■憧れの根源は、その人にしかできないことが始まったとき
Contents
■オススメ度
青年の主張映画が好きな人(★★★)
キャストのファンの人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.8.15(MOVIX京都)
■映画情報
情報:2024年、日本、98分、G
ジャンル:文学を愛する高校生が訳あって新聞の道に進む様子を描いた青春映画
監督:小林啓一
脚本:大野大輔
キャスト:
藤吉夏鈴(所結衣:櫻葉学園高校の1年生、文学オタクの新聞部の新米記者)
髙石あかり(杉原かさね:新聞部の部長、2年生)
中井友望(恩田春菜:新聞部の副部長、2年生)
石倉三郎(山本:新聞部の部室のオーナー、印刷屋)
久間田琳加(西園寺茉莉:文芸部の部長、2年生)
綱啓永(松山秋:元文芸部の不登校の生徒、3年生)
外原寧々(片岡姫香:文芸部の副部長、2年生)
八木響生(ミクル:文芸部の新入部員)
ゆうたろう(田島:ドローンで新聞部に協力する生徒)
高嶋政宏(沼原栄作:学園の理事長)
上甲裕衣(沼原の秘書)
柿森まなみ(ビストロ沼原の店員)
筧美和子(山内:セクハラ被害を受けている女教師)
長田拓郎(草間:山内にセクハラをする体育教師)
中山求一郎(国分:元教え子と不適切な交際をする教師)
愛下哲平(森永:違法賭博をする教師)
麻木貴仁(重岡:校長先生)
山口森広(野口杉夫:文芸コンクールの審査員をする小説家)
澁澤真美(隅田尚子:文芸コンクールの審査員をするコラムニスト)
有山尚宏(渡辺一徹:文芸コンクールの審査員をする文芸評論家)
岸田百波(コンクールの司会者)
戸田恵子(前島勝美の声:かさねが憧れる伝説の記者)
広瀬寿子(前島勝美の手)
宇乃うめの(高校の事務員)
零下永紡(国分先生の交際相手)
前田青紀(高校の生徒)
瀬谷直矢(高校の生徒)
五十嵐諒(居酒屋の店長)
渡辺慎一郎(新聞社の面接官)
山本宗介(新聞社の記者)
■映画の舞台
日本のとある高校
ロケ地:
埼玉県:新座市
跡見学園女子大学 新座キャンパス
https://maps.app.goo.gl/jgCFEbNxRHBNRyGz7?g_st=ic
東京都:北区
女子聖学院中学・高等学校
https://maps.app.goo.gl/HcEU4CE3QiX36d296?g_st=ic
■簡単なあらすじ
高校に入学したばかりの結衣は、憧れの作家に会う目的で文芸部に入ろうと思っていた
だが、文学部の入部試験の最中、突然入ってきたドローンに邪魔されて落ちてしまった
再試験をしてもらえなかったが、文芸部の部長・西園寺はある提案を持ちかけた
それは、昨年の文芸コンクールで幻の大賞だった緑橋このはの正体を突き止めてほしいというもので、それを理由に新聞部を探ってほしいというものだった
新聞部は学園非公認の存在で、校内に部室がなかった
結衣は新聞部の募集要項のQRコードを辿り、無事に隠れ家を見つけることができた
新聞部は街の印刷工場を間借りしていて、部長のかさねと副部長の春菜の2人だけだった
彼女たちは、学校の闇を暴くべく街に出て、そこで様々な取材を行なっていた
そして、緑町このはは一度だけ、新聞部のインタビューに答えていたのである
テーマ:正義の主張
裏テーマ:社会を切り取ることの意味
■ひとこと感想
アイドル映画だということぐらいしか情報を入れないまま参戦
演技初挑戦かな?という辿々しい演技でしたが、脇とのレベル差がありすぎて、ちょっとかわいそうになっていました
映画は、校内の闇を暴く新聞部の活躍を描いていて、主に文芸コンクールの買収騒動を描いていきます
わかりやすい悪役がいて、それをどのように懲らしめるのかというものになっていましたね
後半は「青春の主張」という内容で、その主張のシーンにて、後ろに位置していた久間田琳加が心配そうに見つめていたのが印象的でしたね
なんとなく「演技頑張って」といっているようにも見えて、とても微笑ましかったなあと思いました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
学園内の不祥事を取り上げて暴くというもので、それを買収しようと工作する理事長が悪玉になっていました
めっちゃ、楽しかったやろうなあと思える感じで、理事長の振り切って張り切った演技はとてもおもしろかったですね
内容は正論をぶちまける内容ですが、悪いことをしているレベルがバラバラなのは笑ってしまいました
オンラインカジノ摘発とか、どうやって裏を取ったのかはわからない感じになっていました
映画の見せ場はコンクールでの結衣の主張になりますが、その見せ方はお世辞にも上手いとは言えません
言いたいことはわかるのですが、ひたすら喋っているだけなので、その内容がスッとは入ってこないのですね
ビジュアルコンテンツである以上、その言論の中身よりも、必死に訴えているという印象だけが残ってしまうのはナンセンスなのかなと感じました
■権力を瓦解させるもの
本作は、結衣が文芸部の思惑に巻き込まれる形で新聞部に入ると言う内容になっています
そこで、かさねのマインドに毒されて、新聞部員として自立していく背景がありました
かさねは学校権力に対抗している存在で、校外活動にて「先生たちの悪事」と言うものを暴いていくことになります
色んな悪事がありますが、試験中に麻雀ゲームぐらいいいじゃんと思ってしまいますが、あのゲームをどうやって「麻雀賭博」だと突き止めたのかは分かりません
学園は理事長によって私物化されているような感じになっていて、文芸部と文学賞を結びつけることで、学園の価値を上げようと考えていました
それでも、昨年は西園寺茉莉の作品よりも優れた作品があって、それを権力構造で押し潰した、という流れになっていました
おそらくは、この圧力がかさねのマインドの原点のようで、いかにしてこの癒着構造を暴露して失脚させようかと考えていたように思います
文学賞の候補作を読めば、そのレベルの違いを実感できるので、その作品が受賞作に相応しいかは、佳作になった作品を読めばわかります
その上で、選外にされたことで、そのカラクリを暴こうと考えたようにも思えました
最初は学園内のどうでも良いことを槍玉にあげて刺激し、そんな中で味方を引き入れる方策を取っていきます
セクハラを受けていた山内先生を助けることで学園内の体制を一部崩壊させ、それによって、盤石に思えたものが瓦解していきます
学園では、理事長以外に得する人はほとんどいないと言う状況なので、それぞれの心底では色んな感情が渦巻いていました
権力構造の崩壊は、その構造の結びつきの強度を観察することで、権力者が孤立するかどうかを見極めることが重要であると思います
この学園のように、権力者の周囲が強固で無い場合は、外堀を埋める必要はないのですね
厄介なのがシンパが周りを固めている状態で、様々な知恵が蔓延ることになります
そう言ったものの有無を調べるのに、崩しやすようなところから様子を探るのがかさねの作戦のように思えますが、映画ではそういった戦略的なところはスルーされていたように思えました
■勝手にスクリプトドクター
本作の主人公は結衣なのですが、物語のメインはかさねVS理事長の対決シーンになっていました(一応は最後の演説シーンがメインになると思います)
そのシーンの圧が凄くて、その他のシーンの印象が薄くなっているのですが、これは結衣VS理事長では色んな意味で勝負にならないからだと考えられます
結衣は未だ新入生であり、新聞部としてのキャリアも薄く能力もありません
理事長と対峙する理由も希薄な状況で、胆力として対抗できる状況にはないのですね
なので、結衣の代わりに戦うキャラクターというものが必要になっています
本作は、かさねというキャラクターをメンター的な存在に置いているのですが、ヒーローの代わりに戦ってしまうという流れになっています
一応、メンター的役割として、結衣が一皮剥ける手伝いはするのですが、それが巨悪と戦うための力とまではいかないのですね
あくまでもマインドをそちら側に誘導し、彼女の自主性を誘発するという役割になっていました
その後、結衣はかさねのバックアップを得ながら表舞台に立つことになりますが、やはり絵力的にも弱いものがありました
数ヶ月で胆力が付くということはないので、あくまでも結衣の何らかの力が役に立つという流れを汲むことになります
彼女は学園の表面しか知らない存在で、その無垢的な立場と思考を利用して、誰もがハッとするような問いを投げかけることができます
彼女は文学部に憧れていますが、それはかさねの小説(ペンネーム:緑町このは)に感化されていたからでした
その読者的視点を持って、「今回の作品は昨年の落選作品に似ていますね」という「きっかけ」を与えるキャラクターになれると思います
これは、審査員も薄々感じていることで、それでも買収されているから何も言えません
今回のコンテスト用の作品との類似性を指摘することで、審査員の良心の呵責を突き動かすこともできるし、文学愛を語って、聴衆を刺激することもできたと思います
そうした無垢なマインドが理事長の野望を正面突破するという流れを演出できれば、かさねとは違った意味で権力構造を壊せるように思えます
この流れの作品を作るとしたら主演の演技力が求められるので、それを映画初出演でできるのかは何とも言えません
それでも、藤吉夏鈴の魅力を知る人ならば、その「豹変」を期待していたようにも思えました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作の面白いところは、緑町このはに憧れている結衣と前島勝美に憧れているかさねのリンクだと思います
このはが何者か知らずに憧れている結衣は、彼女のようになりたいと文芸を頑張るわけではありません
文芸部に入らなくても小説は書けるわけで、それよりも「彼女が所属しているであろう文芸部に入って近づきたい」という欲求がありました
憧れたら最後とは言いますが、結衣の状況はまさにそれに近いと思います
一方で、前島に憧れを抱いているかさねは、前島が歩んでいる道をそのまま辿ろうとしています
学園でジャーナリズムを体験し、そして出版社に入って、自らが「トロっ子」になることを厭わない
その違いが如実に現れていて、憧れに対する距離感という物が浮き彫りになっていたと思います
本作にメッセージ性があるとしたらその部分であり、憧れに対する姿勢のような物が問われているところでしょう
文学として、このはが抱いているマインドに追いつこうとしているのか、単に自分にはできないことをしているから近づきたいだけなのか
かさねは前島のジャーナリズムの精神性に感銘を受けていて、それに近づくために憧れから行動へと移していきます
最短で近づくためにはより多くの体験を重ねること
彼女のマインドは、高校生だとしてもジャーナリズムに前のめりになることだったと言えるのではないでしょうか
映画は、いわゆるファンムービーなので、これ以上のことを求めるのは酷なのかもしれません
でも、単に出演しているからという理由づけだけではなく、どのような支持を得て、その根幹となる部分が舞台が変わっても見せつけられるのか、というのが鍵になると思います
ファンの人は藤吉夏鈴の演技に何を求めていたのか
このあたりを深く考察することなく、単に現場で感じた力量から制限をかけていただけのようにも思えます
大人の事情もたくさんあると思うのですが、これで良かったのかなあというのは普通に観ていて感じたので、ファンならばさらに強く思ったのではないかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101369/review/04140382/
公式HP: