■彼女にとってのもう一つの隻手が、社会であれば良かったのだろうか?
Contents
■オススメ度
沖縄の現状に興味のある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.7.25(アップリンク京都)
■映画情報
情報:2023年、日本、128分、PG12
ジャンル:沖縄を舞台に、未成年のキャバ嬢の閉塞を描いた社会派ヒューマンドラマ
監督&脚本:工藤将亮
キャスト:(わかった分だけ)
花瀬琴音(アオイ:17歳のキャバ嬢)
石田夢実(海音:アオイの親友、キャバ嬢)
佐久間祥朗(マサヤ:アオイの夫)
長谷川月起(健吾:アオイの息子、2歳)
松岡依都美(由紀恵:マサヤの母)
カトウシンスケ(喜屋武:由紀恵の恋人、もしくは夫)
小倉綾乃(マキ:キャバ仲間)
NENE(アミ:キャバ仲間)
奥平紫乃(シノ:キャバ仲間)
宇野祥平(ヒロシ:アオイの父)
吉田妙子(おばあ:アオイの祖母)
高橋雄祐(山城:風俗のドライバー)
中原歩(冨原:海音の知り合いのクラブのオーナー)
來河侑希(朝光:海音の恋人)
岩谷健司(城間:クラブのオーナー?)
岩永洋昭(竹原:未桜組の社長?)
米本学仁(巨漢の風俗の客)
朝比奈知樹(スマホいじる風俗の客)
リム・ヤーワイ(中国人の風俗の客)
浜田信也(観光客、キャバクラの客)
栗田学武(観光客、キャバクラの客)
外間剛(キヨタカ:?)
親川心音(キャバ嬢風の女)
上地春奈(上原:?)
きゃんひとみ(安座間:?)
早織(宮城:児童相談所の職員)
仲宗根久乃(儀間:児童相談所の職員)
尚玄(島袋刑事)
池田成志(新里弁護士)
■映画の舞台
沖縄県:
沖縄市ゴザ
https://maps.app.goo.gl/6UmJA3puqvNhv3x16?g_st=ic
ロケ地:
沖縄県:うるま市
美桜組
https://maps.app.goo.gl/ey51sRD2qcuWzVyd6?g_st=ic
シルミチューの浜(ラストシーン)
https://maps.app.goo.gl/JuFXFbaC2VjbZMdy7?g_st=ic
沖縄県:那覇市
GRGホテル
https://maps.app.goo.gl/xwhCXVZ4sQKS8zsQ6?g_st=ic
波の上ビーチ
https://maps.app.goo.gl/8tPdVENMGP85QRKw7?g_st=ic
CLUB BACH
https://maps.app.goo.gl/3NctcWEaxc7ytmSw9?g_st=ic
沖縄県:沖縄市
OKINAWA CITY HOTEL
https://maps.app.goo.gl/DJMHZnj9WsRLeGx27?g_st=ic
BAR MOLE
https://maps.app.goo.gl/Aw7JxqZpMwxd2XwQ8?g_st=ic
NEW BABYLON
https://maps.app.goo.gl/J7pMZq3S75BM23aB8?g_st=ic
SLUM BAR
https://maps.app.goo.gl/SEkKrEQAKmcR89ha6?g_st=ic
BAR NIKITA
https://maps.app.goo.gl/jMMKynHJX6z92wsw9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
沖縄のコザに住んでいるアオイは、17歳で2歳の息子を持ち、キャバクラで働き生計を立てていた
夫のマサヤは定職につかず、酒に明け暮れていて、将来設計など微塵も考えていない
ある日、アオイの働く店が警察の摘発にあってしまい、彼女は職を失ってしまう
督促状の見通しは立たず、それでも母親には頼りたくなかった
アオイは時折、息子の健吾を祖母やマサヤの母・由紀恵に預けていたが、とうとう自分自身も転がり込まざるを得なくなる
親友の海音は知り合いのクラブに掛け合うものの、摘発が厳しく雇えないと言われる
そして、手っ取り早く稼ぐなら「ウリ」しかないという
だが、アオイにはその適性はないと言い放ち、彼女の中に何かが変わり始めていた
テーマ:貧困をもたらすもの
裏テーマ:貧困が呼び起こすもの
■ひとこと感想
沖縄の今!というふれ込みの本作は、17歳でキャバ嬢になるしかない女性を描き、クズ男に搾取されている現実を紐解いていきます
率直な感想としてが、沖縄だからこの問題があるわけではなく、沖縄の情勢からこのような流れになりやすいという印象を受けました
実際に沖縄に行ったことはありませんが、遠くから見ているイメージだと観光業がコロナ禍に左右され、基地問題で揺れているという感じで、メディアの報道のどこまでが沖縄の姿を捉えているのかは疑問が多いと感じています
本作では、無学の連鎖の末に、無計画な出産をしたが為に堕ちていく母親を描いていて、でもどうしてマサヤを切らないのかはわかりません
マサヤを切れば頼れるのがおばあだけになると思いますが、彼との関係を続けていく意味はほとんどないと言えます
この辺りの選択と感情が理解できない部分が多く、アオイの選択のすべてに説得力を感じないのですね
私個人も貧困時代はありましたが、その原因となるものは真っ先に切り捨ててきたので、自分だけが沈む未来に向かう選択は理解し難いものがありました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は、とにかく悲惨の連続で、男性に搾取され続ける若者を描いていきます
アオイがどうして耐えるのかはわかりませんが、それ以外の考えが及ばないというものがあったように思います
実母は登場すらせず、実父も「二度と来るな」と縁を切られていましたね
親子関係がここまで拗れるのに、アオイに非がないということはあり得ないでしょう
17歳で2歳の子どもがいるということは、15歳で出産をしていて、それによって高校には行っていないことになります
この時の出産が親子の縁切りにつながっていると推測されますが、父が孫すら気に掛けないというところまで拗れているのは相当なことだと思います
それとも、父も極悪非道な人間だったということなのでしょうか
映画では、おばあ以外の人物はすべておかしな人ばかりです
暴力的で自己中で、それがこの街の気質なのかのように統一されていて、それは本当なのか?と勘繰ってしまいます
助け合う精神は皆無で、自分の快楽だけを追求して相手を搾取するだけの人生
これが沖縄の現実で、これがマジョリティだとしたら、基地問題どころの騒ぎではないように思えました
■沖縄と貧困について
貧困と言う言葉をどう考えるかは難しく、基本的には「相対的貧困」と言う言葉がしっくりくると思います
「相対的貧困」と言うのは、社会の中における「相対的」なものであって、社会が豊かになって中央値が上がると相対的に貧困と呼ばれる幅が増えると言うことです
例えば、年収500万が中央値で貧困が200万(40%)だとすると、中央値は600万になると240万未満が貧困になると言う考え方になると言えます
ただし、中央値が下がり続けると貧困値が下がり、それには限界があると思います
なので、「最低限度の生活水準を下回るもの=貧困」と言う考え方にもなります
相対的貧困率の推移は、1985年の段階で12%ぐらいだったものが、2018年の段階で15.7%と緩やかに上昇しています
子どもの貧困率に関しては、10.9%から13.9%(2015年)になっていて、こちらも緩やかに上昇しています
子どもがいて大人が二人だと「9.6%→10.7%」、子どもがいて大人が一人だと「54.5%→50.8%」となっていて、数字的には横ばいに見えますが、大人二人世帯と一人世帯だと5倍もの開きがあります(厚生労働省:世帯構造別相対的貧困率の推移による→URL:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/17/backdata/01-02-01-18.html
沖縄の相対的貧困率に関しては、多くの人が独自の計算をされていて、山形大学の戸室健作准教授の「近年における都道府県別貧困率の推移について ワーキングプアを中心に」の中では、沖縄県は29.3%(2007年)となっていて、この年の全国平均は14.4%なので、ほぼ倍ぐらいの相対的貧困率になります
同じく、戸室健作准教授が調べた「都道県別のワーキングプア率」では、沖縄県は34.8%(2012年)で、全国平均は18.3%なので同じような割合になっています
沖縄県の最低賃金は那覇市のホームページによると「時間額853円(令和4年)となっていて、全国加重平均額は961円(厚生労働省の地域別最低賃金の全国一覧)となっています
この最低賃金の低さがワーキングプアの一因になっています
また、総務省統計局による「消費者物価地域別指数」によると、沖縄県の食糧費の物価は高く、住居・教育は安いと言う結果が出ています
全国の消費者物価指数平均が100とすると、沖縄県は全体は99.6ですが、食糧費は104.9と全国で一番物価が高いのですね
なので、単純に考えると、賃金が安くて食料が高いことになるので、その他の消費は減ることになります
食費を抑える=食料が減ると言う構図になるので、それによって栄養状態が悪くなるのですが、「厚生労働省の国民基礎調査の概況(平成25年)」を基にランキングを作ったサイト「都道県市区町村」では、沖縄県の有訴者率は「男性:23.85、女性:30.64」で、男性・女性ともに全国で最下位となっています
ちなみに有訴者率とは、「病気やケガなどで自覚症状のある人」と言う意味になります
さらに、同じサイトの数字を引用しますが、通院率は「男性:30.95、女性:32.83」となっていて、こちらも全国で最下位なのですね
有訴者率も低いけど、通院も低いのですが、有訴者率の全国平均は「男性:27.68、女性:34.53」で、通院率は「男性:35.88、女性:39.63」なので、病院に行っている人は少ないことになります
有訴者は国民生活基礎調査によるものなので、それに答えた人の中での割合になります
ちなみに県別まではわかりませんでしたが、全国的な国民基礎調査の回収率は「68.4%」で、九州地方は「65.0%」でした(令和4年、厚生労働省発表)
なので、実際の数字はもっと悪いと考えた方が良いかもしれません
■アオイが取るべき選択肢とは何か
映画だけを観た感想だと、アオイの貧困の原因は男選びの失敗と言う感じになっています
15歳で出産に踏み切った理由は描かれないし、アオイとマサヤの出会いなどの経緯はわからないので、あくまでも現状を見ると、と言うことになります
マサヤの家庭はそこまでの貧困層ではありませんが、アオイの家庭はそこまで裕福ではないでしょう
おそらくは漁業に従事していて補助金が減ったと言う話をしていたので、補助金がないと生活に影響があるほど経済状況は悪いと言うことになります
アオイの15歳の決断によって、彼女の両親とは絶縁状態になっていて、しかもマサヤがまともに働いていない状態なので、貧困に拍車が掛かっています
マサヤは建設会社で働いていましたが、出勤率は悪く、最終的には雇えないと言われていました
彼には妻子を養うと言う責任感も自覚もなく、妻が稼いだ金をアルコールに浪費して、音信不通になったり、機嫌が悪いと暴力を振るいます
これ以上ないくらいにクズ男なのですが、アオイも殴られた後に彼と別れようとも考えないし、友人の海音と記念写真を撮ったりと、危機意識の欠如が見られています
アオイがこのような状況になったのが、教育なのか環境なのかはわかりませんが、普通に考えるとどっちもと言うことになります
親の教育も悪いし、生育環境も悪いし、道徳を教える環境もない
それはアオイの両親もマサヤの両親も大差なく、最悪が組み合わさった結果、予期できる方向に向かったと思えてなりません
しかも、海音も自殺をしてしまうのですが、彼女の背景は全くわからない(彼氏はマサヤと遜色ないぐらいクズっぽいのですが)ので、この街には希望がないと言うことを強調する意味合いであのシーンが描かれているように思われます
アオイの状況で生活の改善をするなら、健吾を公的機関に預けて、マサヤと離婚するしかないでしょう
それを言い出すと暴力を振るうのでしょうが、それで警察に駆け込むしかないと思います
アオイ自身が暴力を振るわれた際に警察に届出を出して逮捕されいれば、マサヤがその後事件を起こすこともなかったでしょう
ちなみにマサヤが起こした事件は刑事事件なので、刑法は個人責任を原則としているので、家族が責任を追うことはありません
でも、被害者家族の意識として、家族が犯罪を止められたのではないか、と言う感情が湧いてきます
この感情は止められないので、その後「逮捕された人の妻である」と言うレッテルが生まれ、それによる二次被害というものが生じます
犯罪者が職を失うだけならまだしも、犯罪者の家族というだけで職を追われることもあるし、誹謗中傷が起きるのが現実だと思います
その後、個別で対応し、法的な対策もできると思いますが、渦中ではそんなことをしていられないのですね
なので、できる対応は「可能性のある人間と関わらない」ということになります
この観点だと、マサヤの対人暴力が発覚した段階で、他人にもそれを行うかもしれないと考えて離縁するしかないでしょう
何が起きても支えるという覚悟があるならば構わないと思いますが、彼にその価値があるのかはわかりません
第三者的に見れば無価値の人間(むしろ有害)な人間だとしても、本人にとってはということが往々に考えられるので、彼女自身がマインドを切り替えられるかどうかに掛かっています
この段階を越えられなかったアオイは、児童相談所の世話になるのですが、そこから息子を強奪するという手段にでます
すでに押さえは効かない状態で、健吾を巻き込んで入水自殺をするのですが、それに至るまでに彼女自身に救いを差し伸べた人はいないのですね
唯一の良心はおばあの存在ですが、高齢者ができることは少なく、健吾をたまに預かるぐらいしかできないのですね
児童相談所が介入する段階になって、ようやく健吾を引き取って育てても良いというマインドになるのですが、そのマインドがもっと早い段階で生まれていれば、アオイが昼の仕事を続けられた可能性はあります
でも、昼の仕事の割の合わなさというものが、夜の仕事で楽に稼げた経験から、相対的に苦痛になっているのですね
なので、おばあが健吾を育てても、結局は同じ道を歩んでいたかもしれません
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、ある若い男女の顛末が描かれていて、その場所には絶望しかないという感じに描かれています
でも、同じ場所にいて、他人を搾取することでしぶとく生きている人もいて、その違いは何なのかを考えさせられます
アオイがこのような人生で終わったのは、性教育の不十分さ、道徳観念の教育のなさ、中絶に関する費用の問題、学業中退、低学歴による職業の選択の不自由などの社会的な要因から、非合法ゆえに高額で楽に稼げる仕事という環境もありました
結局のところ、お金に対する概念はズレていたことが原因で、その原因を作り出したのが「その構造を作った大人と顧客」であると考えられます
17歳でキャバクラで働ける環境は受け手がいるから成熟している業界で、非合法ゆえの背徳が助長している世界でもあります
映画では、観光客がそのような店でお金を落とすという構図になっていて、沖縄は観光によって、外部からお金を得た潤うという構図があります
なので、そういったものを求める観光客というのも一定数いるのだと思います(観光統計調査による旅行目的、その他の5%って何なんでしょうねえ)
沖縄県の環境客による収入などの統計は出ていますが、あくまでも表のお金だし、風俗ですと答える人はいないので、実際にはわからないところがあります
収入統計に上がらないお金もあれば「大まかには保養・休養に含まれそう」ですし、勘繰ると色々とあるのかもしれませんね
映画の中に登場する人物のほとんどは自己中心的で閉鎖的という印象がありました
実際にこの地の人全員がそうとは思いませんが、映画の中では特化してそのような印象を作っていたと思います
実情を促しているのか、問題を明確にするための演出なのかはわかりません
沖縄では「門中」という始祖を同じくする父系の血縁集団を大切にしていて、「門中墓」というものがあります
「門中」には嫁いできた女性は含まれず、男性社会の血縁のことを指します
嫁いできた女性は生家の門中のまま、両方に属する、夫方に入るというケースがあり、様々な扱いになっています
沖縄の門中を基礎とする家父長制社会は、墓守として男子が重宝される歴史があったのですが、その分責任というものが生じてきたはずなのですね
なので、マサヤは自分の属する門中の中において、もっと責任感を持って、家族を守る必要があったと思います
マサヤの父はおそらくは喜屋武だと思うのですが、彼のマサヤへの行動と関わり方を考えると、実父ではなく母・由紀恵の彼氏なのかなと感じてしまいました
この関係性は少ししか描かれずにわからなかったのですが、自堕落な息子に対する父としては、かなり距離感を感じていて、それゆえにマサヤは好き放題しているのかなと思います
映画は章立てになっていて、「子供たち」「ウガンブスク(拝み足りない)」「隻手の声(隻手=片手なので、片手を打ち合わせても音は鳴らない)」「海の音」「遠いところ(沖縄の語源)」「母へ」という流れになっていました
「ウガン」には「御願、拝む」という意味があって、「ブスク=不足」となります
「隻手の手」は禅の言葉で、白隠慧鶴が考案したものになっています
この章では「母親の不在」が仄めかされていて、父親だけではどうにもならないというような意味になっていますが、実際には「隻手である父親」は役に立たないという感じになっていました
この章がとても印象的で、アオイとマサヤの関係が「隻手の声」の状態になっているのですね
それゆえに、マサヤ(夫)の存在が家族にとってどれだけ重要かということがわかります
アオイが健吾と入水自殺をしたことをマサヤは聞くことになりますが、それが起きて初めて父性に目覚めるのか、楽になったと考えるのかは微妙なところですね
そこを描かないところが良心のように思えますが、おそらくは「楽になった」と開き直るような感じがして、アオイには本当に救いがなかったのではないかと思ってしまいます
アオイがこの状況を変えるには、隻手で音を打ち鳴らすか、新しい隻手を探す必要があったと思うので、それにはマサヤとの離別が最低限必要だったのではないかと思わずにはいられません
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/383214/review/0637a72d-5539-47e2-8028-2819b986454a/
公式HP: