■閉鎖社会からの脱出は、片道切符である方が良い
Contents
■オススメ度
閉鎖社会の闇を体感したい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.4.21(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2023年、日本、120分、PG12
ジャンル:父の死によって村社会で孤立する青年を描いた社会派ヒューマンドラマ
監督&脚本:藤井道人
キャスト:
横浜流星(片山優:ゴミ最終処分場で働く青年)
(幼少期:伊藤りゅうと)
黒木華(中井美咲:東京から帰って来た優の幼馴染)
(幼少期:松本あかり)
一ノ瀬ワタル(大橋透:優の先輩作業員)
古田新太(大橋修作:透の父、霞門村の村長)
中村獅童(大橋光吉:修作の弟、薪能の使い手)
木野花(大橋ふみ:修作と光吉の母)
奥平大兼(筧龍太:優の後輩作業員)
作間龍斗(中井恵一:美咲の弟)
戸田昌宏(中井洋平:美咲の父)
淵上泰史(片山大輔:事件を起こした優の父)
西田尚美(片山君枝:優の母、ギャンブル狂)
矢島健一(副知事)
杉本哲太(丸岡勝:不法投棄を繰り返すヤクザ)
安東弘樹(TV局のレポーター)
■映画の舞台
霞門村(架空)
ロケ地:
京都府:亀岡市
亀岡へき亭
https://maps.app.goo.gl/H61jH4UPXVak542i9?g_st=ic
京都府:南丹市
琉雅亭・るり渓観光農園
https://maps.app.goo.gl/aTqX34hdjzrmpCxu9?g_st=ic
知井八幡神社
https://maps.app.goo.gl/JKk8JNtdeBzX5CqL8?g_st=ic
兵庫県:神戸市
神戸市環境局 事業部西クリーンセンター
https://maps.app.goo.gl/VkfXnLHRogSAP7JQ8?g_st=ic
栃木県:栃木市
岩船山石場撮影所
https://maps.app.goo.gl/ACdFgo8GaYCsL49P8?g_st=ic
■簡単なあらすじ
山奥にある集落に住む片山優は、かつて父を犯した罪によって、7年経った今でも村民たちから疎まれていた
村には巨大なゴミ処理施設があり、優の仕事はリサイクルにまつわる分別がメインで、夜には秘密裏の仕事をしていた
村は大々大橋家が村長を引き継ぎ、今は修作が担っている
地元の副知事たちと懇親会を開きながらすり寄る手腕は見事で、処理施設の誘致と補助金によって、村の財政はなんとか賄ってこられた
ある日、優の幼馴染である美咲が帰省し、村の役場で働くことになった
美咲は環境に優しい村をアピールしようと考えていて、その広報役に優を推す
だが、村のみんなは優の器用に否定的で、美咲に気がある透は優だけが特別視されることを腹立たしく思っていた
テーマ:権力の存続
裏テーマ:支配構造と人間性
■ひとこと感想
閉鎖された村で起こる惨劇と言うイメージを持っていましたが、昔起きた事件を数年も引き摺る中で、新たな火種が勃発すると言う内容になっていました
ゴミ処分場の利権とまでは言いませんが、それによって雇用が生まれている現実がありながら、そこで働くのは一部の村人と訳ありが集められていました
そんな中にいる優は、かつて処理場反対だった父の行動によって村八分にされていて、父の犯罪によって末代まで行動に制限が出るのか、と言う問題を突きつけます
優は美咲の望み通りの結果を出していきますが、その反面で背負うものが大きくなっていきます
優が村にとってどんな存在になっていくのかを見守る物語ではありますが、それに付随して、権力が生まれていく過程というものが描かれていきます
ゴミで生きている村で、本当のゴミは何なのか
それはラストシーンのある男の行動によって描かれていると言えるのではないでしょうか
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
村八分の青年が村の復興の顔になる物語で、その活躍とともに責任が付随する流れを描いていきます
村長がすべてを丸投げして安穏としようとしていても、事態は次から次へと悪化していきます
そうした中で、積み上げたものをどうやって守るのかを問われた結果、行くべき方向に突き進んだ、という印象がありました
誰もが心に傷を抱える中、その居場所と拠り所を探していくのですが、結局のところ生まれた場所が一番居心地が良いのですね
そして、その場所を守るために行為を正当化し、引き返せないところまで突き進んでいきました
ラストシーンでは、美咲の弟・恵一が村を出るのですが、これは「恵一にとってのヒーローがいなくなった」ということと、「姉と同じような道を歩もうとした」ということ、そして「優とは違う生き方をする」という3つの意味があると思います
それぞれがどの理由で彼を見届けたかは分かりませんが、個人的には「自分の道を行くことは村を捨てることだと悟った」のだと解釈しました
いわゆる、ゴミの中からはゴミ以外のものが生まれず、単に処理しやすいものとそうでないものを分けることしかできないというところに繋がっていくのかもしれません
■村社会で生きていくために必要なこと
優の住む村はどうやら山奥にある限界集落に近いイメージで、村民は200人前後のようになっていました
霞村祭なるものが催されて、そこに集った人の数がそれぐらいだったように思います
誰もが能面を被り、さらには薪能を鑑賞するという流れになっていました
そこで行われる演目が「邯鄲」と呼ばれるものでしたね
「邯鄲」は、中国の蜀を舞台にした物語で、盧生という男性が偉いお坊さんの話を聞きにいくというものです
旅の途中で邯鄲という町で宿を取るのですが、そこで「邯鄲の枕」で眠ることになります
その枕は「女主人が仙術使いからもらったもの」で、「未来について知ることができる」というものなのですね
そこで見た夢は「盧生が皇帝になって栄華を欲しいままにしている」というもので、その時間は50年も経っていました
でも、それは栗ご飯が炊けるまでのいっときのことで、「この世は夢のようにはいかないものだ」と悟りを開くことになりました
映画では、「権力にしがみつく愚かさ」が描かれていて、先代から続く大橋家の呪いのようなものに毒される優が描かれていきます
彼が過ごした広報としての活躍はまるで夢だったかのように描かれますが、最終的には「夢で終わらせない」ために手を打つことになりました
村社会では、一つの出来事が周知され、それによって居場所をな失くすということが起きます
これは「村だから」ではなく、閉鎖された空間ならどこでも起こり得ることで、家族、企業などを含めた「ありとあらゆるコミュニティ」に内包された特性といえます
このような閉鎖空間コミュニティでうまく生きるためには「郷に入れば郷に従え」というように、そのコミュニティの独特のルールに寄り添うことになります
優の父・大輔は「ゴミ処分場建設反対の立場」で、それはマイノリティだったことが仄めかされています
いわゆる「大橋家の決定」がコミュニティでのマジョリティだったのですね
さらに大輔は反対派としての過激な行動に出て、その余波が家族に及んでいるという状況を生み出していました
■恵一の選択に未来はあるか
映画のエンドロールの後には「美咲の弟・恵一」が村を出る様子が描かれていました
美咲は「村長の息子・透を殺めた」という罪を背負い、それが優にも波及して、村長とその母をも消すという蛮行に出ます
真実は炎の中にしかなく、優と美咲が口を合わせれば隠蔽されてしまうものでした
唯一、恵一だけが「透の事件の目撃者」なのですが、村の状況としては「大橋家の滅亡」によって、次代を担う優のステージになっているので、その暴露は命懸けのものになってしまいます
恵一が自主的に出て行ったのか、姉に唆されたのかは分かりませんが、感覚的には「村にいたら殺される可能性が高い」ので、早朝の誰もいない時間を見計らって、自主的に出ていったと推測されます
この行動は「村には居場所がない」と考えることが自然ではありますが、「村に希望がない」ことも付随しています
それは、恵一にとっての居辛さだけでなく、優の没落がない限り、彼が浮上する目はなく、また「ヒーローは悪人だった」という理想の崩壊があるために「彼に従事しよう」という考えも無くなったからといえます
恵一の逃避は、村にとっての時限爆弾のようなもので、いつ何時彼が帰省して村を掻き乱すかは分かりません
また、今のご時世なので、安全圏からの攻撃というものも可能なのですね
恵一を始末することを優も美咲も選択できないのですが、それは現時点の話であって、村長のように「ま、いいか」となる未来も少なからず残っているでしょう
なので、恵一は悟られることなく逃げるというのが最適解だったと言えるでしょう
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画はおかしなところがたくさんあって、それは視点を変えてみると「美咲にとっての邯鄲である」とも取れます
盧生=美咲という観点で見れば、「村に来てから起こったことは50年の夢」のようなものであり、その夢は透の殺害によって覚醒させられることになりました
彼女の東京行きも「邯鄲の夢」と同じで、そこにも希望はなく、精神的に病んで戻っているので、美咲自身の何かが「全てを邯鄲にする」という方向へと向かわせています
これは「同じ困難はクリアしない限り再度訪れる」という法則に則っていて、美咲が東京で遭遇した問題は「村で遭遇したものと同質である」と推測できます
村では「好きでもない男性から言い寄られる」ということが起きていましたので、単純に考えればストーカー行為を受けた、ということになるのでしょう
美咲は自分の好意が向いている相手とそうでない相手への対応が極端なところがあって、どちらかと言えば透の神経を逆撫でするような行為を重ねているように思えます
透と優のポジションを自分の力で逆転させているので、男性本位の考えが強い透にとっては屈辱的だったかもしれません
透は強引な性行為を録画するという暴挙に出ますが、この行為も男性優位思考の延長線上なのですね
暴力によって相手に言うことを聞かせるということを繰り返し、村長の息子であるという権力の傘にしがみついていた彼は、至る所でヘイトを集めていました
そして、村長が透のことよりも美咲の提案を採択したことが呼び水のようになっていました
透は「不法投棄現場の写真を撮る」などのように、相手が知られたくない秘密を握るという実権の把握の仕方をします
これは村長が培ってきたものとは真逆の思想になっているように思えます
それゆえに、次期村長は優の方が良いという声が村人の方からも聞こえてくるようになりました
これらの流れは村が抱えていた爆弾を放置し続けた結果であり、それが大輔の自殺の隠蔽と繋がっています
もし、優が村八分ではなく、普通に過ごしていたら、美咲が彼を抜擢したとしても、そこまでの余波はなかったように思います
村が、強いては透が優を貶めることで精神的な安堵を作り出した結果、それが外的要因で壊された時に大きな波紋を呼びます
閉鎖社会を壊すのは外部の圧力によるところがありますが、元々中の人が外に出た結果「おかしなことに気づく」というものがきっかけにもなり得るので、本来ならば「帰省自体が爆弾」なのかなと思いました
そういった意味において、恵一の逃避は優と美咲をざわつかせるものになっていますね
映画で、恵一の行為に対する「優と美咲の反応」を見せないのですが、それを描くと蛇足になると考えたのかもしれません
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/382909/review/b7334836-6bc4-4d43-aad9-344fe260b12f/
公式HP: