その場で解決に動き、一部のキャラクターのエピソードが薄めに描かれて伏線になっています
この伏線キャラが「前半のエピソードで目的が見えない」ところがあって、それが効果的な回収へとつながっているように感じました
全てのキャラを同じ温度差で描いてしまうと、伏線的なものが多く存在しているように感じます
でも、前半をわかりやすい目的で埋めて、そこに後半に繋がる微かな目的を組み合わせることで、前後半でのキャラクターの温度差というものが生きてきます
本作の場合だと、前半は「レベッカとエイモス」、後半は「グレイとジャネット」になっていて、さらに退場したはずのジョーンが再登場して、物語をうまくまとめることに繋がっていました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、短編を長編化したものになっていますが、その短編を見たことがありません
ググっても、ツベっても出てこないので、誰でも観られるプラットホームにはないのかもしれません
映画は、とにかく楽しめる内容になっていますが、パンフレットにもう少し頑張って欲しかったかなと思います
特に子どもたちの情報をかき集めるのが大変で、集合写真一枚ではググることもできません
英語サイトを軒並み読みながら、誰がジョーン役をしていたかなどを追っていきましたが、子役の情報は国内外と問わずにかなり少ないので困ってしまいます
映画では、子どもが本当に自由に飛び回っていて、それでもキャスト選別にはシビアな現実が加味されています
そこで、メインキャストではなく別の役割を与えようと考えたり、適材適所を見抜く力というのはとても大切で、一歩間違えれば子どもたちの未来を変えてしまう瞬間が訪れます
でも、適性のない者を引っ張ったり、資金提供を理由に出番を変えたりするとモチベーションは一気に下がります
子どもたちは大人たち以上にお互いをリスペクトし合っていて、子どもたちの中で生まれる共通認識と大人の判断の乖離というものを常に見ています
これはシアターキャンプだけの話ではなく、クラブ活動などのメンバー構成選出時にも見られるものなのですね
ここには社会の縮図があって、理不尽に見える選出というのは、子どもたちに影響を与えるというよりは、そのコミュニティの質を下げる要因になっていきます
リスペクトできない存在の抜擢は、非協力的な動きを誘発し、それによって「恥をかかせてやろう」という歪な方向に向かいます
大人たちは、子供達が純粋ゆえに残酷であるということを踏まえた上で、その選択と結果に責任を持ちつつ、子どもたちの想像を超える必要があります
本作のグレンとジャネットが偶然の選抜だったのか、トロイが見抜いていたのかはわかりませんが、彼らの資質については、子どもたちの方がよく知っていたのかもしれません
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://www.searchlightpictures.jp/movies/theatercamp