■失敗の原因のなすり付け合いが、今もどこかで行われているのだろうか
Contents
■オススメ度
政治エンタメが好きな人(★★★)
ケンティーのファンの人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.10.20(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2023年、日本、101分、G
ジャンル:国会議員の孫誘拐を巡るサスペンス&ミステリー映画
監督:水田伸生
脚本:久松真一
原作:神保真一『おまえの罪を自白しろ(文春文庫)』
キャスト:
中島健人(宇田晄司:清治郎の議員秘書、清治郎の次男)
堤真一(宇田清治郎:衆議院議員、内閣府副大臣)
池田エライザ(緒形麻由美:清治郎の長女、柚葉の母、晄司の妹)
佐藤恋和(緒形柚葉:麻由美の娘)
浅利陽介(緒形恒之:麻由美の妻、市会議員)
中島歩(宇田揚一朗:清治郎の長男、埼玉県議)
【清治郎陣営】
矢柴俊博(木原誠也:清治郎の政策秘書)
アキラ100%(大島昇:清治郎の私設秘書、運転手)
山崎一(牛窪透:清治郎の公設第一秘書)
【新民党関連】
池田成志(若鷺健太郎:日本新民党の衆議院議員、清治郎の対抗派閥)
小林勝也(九條哲夫:日本新民党、九條派の代表)
角野卓造(木美塚壮助:日本新民党、幹事長)
【政府】
橋本じゅん(城山敏正:厚生労働副大臣)
升毅(湯浅哲道:内閣官房長官)
金田明夫(夏川泰平:内閣総理大臣)
【埼玉県警】
山崎育三郎(平尾宣樹:捜査一課、警部補)
中村歌昇(樫田光太郎:捜査一課、巡査部長)
三浦誠己(高垣義弘:刑事部参事官、警視正)
尾美としのり(加持直樹:捜査一課管理官、警視)
菅原大吉(牧村徹:刑事部部長、警視正)
【その他】
美波(神谷美咲:「中央テレビ」の報道記者)
尾野真千子(寺中初美:恒之の支援ボランティア)
柏原収史(寺中勲:初美の弟、元IT会社の会社員)
春海四方(寺中清則:初美の父、工場経営者)
平泉成(草川庄一:清治郎の後援会の会長)
徳留歌織(福原桂子:真由美のママ友)
室伏凛香(桂子の娘)
和泉ちぬ(初美のボランティア仲間)
■映画の舞台
日本:
永田町
荒川近辺
ロケ地:
東京都:千代田区
衆議院憲政記念館
https://maps.app.goo.gl/fn4S1V29gQt7Q5i96?g_st=ic
埼玉県:戸田市
彩湖・道満グリーンパーク
https://maps.app.goo.gl/zYNhxELdxCcNydeA8?g_st=ic
彩湖自然学習センター
https://maps.app.goo.gl/djokxVMebLoQqs5s9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
永田町では、上荒川大橋建設に巡る問題が浮上し、内閣府の副大臣である宇田清治郎にある疑惑が浮上していた
夏川総理の友人の企業に便宜を図るために橋の建設場所を急遽変えたというものだったが、清治郎は徹頭徹尾、疑惑を否定した
ある日、学校帰りに田圃道を通っていた清治郎の長女・真由美とその娘・柚葉は、後ろから来た白いバンに襲われてしまう
真由美が目を覚ました時には柚葉はおらず、誘拐事件だと断定される
マスコミ各社が動く中、報道協定が敷かれ、永田町も事態の収拾に奔走することになった
その後、犯人と名乗る人物から議員事務所のホームページにあるデータが送られてくる
それは「誘拐とその目的」が記された犯行声明で、「お前の罪を自白しろ」と書かれていたのである
清治郎たちは「犯人の示す罪」が何を指し示すかわからないまま、タイミングを考えて、上荒川大橋関連のことだと推察する
そして、次男の晄司が記者会見の原稿を書くものの、清治郎はその内容を反故にし、過去の口利き事件にのみ言及してしまう
だが、その行為は犯人を刺激し、更なる要求を重ねてくるのであった
テーマ:義憤の正体
裏テーマ:議員の資質
■ひとこと感想
ケンティーが主演のジャニーズ映画で、コミカルな予告編が話題となっていますが、内容は政治に関わる結構難しい話になっています
かなりマイルドになっているとは言え、そこそこ専門用語も飛び交うので、全く知らないと意味がわからないシーンがあると思います
映画は、議員の汚職を追求する犯人が誘拐事件を起こすというもので、副大臣の孫をターゲットにしたことで、政党のみならず政府までもがパワーゲームに巻き込まれることになります
とは言え、与党内の覇権争いに起用されているという感じで、その欲望を逆手に取って暗躍する晄司が主人公となっています
物語は、政治家と秘書の関係とか、警察と司法の関係など、少しは勉強が必要な内容になっていて、主演のファンの世代が理解できるのかは微妙な感じになっています
スリリングというほどではありませんが、議員辞職とか離党などの影響がわからないと清治郎の下した決断の重さというのは分かりにくいのですね
そのあたりの説明をするとクドくなってしまうので、本作ぐらいのサラッとしたものの方が正解だったように思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は、どの時代にも起こる官民癒着の構図になっていて、総理の裏仕事をする清治郎が嵌め込まれるという展開を迎えます
罪を告白することは簡単ですが、政界への影響を考えると、自身の判断だけでは行えないこともあります
そんな時に「総理が宇田家を切り捨てたこと」を晄司が突き止めるのですが、このあたりの流れと目的が分かりにくいかなと思いました
後半になって、晄司は「事件が終わっても変わっていないこと」に気づき、それによって事情が浮かんでくる存在に気づきます
このあたりは直感のようなところが多くて、そこからの仕込み会見とかはファンタジーに近い印象がありました
結局は、清治郎が裏仕事をしたために不幸になった一家があったというものですが、ある意味自己責任の部分も多く、そこで起きた殺人事件の隠蔽のために幼女を誘拐するというのは擁護できる案件ではないでしょう
被害者面している犯人も身勝手な存在で、無知が他人に命を預けた結果となっているので、政治家の罪が重いとは言っても、犯人の罪も結構重いものではないかと感じました
■官民癒着と言うものの
本作は、総理のお友達の都合で内閣府の副大臣が口添えをしたていて、それが橋の建設場所が変わるという内容になっていました
ありえそうな話に思えますが、劇中で示されるように、建設予定地はかなり場所が違うので、「橋は道路の延長戦にあるんじゃね?」と思った方も多いと思います
新しい橋の先には新しい道路があり、道路計画も含めた橋の場所の決定があるわけで、それが直前になって変わるということはあり得ません
なので、橋の建設予定地は「道路ごと変えないと変えれない」ので、設定自体に無理があります
本作はフィクションなのでツッコむのは野暮ではありますが、もう少し頭を使った設定にしないと、小学生に笑われてしまいます
映画は、わかりやすい官民癒着を描いていて、それに暗躍したことを糾弾されています
建設予定地の変更を内閣府の副大臣の口添えで決まるとは思えませんが、できたとしても、正式なGOを出すのは国土交通省他の省庁を巻き込んでいるので、いち議員の辞職で済むようなものではありません
現実世界では、ある大学の建設予定地の購入価格をイジるなどのように、庶民にはバレにくいものが選ばれます
このような操作のリークは当事者や関係者以外にはわからず、今回のように「無関係の人間が出資ギャンブルに出る」ということなど叶わないものなのですね
なので、犯人と癒着の関わりに関しても無茶な設定になっていました
映画だけを観ると、国家戦略の恩恵を受けるために土地購入をした一家が悲惨な目に遭ったと言うものですが、そもそもがこの土地購入すら自己責任の範疇になります
道路ができる前段階から橋が架かる場所を想定して土地を購入することになりますが、計画と道路の整備、橋の建設から完成までの長期間に「無意味に保有する土地購入」など、基本的に誰もしません
国の道路整備事業のことを知った民間業者が「後入りで土地購入できる」と言うことはなく、整備発表の前段階で「官民癒着企業には情報が入っている」ものなのですね
なので、この一家は、癒着企業よりも先に道路建設の場所を想定して、この場所に架かる橋の近くの土地を押さえていることになります
普通に考えてもあり得ない話なので、せめて「以前からの土地所有者で、道路計画の一環での国による土地の買い上げが決定していたけど、計画変更で反故になった」と言う状況で、「それを見越して基幹事業の投資をしていた目論見が外れた」と言う方が理屈は通るのではないでしょうか(これでも自己責任だと思うますが)
■議員の素質とは何か
映画は、晄司が主人公で、彼が政界で生きていける人物かどうかを見極めると言う内容になっていました
清治郎は長男・揚一郎を後釜に考えていて、その方向で動いていきましたが、本心では「晄司一択」だったことが明かされます
長男は埼玉県議会の議員ですが、国政に関する資質は無いように描かれています
わかりやすく見限るシーンがあり、切羽詰まった清治郎の本音が出ているシーンでもありました
晄司のどの部分が政治家に向いているかもわかりやすく描いていて、罪を話す話さないの段階で、「党内の自分の立場がどうなのか」を見極めるために動いていました
この時の晄司のマインドは、罪の告白は免れず、その後の自分達の処遇がどうなるかを見越して動いていて、状況の見極めが正確になされていたと言えます
そして、その中で「誰の本音を聞けば最短距離か」をわかって行動していて、これは党内の政治バランスの根幹を理解していることにつながっていました
政治の世界では、党内派閥とその方向性は避けては通れないもので、与党だとさらにそれが顕著になっています
現実世界でも、誰かの脱落によって一気に方向性が変わると言うことは起こっていて、本来ならば「何らかの失脚」と言うものが影を落としますが、今回は元総理の暗殺と言うショッキングな事態で一変しています
党内人事、閣僚人事などでも顕著に見られていて、ワイドショーなどでも「元総理の志望の影響」による党内人事の予想とか、内閣改造における配置の思惑などがセットで説明されたりします
ワイドショーのネタになるぐらいに党内バランスは国民の生活に影響を与えるものなので、そう言ったものに長けていることで、政局を読み間違えることがなく、この足し算引き算の複雑性を理解していることこそが、政治家にとってもっとも重要な資質であると言えるのではないでしょうか
晄司は理念の人ではありますが、それだけでは何も変わらないことを悟り、党内派閥の影響力を駆使して現場を動かしていきます
このあたりの複雑な構造が原作ではもう少し詳しく描写されていると思うのですが、映画ではかなりざっくりとした感じに描かれていましたね
でも、この派閥内闘争を綿密に描くとわかりにくいエンタメになってしまうので、映画のターゲットを考えると、これぐらいが限度なのかなと思いました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、政治映画としても中途半端で、推理映画としてもお粗末な感じになっています
その理由は、「犯人側の背景」が自分勝手すぎて共感性がなく、議員を含めた多くの人間が巻き込まれただけに過ぎないからです
それでも映画は「加害者可哀想ムード」になっていて、いくら何でもこの内容で被害者面をするのかと疑問を持ってしまいます
土地ギャンブルに失敗し、家庭内のトラブルで事故死したことを殺人になると勘違いし、それを隠蔽しようとしていました
そして、橋の建設現場の変更によって発覚することを恐れ、無関係かつ弱い立場の人間を事件に巻き込むことになっています
これらの一連の顛末を考えると、清治郎が犯した罪よりも、誘拐犯の方がよほど悪質で、政治的な犯罪が軽く見えてしまうのですね
これによって、誘拐犯の逆恨みに同情する晄司が描かれてしまうのはナンセンスで、本来ならば、政界を巻き込んだことで「通常よりも重い罪や処遇になる」と言う暗黒面を強調しても良いのだと思います
映画のラストは新総理と国会内で相対するシーンになっていますが、同じ党内でこの構図になっている状況もよくわかりません
何らかの問題によって、新総理と対面することになっていますが、この構図だと野党に鞍替えしたか、党が分裂したかのように見えてしまいます
おそらくは政治家になった晄司と、密約が果たされたことを描きたかったと思うのですが、それならば「質問を受ける新総理の後ろに晄司がいる」と言う構図の方がわかりやすかったように思えました
映画はエンタメではありますが、要所要所にあり得ない描写や設定がありました
それらが全てノイズになっている作品で、原作をどれぐらい変えてしまったのかが気になってしまいます
本来ならば、晄司と言うキャラクターはもっと「ドス黒い」感じのキャラで、ケンティーが演じることになって、正義のヒーローよりに改変されている印象があります
なので、もっと黒い部分を見せるような二面性を際立たせた方が、彼自身のキャリアのためにも良かったのではないかと感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://movies.shochiku.co.jp/omaenotsumi/