■「THIS MAN」のルーツを理解し、ネット発祥ホラーの思い込みを利用すれば良かったと感じました
Contents
■オススメ度
インターネットミーム由来のホラー映画に興味のある人(★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.6.10(MOVIX京都)
■映画情報
情報:2024年、日本、89分、PG12
ジャンル:「ある男」が夢に出ると死ぬと言われる社会の混乱を描いたホラー映画
監督&脚本:天野友二朗
原案:インターネットミーム「This Man」
キャスト:
出口亜梨沙(八坂華:幸せな生活を送る妻)
木ノ本嶺浩(八坂義男:華の夫)
桑原のえ(八坂愛:華と義男の娘)
鈴木美羽(玲:華の妹、女子高生)
小原徳子(井上愛実:華の大学時代の友人、潔癖症)
茜屋日海夏(山本咲:華の大学時代の友人、「あの男」をベッドで目撃)
校條拳太朗(天辻新:義男のジム友達、刑事)
津田寛治(井沢司:天辻の相棒のベテラン刑事)
江藤あや(井沢刑事の妻)
渡辺哲(雲水:呪術師)
中山功太(極楽寺:雲水の唯一の弟子)
般若(雷豪:雲水を見下す呪術師)
大久保レネリー蓮(雷豪の弟子)
露木卓正(雷豪の弟子)
大山大(あの男/天海:夢に出てくると死ぬと言われる男)
アキラ100%(植松誠一:華のバイト先の上司、パティシエ)
荒木双葉(山岸千絵:華のバイト先の同僚?)
北原帆夏(冝保愛:連続変死事件の10人目の被害者)
松林慎司(田中義郎:冝保を殺してしまう男)
園山敬介(矢崎学:華を襲う謎の男)
入江崇史(取材を受ける精神科医)
獣神ハルヨ(精神科医の妻?)
伴優香(日野美佳:薬を飲む家族)
竹田哲朗(日野準:薬を飲む家族)
松井彩葉(薬を飲む家族の娘)
三原哲郎(検視官?)
秦真一(本村:電気作業員?)
中村成志(オフィスで死ぬ男?)
児玉拓郎(留置人)
鈴木孝之(留置人)
■映画の舞台
日本のどこかの地方都市
ロケ地:
東京都:伊豆大島
■簡単なあらすじ
幸せな生活を送っていた華と義男は、子宝にも恵まれ、可愛い娘・愛を授かっていた
夫の仕事も充実し、何不自由ない暮らしをしていた華だったが、ある日を境にその生活は暗礁に乗り上げてしまう
その頃、日本各地では「ある男」を夢で見た人々が不可解な死を遂げており、その余波は彼らが住む街にも押し寄せていた
刑事の井沢と天辻が捜査にあたったところ、ある精神科医から「ある男」を見たと言う患者が増えていることを知る
だが、そんな荒唐無稽な話を捜査の主軸にするわけにはいかず、地道な捜査を続けていた
ある日、友人の愛実と咲に会った華は、二人から「ある男」を見たと言われてしまう
「今、こうして無事だから大丈夫」と言うものの、愛実は自分の体をピーラーで削って失血死し、咲も正体不明の男に襲われて殺されてしまった
そして、とうとう華の夢にも「ある男」が現れてしまう
華は、生前に友人から教えてもらった呪術師・雲水の元を訪ねることになった
だが、雲水は「呪いを消すことはできないが、誰かに移すことはできる」と言われてしまうのである
テーマ:因果応報?
裏テーマ:連鎖する思い込み
■ひとこと感想
レビューサイトで酷評の嵐だったので、どこまでヤバいんだろうと思って構えていましたが、これまたすごいモノが公開されたなあと感心してしまいました
インターネットミーム由来のホラー映画で、つくりは非常にチープで、背景の合成感も強烈な爪痕を残しています
冒頭の「うふふ」展開からダメだろうなあと思っていましたが、「ある男」がチラッと映った瞬間に、これは笑ってはいけないホラー映画は始まったことを確信しましたね
元ネタを知っている人なら、頑張って再現した感がわかると思いますが、あの映像を日本人でやるとこうなってしまうのだなあと思わされてしまいます
物語は、次々と人が死んでいくけど理由はわからないと言うものでしたが、それを呪術にしたことで、一気にチープさがマックスになってしまいました
これ、海外で作ると悪魔になる奴だなと言う感じで、日本なので呪術師(霊媒師)みたいな人々が念仏を唱えて戦うと言う構図になっていました
日本的な危機なのに、数人の呪術師で立ち向かうのは笑ってしまいますが、そこに主人公が混じってどうするんだろうと言う感じになっています
とにかくツッコミどころしかない映画なので、マニアが記念に観る以外にはオススメできません
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
呪術でしたもどうかと思いますが、対策ができないので安楽死を合法化する政府がサラッと描かれているのはビックリしてしまいます
「あの男」を見たことで多くのキャラクターが自死していて、刑事の井沢夫婦、精神科医夫婦も薬を飲んでいましたね
最終的には数人の呪術師の活躍と、「連れていくなら俺を連れていけ」にビビった黒幕が「帰って行った」の一言で終わってしまうのですが、その規模で対抗できるなら、最初から手を組んで倒せば良いのにと思ってしまいます
あの展開なら、口の悪いライバルは無駄に死ぬだろうし、最後に雲水と主人公が残って、華が抱えた罪悪感などの強烈な感情が相手を打ち負かすと言う感じになりそうに思えます
テーマ性がよくわからず、愛の強さを描きたかったのか、安楽死合法について何かを語りたかったのかなど、よくわからないところで終わってしまいましたね
ラストでなぜか解放された妹とハグして終わるにも無茶で、本当に何を見せられたんだろう、と言う感じに困惑してしまいました
■「THIS MAN」とは何か
「This Man」とは、2006年頃に世界中で流行した謎の人物のことで、多くの人の夢に登場したとされる現象のことを言います
2008年にイタリアの社会学者でマーケティング担当だったアンドレア・ナテラが「この男を夢で見たことがあるか?」というウェブサイトを立ち上げることになります
ウェブサイトには、2006年頃にある精神科医の複数(最初は4人)が見たという証言があり、その後、このウェブサイトには9000件を超える報告があったとされています
最終的にはナテラによるゲリラマーケティングであることが発表され、キャンペーンの一環として行われたものであることが判明しました
このウェブサイトは2009年10月にマスコミやネットユーザーによって注目の的となり、『X-ファイル』や数々の漫画などに登場するようになりました
2006年の1月にニューヨークの精神科の複数の患者から「この男が繰り返し夢に登場する」という報告があがりました
この証言を精査したところ、ニューヨークの他にはロサンゼルスやベルリンなどを含めた世界中から8000人以上の人々が眠っている間に見たと主張したことがわかっています
夢の中の彼の行動は様々で、性的なものもあれば、襲って殺すもの、人生のアドバイスを与えるなど、様々なものがありました
2015年のViceのインタビューにて、サイト制作者のアンドレア・ナテラは、2008年の冬に初めてこの男の夢を見たと言い、その男の指示に従ってサイトを作ったと語っています
サイトは「ThisMan.org」というウェブサイトで、Ultimate Flash Faceというアプリにて「This Man」にそっくりな画像を作り、掲載することになりました
ナテラはウェブサイト上で、「この男はユングの概念の一つ」「神の姿を表したもの」などの多くの理論を提唱し、この男が夢で登場する理由を説明していました
2010年、ナテラは自身が設立したアートエージェンシー「KOOK Artgency」にて、「宣伝活動としてThis Manの物語を創造した」と暴露しています
これはインターネットの影響を調べるものだったそうで、その効果は現実にも影響を与えることになってしまいました
■勝手にスクリプトドクター
本作は、「ある男」を見たら死ぬという設定がありますが、ネタ元は見たら死ぬということはありません
あくまでも、どこかで潜在意識に刷り込まれている映像が意味を持ったというもので、本作は「ある男」をベースにしてホラー映画を作ろうと考えたのだと思います
ホラー映画なので、次々に見た人が死んでいくという展開を迎え、友人、家族というふうに広がっていくのはテンプレートのように思います
それでも、その現象の解明はされず、「ある男を見たら死ぬので、死に方を選びましょう」という突飛もない政府の動きというものが挿入されていました
ある男に殺される側ならまだしも、ある男を見た人に近づいたら操られて殺してしまうという意味不明な設定があって、いつか自分が加害者になるならと思って死ぬってことなのでしょうか
刑事も精神科医も薬を飲んで死にましたが、彼らがある男を見たのかはわからないままでしたね
社会情勢として、見ていない人も死を考えるという世界観になっていて、流石にこれで押し通すのは無理だろうと思ってしまいます
さらに、ある男には特定の人物がいて、それが日本人の呪術師であることがわかります
