■不条理スリラーとして完走するか、ディザスターに向かうかが中途半端だったような気がします
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■オススメ度
不条理スリラーが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.5.16(アップリンク京都)
■映画情報
原題:Vincent doit mourir(ヴィンセントは死なねばならぬ)、英題:Vincent Must Die(ヴィンセントは死なねばならぬ)
情報:2023年、フランス、109分、G
ジャンル:目が合うと襲われる男の逃亡劇を描いた不条理スリラー
監督:ステファン・カスタン
脚本:マチュー・ナールト&ドミニク・ボーマール&ステファン・カスタン
キャスト:
カリム・ルクルー/Karim Leklou(ヴィクトル/ヴィンセント・ボレル:目が合うと襲われるグラフィックデザイナー)
ビマーラ・ポンス/Vimala Pons(マルゴ・ラミー:ヴィンセントを襲わないウェイトレス)
François Chattot(ジャン=ピエール・ボレル:ヴィクトルの父)
Sasha Tournaire(ジャンヌ:別荘の隣人)
Anne-Gaëlle Jourdain(マリー:ジャンヌの母?)
Ulysse Genevrey(ヒュゴ・モニエ:ヴィクトルを襲うインターン)
Emmanuel Vérité(イヴ:ヴィクトルを襲う経理部の男)
Jean-Rémi Chaize(アレックス:人事部の社員)
Karoline Rose Sun(オードリー:ヴィクトルの同僚)
Sébastien Chabane(ライオネル:ヴィクトルの上司)
Michaël Perez(ジョアキムDB:ヴィクトルと同じ悩みを持つ男)
Benoît Lambert(警官)
Stéphan Castang(警官)
Patrice Guillain(ダムにいる警官)
Léna Dia(レナ:バーの女)
Mikael Foisset(車に轢かれるホームレス)
Pierre Maillet(精神科医)
Adélaïde Nicvert(車で追いかけてくる女)
Jean-Christophe Folly(ルーカス:襲ってくる男)
Maurin Olles(ラフ:襲ってくる男)
Guillaume Bursztyn(郵便配達人)
Brigitte Margerie(タクシーの運転手)
Léa Thia Tue King Yn(廊下で遊ぶ女の子)
Théo Thia Tue King Yn(廊下で遊ぶ男の子)
Maroussia Frolin(子どもたちの母)
Thierry Thia(ティエリ:子どもたちの父)
Thomas Poulard(ヴィクトルの隣人)
Thierry Rousset(ヴィクトルの隣人)
■映画の舞台
フランス:リヨン
ロケ地:
フランス:
ペイ・ド・ワ・ラオール/Région Pays de la Loire
https://maps.app.goo.gl/yY14eQHRE8UcCiUy7?g_st=ic
オーヴェルニュ・ローブ・アルニュ/Région Rhône-Alpes
https://maps.app.goo.gl/ibYx9oqYQinpj3NF7?g_st=ic
■簡単なあらすじ
フランスのリヨンでグラフィックデザイナーをしているヴィクトルは、ある日突然、インターンの学生・ユーゴから殴られてしまう
意味もわからず退避するものの、今度は経理部の社員イヴから、手の甲をペンで滅多刺しされてしまった
上司のライオネルは在宅勤務を命じ、ヴィクトルは不本意ながらそれに従うことになった
その後もヴィクトルは外出先で不穏な行動を起こす人々から襲われ続け、どうやら目が合うと攻撃的になることがわかった
だが、攻撃が止むタイミングがわからず、途方に暮れていると、ジョアキムという謎の男に声をかけられた
彼はヴィクトルの行動を観察していて、自分と同じ境遇であると語る
そして、同じような被害者が集まる情報サイトを教えて去っていった
ヴィクトルは半信半疑でそのサイトに登録をして、いろんな情報を入手する
そして、食料を買い込もうとダイナーを訪れたところ、なぜか攻撃してこないマルゴーという女性と出会う
彼女も男に執拗に絡まれてはいるが、ヴィクトルとは状況が違った
そして、この現象はフランス全土へと広がりを見せ、多くの暴力事件が社会問題化していくのである
テーマ:目と目で通じ合う何か
裏テーマ:抉り出される本性
■ひとこと感想
予告の情報ぐらいしかなく、とにかく理不尽に襲われ続けるということだけはわかっていました
どんな兆候があるのかなと思ったら、「目が合っただけ」というシンプルなもので、それ以来「相手の視線」を気にする生活というものが始まってしまいます
インターンから同僚、路上のホームレスまでもが襲ってきて、精神科医に相談したら、犬が吠える理由という的外れなアドバイスをされるに至っていました
物語は中盤まで襲われて逃げるの繰り返しになっていて、バリエーションが少ないので飽きてしまいます
襲わない女マルゴーの登場までが結構道のりが長く、そこからはあっさりと大人の関係になるという、手錠プレイなるものへと発展していました
ともかく、原因を探ろうとしてもあっさりと放棄し、誰でも思いつきそうな対策としての「サングラス着用」をしないのが不思議でしたね
せめて、サングラス越しでもダメだというシークエンスを入れないと、最低限の説得力に欠けるなあと思ってしまいました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
本作には大きなネタバレはなく、それは「原因はわからないまま終わる」からなのですね
最終的にはマルゴーとの間でも問題は解決できず、暴れないように手錠をはめたり外したりという状況のままフランスを離れることになりました
不条理スリラーとして、素人目線では科学的な見地は得られないというのは良いと思うのですが、個人レベルでできることとして「セックスしたり、見つめ合いたい時だけ手錠をする」というのはどうなのかなと思いました
むしろセックスしたいだけなら後背位オンリーでも満たされるわけで、見つめあわなければ死ぬということもありません
彼らが外国に逃げたか、人がいない土地を目指したのかはわかりませんが、言葉が通じない国に行くとさらにリスクは高まるし、生活必需品が得られない地方だと自給自足の生活に対応しなくてはいけなくなります
フランスだけではなく、世界的なものだといずれはインフラも止まり、インターネットなども使えないので、そういった世界で彼らが生きていけるのかは何とも言えない部分があるように思えます
そもそも、襲われるということがわかっているのに「武器を確保しようとしない」というところが一番不思議でしたね
暴力には暴力をではありませんが、最低限の自衛手段を持つ必要はあると思います
■このような世界でどう生きるべきか
これまでの人生で理由なく殴られるとか、身に覚えがないまま追われるという経験はありませんが、このような理不尽な暴力に対しては、すぐに距離を取る方が良いと思います
人は話し合えばわかると思いがちですが、実際には話し合ってわかるまでの会話量というのは相当なものがあります
最終的に分かり合えるかもわからないまま対話を続けるのは、相手が話し合いに応じている場合だけで、暴力が先に出るという状況では命取りになりかねません
今回の場合など、因果が過らない無関係に近いインターン、別の部署の人間などによる暴力というのは、自分の中の理では答えに辿り着けるとは思えません
人が暴力に訴えるには色んな様子がありますが、その人の中で暴力という手段に出るまでに葛藤があるパターンと、今回のように精神的な不具合による非主体的なものがあります
葛藤があるパターンだと、自分が知らない間にヘイトを与えていたというもので、身に覚えがあるかもしれないと考えてしまいます
でも、その答えは相手の中にしかなく、その前に暴力があるので、それらを回避して、安全な話し合いができるまでは回避するしかありません
暴力的なモードに入っている段階で冷静な話し合いができることはなく、暴力の源である怒りの感情が落ち着くまで、かなりの時間を要します
逆に葛藤がないパターンだと、まったく状況が理解できないので、暴力を受けた側もパニックになると思います
映画のヴァンサンは、インターンや同僚はひょっとしてと思わなくもありませんが、車の女などは関わりすらないので、何が相手をそうさせているかはわからないのですね
なので、とりあえず「相手の視界から消える」というのが前提で、そこから「暴力から逃れる方法」というものを探すことになります
相手を視認できる距離で安全地帯を探すのは難しいのですが、脅威を完全に視界から消してしまうと、どこから来るかわからないという恐怖を抱えることになります
ヴァンサンは相手が何らかの理由で凶暴化し、それが自分の問題ではないことに気づいていきます
マルゴーに状況を知らせるために「相手の凶暴化」を利用するに至るのですが、ここまで冷静になれると、この状況から半分脱している状態になっていると思います
その後、ヴァンサンとマルゴーは「いつ自分たちがあの状態に陥るか」というものを考え始めます
先に症状が出たのがマルゴーで、そこから手錠プレイへと移行していくのですが、そこまでして関係性をつなぐ必要があるのかは、何とも言えない部分がありましたね
■勝手にスクリプトドクター
本作は、未知のウイルスか何かわかりませんが、フランス全土にて同じような状況が起きていました
誰彼も関係なく暴力的になるというもので、その原因の特定には至っていません
いわゆるディザスター系パニック映画に近く、その視点をある個人にしていて、その原因究明であるとか、対処する側ではないところが新しくもありました
印象としては、状況に乗じた暴力主義者が出るなどの変化があって、それによって主人公側の推測が外れて困る、というシークエンスがあった方が良かったと思います
前半では、なぜ自分は暴力を振るわれるのかを考えるシーンがあり、その答えは出ないまま、状況に流されていくことになります
ヴァンサンは「視線を合わせること」がトリガーになると感じ、それで「人との接触を避ける」という方法を選びます
そんな中で、ウェイトレスのマルゴーと出会い、彼の仮説が覆って、非暴力の人間と会うことができました
そこから2人は大人の関係になるのですが、この状況でそこまで関係が進むのは不思議でなりません
本作の根幹にあるのは、人間不信のようなもので、その状況に差し迫っても人は愛しあえるのかを描いているように思えます
疑心暗鬼の中でスタートしてヴァンサンとマルゴーの関係が、安全とわかると自然な関係になり、それでも症状が出てしまうというものなのですね
この段階になって、彼女の症状の原因を突き止めるか、許容して対応するかを迫られるのですが、ヴァンサンは「対応」する方向に舵を切ります
それが手錠をしたまま愛するというもので、そこまでしてするべきなのかというところが疑問に思えてしまいます
マルゴーが旅先で出会ったウェイトレスではなく、かつての恋人とか、今の想い人とかなら理解はできるのですが、そこまででもなく、ゆきずりの出会いだし、彼女がヴァンサンと同じように暴力に晒されてきた、というエピソードも弱いものがありました
なので、マルゴーとの関係をメインで描くなら、前半の日常パートで彼女を登場させ、行きつけのダイナーのかなり気になっている人である、ぐらいの設定が必要になります
冒頭でダイナーに行き、そこでマルゴーの接客を受ける中で、ヴァンサンの恋愛状況がわかります
そこから出社したら、いきなり暴力を振るわれる
因果をミスリードにするならば、昼休みなどに同僚たちと言って、マルゴーと親しく接しているのを嫉妬していると誤解させても良かったように思います
ヴァンサンはマルゴーへの嫉妬からの暴力だと思い込むけど、実際には関係なく、無関係の人からも攻撃を受ける
そんな中で、マルゴーは大丈夫なんだろうかと思って、彼女の店に行くという流れの方が「後半の2人の選択」がしっくり来るように思えました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、ワンシチュエーションとしては面白いのですが、途中で同じ境遇の男が登場し、謎のサイトを教えてもらうというくだりあたりから微妙な感じになってしまいます
映画の設定の背景にはコロナによる人間不信のようなものがあって、それを疾病から突発的な暴力に置き換えているのですが、謎サイトの陰謀論とか、希望の新天地があるみたいな流れはどうしてもチープなものになってしまいます
『バイオハザード』をはじめとした、ディザスター系には必ずある「希望の新天地」なのですが、この設定が使い古されたものになっていて、現代風刺を込めている作品とは相性が悪いように思えます
物語の行き着く先として、どこかに安住があると考え、それに縋るのはわかりますが、この映画の状況におけるヴァンサンの視点と能力では、動く方がリスクが高そうに思えます
なので、状況と距離を取りつつ、それらの動きを観察しながら生きていくという方が理解しやすいように思えました
映画内では、最終的に戒厳令ぐらいまでの状況になっていて、物語の目指す先は「都市は危ない」というものでしょう
いわゆる都市封鎖における閉鎖性の怖さというものから逃げた方が良いというメッセージ性があるのだと思いますが、そこまで感じられるかは微妙だと思います
マルゴーとの関係をきちんと設定した上で、ヴァンサンならこうするだろうという人間性を描かないと説得力が生まれないので、状況に翻弄されるだけの前半では弱いでしょう
とにかく逃げ回っているという状況だけをホラーとして描くのなら人間性の描写はそこまで必要ありませんが、それだと「ジェットコースター理論」のような感じで偶然マルゴーと逃げることになった、という展開の方が良いと思います
マルゴーが彼に食料を届けて店に戻ると、そこは地獄絵図だったという感じになっていて、マルゴーが避難を求めてヴァンサンを頼る
そうした中で先の見えない逃避行をする中で、事件が起きるという展開であれば、手錠プレイも活きてくるのかなと感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101560/review/03826627/
公式HP: