■動物たちの啼き声が、彼を呼び起こしたとは言えない気がする


■オススメ度

 

奇妙な怪奇譚が好きな人(★★★)

虫が苦手な人(やめといた方が無難)

 


■公式予告編

鑑賞日2023.10.31(T・JOY京都)


■映画情報

 

情報2023年、日本、112分、PG12

ジャンル:故郷の森に迷い込んだ主人公と土地開発業者が、不可思議な女たちに出会う様子を描く寓話的ファンタジー映画

 

監督石橋義正

脚本石橋義正&大谷洋介

 

キャスト:

竹野内豊(萱島森一郎:父の訃報にて生家に戻った男)

  (幼少期:前田海椰大

 

山田孝之(宇和島凌:土地を買いにきた開発業者)

 

水川あさみ(刺す女:白い着物を着て鞭で叩く女)

アオイヤマダ(濡れる女:川の中で優雅な舞を披露する女)

服部樹咲(撒き散らす女:森の平野にて寝そべっている女)

萩原みのり(牙を剥く女:噛みついてくる女)

桃果(見つめる女:赤い着物を着た幼い女)

武田玲奈(包み込む女:子連れの女)

 

渡邊弘基(包み込む女の子ども)

住田将太(包み込む女の子ども)

木村亜有夢(包み込む女の子ども)

 

下京慶子(森一郎が幼少期に出会う謎の女)

 

武田玲奈(咲洲かすみ:森一郎の恋人)

渋谷樹(かすみの息子)

 

大西信満(山際茂:生き別れた森一郎の父)

鈴木聖奈(萱森沙耶:森一郎の母)

 

津田寛治(島田:リゾート開発会社の重役)

植木祥平(島田の部下)

 

白川和子(杉田:茂の隣人)

 

竹中直人(松根:地元の不動産者)

 


■映画の舞台

 

日本のどこかの山奥の村

 

ロケ地:

京都府:南丹市

京都大学フィールド科学教育センター 芦生研究林

https://maps.app.goo.gl/dzPkHtte3czzQAdE8?g_st=ic

 

奈良県:大和郡山市

奈良県立民俗博物館

https://maps.app.goo.gl/xqRxg2agK4bbASBcA?g_st=ic

 

大和民俗公園

https://maps.app.goo.gl/GpKRUhfYtsqSgZc6A?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

都内で写真家として活躍している森一郎は、父の訃報を聞き、山奥にある生家を訪れることになった

父とは4歳の時に離れたきりで、大した思い入れもなく、生家を不動産者に売り渡す計画も同時に進めていった

 

地元の不動産者・松根はリゾート関連の開発会社への売却を打診していて、その契約を生家で行うことになった

そこには開発業者の担当者・宇和島も来ていて、契約は無事に終了する

だが、帰りに車に乗せてもらった森一郎だったが、落石の影響で事故に遭ってしまう

 

気がつくと、古民家の畳の上で、そばには料理を作っている女がいた

女は森一郎に汁物を提供するが、その汁には芋虫が入っていて、森一郎は思わず吐き出してしまう

女は鞭のようなもので殴り、時には刺してきて、森一郎は彼女に従わざるを得なかった

 

一方その頃、宇和島は別の古民家の離れに囚われていて、そばには動物の死骸に噛み付く女がいた

宇和島は何とか脱出を図ろうとするものの、次から次へと奇妙な女が現れ、次第に精神的におかしくなってしまう

 

テーマ:囚われの理由探し

裏テーマ:奥底に眠る記憶に隠されたメッセージ

 


■ひとこと感想

 

予告編のイメージだけで、着物を着た綺麗なお姉さんがたくさん登場するというテイストに惹かれて鑑賞しました

冒頭から「アレ」を食べるシーンがあって、見る映画を間違えたわ〜と思ってしまいましたね

その後も「アレ」がたくさん登場するので、「アレ」がダメな方はスルーしたほうが良いと思います

はい、「アレ」とは「虫」のことなのですね

 

物語は、森に迷い込んだ男2人が脱出を試みようとするもので、森一郎だけはここに来た意味があるのだと能動的に考えていきます

対する宇和島は、閉鎖空間の絶望性から凶暴になり、見つめる女を力づくでという展開を迎え、さらにドツボにハマっていきました

 

映画は、彼女たちが何のメタファーなのかを描き、彼らがそこに舞い込んだ理由を紐解いていきます

そのあたりのテイストは悪くないのですが、ラストのオチだけはちょっと解せない感じに仕上がっていたと思います

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

綺麗な女性を見るだけならとは思いましたが、まさかの虫連発にゲンナリとしてしまいました

スクリーンでドアップで観たい人がいるのかどうか分かりませんが、好んで観る人が多いとは思えません

 

女性たちが森の生物の化身であることは容易に想像できますが、彼女らが森一郎に何かを訴えるという訳でもなく、彼自身が勝手に想像を巡らせていく展開になっています

それが後半でも変わらなくて、目的よりも自分の感情や感覚を優先して、宇和島を生き証人として連れ帰るという決断をしました

 

ここまではまあ納得できるのですが、結局第三者に渡したものだけで売買契約が不成立になっている流れとか、開発自体が頓挫したことに対する説明は全くありません

なので、宇和島を生き証人として捕まえる意味はなく、森一郎はそのまま彼を森に閉じ込めて置くだけでも良かったことになります

 

不動産業者は「もう遅い」みたいなことを言っていましたが、あの怪文書で何とかなるくらいなら、命を賭ける意味があったのかは何とも言えないでしょう

怪文書に加えて、森一郎が感じたことを説明する必要があり、恋人に少し説明しただけで伝わるとはとても思えませんでした

せめて、包み込む女と同一人物で、彼女は森の仲間から事情を聞いて知っていたというものなら理解できますが、姿が似ているだけの異なる存在だったので、無理すぎる展開になっていたように思えました

 


囚われの正体

 

本作は、生き別れた父が抱えてきたものを息子・森一郎が知るという内容で、土地がらみのいざこざを正すという意味合いがありました

森一郎は幼少期の時に父と離れているので、細かな記憶がある方がおかしいと思えてきます

今回は不動産屋と開発業者が話を蒸し返すのですが、その方法が暴力的かつ短絡的だったために墓穴を掘っていると言えます

 

森一郎は自分があの森に呼ばれた意味を求め、彼女たちが「森の動物たち」であること理解していきます

でも、人間の女に化ける理由はほとんどなく、それは彼女らが「人間の言葉を一切話さないから」でしょう

単に異性なら居着いてくれるかもという感じですが、森一郎があの森に留まっても、外界との接点がないので、ほとんど意味はないと思います

あるとすれば、書類の紛失と足止めをすることで、契約及び開発の進行を遅らせることができたということぐらいでしょう

なので、電子契約書でウェブ上でサイン&送信で終わっていたら、あの二人は犬死にになったように思えてきます

 

そもそも、彼女たちは土地の契約に関することなど理解していないと思うので、森一郎が感じていたことは単なる思い込みに過ぎません

気づかせることよりも、単に留めることが目的になっていて、その目的も「迷い込んだから相手をしている」というだけなのですね

自然は人間の行為で傷つきますが、形を変えてでも再生していくものです

環境破壊によって苦しむのは人間だけで、大きな枠組みの中では、自然はさほど影響を受けません

あの場所にリゾート地ができても、いずれは活断層による地震が起きていたと思うので、そこにいた人々もいずれは土に帰ってしまうだけだったりします

 


勝手にスクリプトドクター

 

本作は、女性の映像美を堪能できる一方で、よくわからないシナリオによって、損をしている作品のように思えます

物語は、森一郎の中にあった父親の声というものに気づくというもので、かと言って森一郎の中に父親へのこだわりのようなものがあった訳ではありません

父が死んで、その土地の所有者になったことで、それを放棄するためにあの村に帰ることになっていました

そこで契約はあっさりと終わり、そこから帰る道中に事故によって、異世界へと飛ばされることになります

 

いわゆる異世界招聘モノになっていて、このタイプの作品は「閉じ込められた原因を探し、その世界の問題を解決すること」によって、元の世界に戻ることができます

でも、本作における「問題」はあの森の外側の世界にあって、あの場所はリゾート開発で失われるのかもわかりません

事故を起こすことでしかあの世界に行けないのですが、生きて辿り着いているのかもよくわかりません

死んだから行けたのか、魂だけが行けたのかがわからず、このあたりはぼやかされていたように思いました

 

映画では、この世界の中で父親の行動理由を理解するのですが、あの森に入る前に秘密の部屋に踏み入っています

なので、あの部屋で事実を知ったことで、部屋(家)を出たら森に迷い込んでいた、という方がスムーズのように思えます

宇和島も一緒に連れてくる必要があったのかはわかりませんが、もし必要なら、契約の段階で家を見回るなどして、同じ部屋に足を踏み入れてもOKでしょう

あるいは、森一郎か宇和島のどちらかが先に行ってしまって、契約時間になっても来ないことから家中を探し出して、それであの部屋にたどり着くでもよかったように思います

 

導入に関しては、何かしらの強いショックが必要ということなのでしょうが、事故を起こしたはずの二人は大した怪我をすることもないように見えましたね

あのスピードで落石に衝突していたら「あの後の世界は魂が見ている世界」にしか思えないのですね

なので、そこで現実問題に気づいても、その後何ともできないように思えてしまいます

また、後半において、かすみが文書を託されるのですが、無関係の人間が弁護士に相談して、それで開発が中止されて、かすみがあの場所に住めるというのは意味がわかりません

活断層が明確になって、資産価値が暴落して開発業者が撤退ということはあると思いますが、結婚すらしていないかすみがあの場所で住むには多くのハードルがあります

弁護士に相談というくだりがある故に、このあたりの無茶な物語の転換が意味がわからないのですね

 

宇和島を生き証人にする必要もなく問題が解決しているので、尚更森一郎が戻った意味を感じません

なので、森一郎が森で死ぬのなら、開発はそのまま行われてしまって、地震によってリゾート地が壊滅するか、開発の段階で宇和島と森一郎の遺体か骨が見つかる方が理にかなっているように思えました

理想を言えば、宇和島を置き去りのまま、かすみと結婚する世界線でしょう

森一郎が活断層の存在をマスコミなどにリークすることで、開発業者が手を引くということは普通にあり得るし、宇和島と一緒に契約書が行方不明になっているので、そのまま原本なしで契約不成立という線もあったように思えてなりません

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、擬人化した動物たちが男たちの前に現れますが、彼女たちの目的はほとんどわからないままでした

刺す女は汁物を出すだけで、食べなければ刺すだけです

撒き散らす女はひたすら撒き散らしているだけだし、濡れる女も川の中で泳いでいるだけでした

その他も、元の動物の生態をそのまま模写しているだけで、彼女らには目的というものがありません

あえて言うならば、喪失した母的な存在で、彼女は父のことを知っていたので、その方向に向かわせるように仕向けたということになるのかもしれません

 

物語は、森一郎が父の秘密にふれて興味を持ったに過ぎず、宇和島が手に入れていた「例のもの」の存在によって、事の経緯を理解していきます

そんな中で、森一郎にはいきなり目的意識が芽生えるのですが、それが結構唐突で脈絡がないように思えます

せめて、これまでに父親のことを思っていたとか、何かしらの感情があれば良いのですが、4歳で別れて何ひとつ覚えていないので、父の意思を受け継いで森を守ろうと考えるのは微妙な感じに思えます

その後、父が宇和島に殺されたのではないかと勘繰るのですが、無論その証拠もなければ、孤独死による検死などもスルーさせていて、自然死扱いになっていました

この辺りの状況の変化と認識と、心理的変化をもう少し噛み砕いた方がよかったように思います

 

彼は単なる写真家で、彼が何を撮っている人なのかも実のところわかりません

彼が森林とはじめとしたナショナル・フォトグラファーということならば、自然に魅入られる理由づけになり、自然への愛情というものも備わっていたと思います

そして、彼が森の写真を撮る根底になっているのが、記憶の奥底に眠っていた父の活動ということになると思います

 

本作は、この辺りの状況をリアルにして、森の異世界をファンタジーにすることで乖離が生まれると思うのですが、現実パートもファンタジーっぽく見えてきます

それ故に、現実世界から俯瞰してこの世界を観ている感覚からすれば、おかしなことだらけのように見えてしまうのかなと思いました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

Yahoo!検索の映画レビューはこちらをクリック

 

公式HP:

https://www.six-singing-women.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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