彼が追放された恨みを持っていたということになりますが、その動機でこの規模の被害というのはあまりにもバランスが悪いのですね
さらに、彼を全く倒せないのかと思えば、数人でいとも簡単に倒せてしまうので、被害を拡大させたのは呪術師同士の諍いということになってしまいます
彼らの世界で起こったことが発端なのに、強すぎるから逃げるとか意味がわからないように思いました
このシナリオを直すのはとても手間がかかりますが、ラストの政府主導の安楽死容認というものは無くした方が良いでしょう
そもそも夢で見たという供述を信用して薬を処方するのかなど、どのような経緯と手段で全ての国民にあの薬が行き渡るのかなどわからない部分が多いのですね
製造する人が先に飲んじゃって死んだら生産ラインは止まるので、国民に出回るためには「薬を作る人」「売る人」「運ぶ人」などのインフラ関係は「行き渡るまでお預け」という状態になっています
彼らがどの段階で「あの男」を見るのかすらわからないのに、どうやって実現させているのかはわからない部分があります
安楽死を分けて考えるならば、呪術師の恨みが募り募ってというのはありでしょう
そして、彼が刑事の仮説通りに潜在意識下で繋がることで、不特定多数の夢に出現することができるというのもありでしょう
となれば、解決策も「どこにいるかわからない犯人」を潜在意識下で探すということになり、その呪文とやらを世界中のスピリチュアルな面々で一斉に唱えるぐらいの規模は欲しいところなのですね
日本全国で起こっている割にはインフラとかも生きているし、さほどディストピアにすらなっていません
そもそも映画内の時間の進み方が全くわからないのですが、各地である男を見た人が次々に死にだすと、様々なものが止まります
薬はわずかしか製造できず、それを奪い合う展開になるなどの、ちょっと考えれば起こりそうなことすら念頭に置かないのは、随分と漏れ漏れなシナリオだなあと思ってしまいました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、ある夫婦に訪れた「世界規模の厄災」を描いているように見えるのですが、実際には群像劇のようになっています
冒頭のウフフ映像からの結婚、出産、娘の成長はほぼワンフレーズのような感じで描いているので、この家族に起こることは何かというのが主題になっています
群像劇だとしても、基本的なシナリオだと開始20分の段階でほぼメインキャストを登場させ、物語の行く末を暗示させる必要があります
映画の前半は猟奇事件を追うミステリーで、後半は呪術大戦のようにカテゴリーチェンジをしているのですが、前半の刑事たちの推察を後半で否定する流れになっていました
ミステリーパートでは、刑事の一人が「精神は深いところで繋がっている」という仮説があり、後半ではスルーする流れになっているのですが、これは勿体無い流れだなあと思いました
現実主義の先輩刑事が理解できずに服薬自殺をするのは理解できますが、もう一人の刑事まで殺してしまうと、この仮説も死んでしまうのですね
呪術師たちが集まって犯人を成敗する流れになっても、その超常的なものがどのように相手に作用しているのかはわからず、ここで精神が繋がっていることを利用するという流れが良かったように思います
あのラストの儀式の中で、その仮説を知っている人物がいることが必要なのですが、それがなくても呪術師がその概念を肯定するという流れで、世界規模で起こっていることが「それを悪用している」と断罪する流れが必要になってきます
オカルト系で着地させるのは問題ないと思いますが、これ以外に対応策を思い浮かばなかったという実情はあったと思います
でも、インターネットミームをネタにしているならば、ハッカーによる全ての広告媒体へのサブリミナル侵略みたいな、利用者がそれと知らずにいつの間にか洗脳されていたというパターンの方が理解しやすいように思います
なぜ、誰もがあの男を見るのかというのは、潜在意識に刷り込まれているから夢に出てきたというもので、それを物理的に仕掛けている愉快犯がいた、という方がしっくりきます
なので、解決策としては、そのハッキングの手口を看過し、その方法を利用して洗脳を解くという方法になります
不特定多数の人間がアクセスし、知らない間にSNSで拡散されているという社会情勢、これに加えてSNSの嘘情報の拡散、誹謗中傷などの問題を絡ませた方が、社会情勢にも合っていると思うのですね
ある男から攻撃的になるキーワードは潜在的な暴力的欲求が作動するとか、自殺衝動に関するものもそれを誘発することになるというので辻褄が合ってきます
彼らのインターネット利用をスクリーニングしていく先で見えてくる「ある広告の存在」みたいなものがあって、その映像コンテンツにある男が登場する(潜在意識で見えるもの)というカラクリがあれば、元ネタと繋がっていくように思えます
本作は、元ネタと物語の結び付け方が無理矢理で、元ネタの表層的なものだけを利用しているように思います
これでは何の意味もなく、これまでに公開されたインターネット発祥の怪談にただ無意味に結びつけているだけになっています
なので、そのイメージをうまく利用して、現実的な落とし込みをした方が効果的だと思います
具体的に言えば、呪術的な解決を前半に出して、そっち系と思わせておいて、実はサイバーテロだったと結ぶ方法です
刑事の推論は半分当たっていて、彼の思う潜在意識は実はネット社会だったというふうに繋げれば、「記憶を外部に移行しつつある現代社会」において、概念のコピーはそこで恣意的に行われているという警鐘を発することができたように思えました
うーん、シナリオ書いてみようかなあ(なんとなくラストまで話が浮かんでしまいましたよ)
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101154/review/03916265/
公式HP: