■雪の中に埋もれていたのは、人の知恵を未来につなぐ小さな苗だったのですね
Contents
■オススメ度
種痘の歴史に興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2025.1.24(MOVIX京都)
■映画情報
情報:2025年、日本、117分、G
ジャンル:天然痘の予防のために尽力した町医者を描いた伝記映画
監督:小泉堯史
脚本:齋藤雄人&小泉堯史
原作:吉村昭『雪の花(新潮文庫)』
Amazon Link(原作)→ https://amzn.to/4hx2otp
キャスト:
松坂桃李(笠原良策:福井藩の町医者、漢方医)
芳根京子(千穂:良策の妻)
役所広司(日野鼎哉:京都の蘭方医)
沖原一生(桐山元中:鼎哉の門人)
坂東龍汰(日野桂州:鼎哉の息子)
新井美羽(お愛:鼎哉の娘)
吉岡秀隆(大武了玄:加賀藩の町医者、蘭方医)
三浦貴大(半井元冲:福井藩の藩医)
益岡徹(中根雪江:福井藩の側用人)
綱島郷太郎(秋田八郎兵衛:福井藩の役人)
矢島健一(狛帯刀:福井藩の家老)
山本學(旅籠の主人)
渡辺哲(質屋の主人)
串田和美(伝兵衛:村長)
宇野祥平(与平:百姓)
山田キヌヲ(与平の妻)
三木理紗子(はつ:与平の娘)
橋本一郎(柿屋宗助:良策に協力する男)
和田光沙(宗助の妻)
鳥木元博(福井藩の役人?)
櫻井勝(強盗?)
安藤彰則(良策を襲う浪人)
■映画の舞台
江戸時代末期、
日本:福井藩&京都
ロケ地:
福井県:大野市
武家屋敷旧田村家
https://maps.app.goo.gl/fE8ty3QDwvTYrx4e6?g_st=ic
武家屋敷旧内山家
https://maps.app.goo.gl/a2QTgWp9THZ2X5pb8?g_st=ic
佛性寺 黒谷観音
https://maps.app.goo.gl/YEH82Kz1q6scT9eL9?g_st=ic
福井県:勝山市
岩尾観音
https://maps.app.goo.gl/7LSe1pWrUeeiuR356?g_st=ic
福井県:南条郡
針伏山城趾
https://maps.app.goo.gl/5YnMvvgbj8eaMr6VA?g_st=ic
滋賀県:近江八幡市
奥石神社
https://maps.app.goo.gl/vYn2fKkuAgeNySJd8?g_st=ic
■簡単なあらすじ
江戸末期の福井藩では、疱瘡による死者が絶えず、町医者の笠原良策は何とか治療法を見つけたいと思っていた
そんな折、加賀藩の町医者・大武と出会い、蘭方について知ることになった
大武は京都にいる蘭方医・日野を紹介し、良策は弟子入りすることになった
日野から多くを学ぶ中、「引痘新法全書」に出会った良策は、「種痘」と呼ばわれる方法について知ることになった
この方法を取り入れることができれば根絶できるのではと考えるものの、日野は外国から取り寄せて、京都や福井まで持ってくることは不可能だと言う
さらに種痘に使う牛痘の種は7日間を過ぎると効果が薄れることもあり、人から人へと繋ぐしか方法がなかった
それでも諦めない良策は、京都への持ち込みのために幕府へ嘆願し、その許可を経て、京都まで持ってくることに成功する
さらに、峠を越えて福井に持ち込む計画を立て、協力者とともに、大雪の中で峠越えを敢行することになったのである
テーマ:志の強さ
裏テーマ:志を支える力
■ひとこと感想
種痘と呼ばれる予防接種のはしりを広めた人ということで、ほぼ無名の町医者が幕府をも動かしたという史実がベースになっています
時代劇ではあるものの、チャンバラはエッセンス程度にありますが、笠原夫妻が武士でもないのに強過ぎて笑ってしまいました
映画は、出来事を淡々と描いていく流れになっていて、かなりスローなテンポになっていると思います
天然痘を生き延びたはつの歌唱シーンとか、千穂の太鼓のシーンが必要なのかは分かりませんが、それ以上に描かないとダメな部分が多いように思います
原作は未読なので、どういった改変があったのかは分かりませんが、印象としては淡々と描いていって、音楽のシーンでオリジナル性を求めたのかな、と思いました
病院勤務なので興味を持って鑑賞しましたが、あまり専門的なところは登場していませんでしたね
また、種痘の副作用に言及しないのもどうなのかな(噂話で死んでる言及くらい)と思いました
それでも、専門知識を排した方が伝わりやすい部分もあると思うので、本作的には良かったのかもしれません
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
史実ベースなのでネタバレっぽいものはありませんが、サプライズは千穂が男勝りな女の子で、夫はそれを知らなかったというところでしょうか
彼女の「えっへん、えっへん」は監督の指示だと思いますが、セリフ掛かっている割には平坦なセリフが多かったように思います
登場人物の漢字はほぼ変換できないので、ある程度の人物に関しては、役職とフルネームを字幕表記しても良かったのかな、と思いました
映画は、本当に淡々としているので、雪山遭難あたりで一緒に寝てしまいそうになりましたね
「起きろ! 死ぬぞ」が観客に向けていっているようにも思えて、かなり遠くからの撮影になっていて、誰が倒れているのかよく分かりませんでした
あの状況で全員無事というのは「本当ですか?」と思ってしまいます
物語性は意外となく、良策は最初から最後までブレず、変わるのは藩の方になっていました
実際には天然痘が流行って、予防接種をした子どもが無事だったことで殺到するというものがあって、そのあたりの手のひら返しをきちんと描いておいた方が良いと思いました
強盗を追い払うとか、浪人に襲われるという無理やりチャンバラを入れなくても、このような同調圧力の変化というものを描いた方が、わかりやすかったのではないでしょうか
■疱瘡について
疱瘡とは、「天然痘」と呼ばれる病気で、かつては「神の罰」「死の死者」として恐れられていたものでした
正式名称は「Variola Virus」と呼び、発症すると「高熱・発疹・全身の水疱」などが現れ、重症化すると「失明」「瘢痕」が残ってしまいます
致死率は20〜50%に達し、多くの人々の命を奪ってきました
今ではほとんど罹りませんが、18〜19世紀頃は「誰もが一度は罹る病気」というほどに一般的だったとされていて、結婚の条件や雇用条件に罹患歴というものがあった時代もありました
世界的には、古代エジプトの時代からミイラに痕跡が見つかっていました
少なくとも紀元前1000年には存在していたと考えられています
転換点となったのは16世紀の大航海時代で、ヨーロッパからアメリカ大陸に持ち込まれた疱瘡によって、先住民の人口に打撃を与えることになりました
これは「銃でも剣でもなく、病で滅んだ文明」として歴史に刻まれていきます
そして18世紀入って、イギリスの医師エドワード・ジェンナーによって「種痘法(ワクチン接種)」という方法が確立され、人類初の「病の予防」という概念を手に入れることになりました
日本においては、「疱瘡神」という形で信仰の対象となっていて、赤い色が疱瘡神を鎮めると考えられていて、病人の枕元に「赤い紙の人形」「赤絵の絵馬」などを飾るという風習がありました
古い文献には奈良時代から流行の記述があり、江戸時代には10年ごとに流行る国民病と認識されていきます
特に幼児の死亡率が高く、「疱瘡を経て大人になること」は通過儀礼のようになっていきました
そして、そんな時代に登場したのが笠原良策という漢方医の町医者でした
■種痘あれこれ
疱瘡に怯えていた時代に現れたエドワード・ジェンナー(Edward Jenner)は、1796年に「乳搾りの女性が牛痘に罹ると人間の天然痘に罹らない」ということに気づきます
そこでジェンナーは、その膿を少年に接種し、さらに本物の天然痘ウイルスを接種するということを行います
この実験によって、人類史上初めての「ワクチン接種」という概念が生まれ、予防医学というものは幕を開けることになりました
ワクチン(Vaccine)というのはラテン語の牛を意味する「Vacca」に由来し、「牛の恵み」によって人類が救われたことを表しています
この方法が日本に伝わったのは19世紀初頭で、オランダ経由で長崎に入った医学書『牛痘伝』を通じて、多くの蘭方医たちが研究を始めました
そして、本作の主人公である笠原良策が1849年に種痘苗を長崎で受け取り、それを地元まで持ってくるということを行いました
この長崎伝来株は、のちに日本種痘の原株と呼ばれるようになり、全国に普及していくことになりました
同じ頃、大阪の蘭学者である緒方洪庵も笠原良策が作った伝達ルートを通じて種痘苗を受け取っていて、自身の医院での接種というものを実施していきます
そして、除痘館という施設を設立し、大阪の子どもたちに無料で種痘を施す活動を始めていきました
これが日本初の公衆衛生的なワクチン接種所の一つとなりました
そして、これらを体系的に根付かせたのが緒方洪庵とされていて、導入者としての笠原良策の成果の上に、普及者としての緒方洪庵の努力というものが生まれる背景となっていました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
笠原良策が戦ってきたのは「偏見」と「思い込み」であり、現在でも新しいものに対する拒否反応というものはあると思います
元々信仰的な存在だった天然痘という側面があり、西洋医学に対する拒否反応も強かったと考えられます
そんな中でも、目的を第一として手段を構築し、その難題を打ち破ったのが笠原良策という人物であると言えます
この映画を通じて切に思うのは、牛痘苗というものは人々の努力によって受け継がれてきたことであると思います
特に一番最初に苗を受けることになった子どもとその親というのはかけがえのない存在だったでしょう
笠原良策を信じていたとしても、彼自身が100%大丈夫と言えるものでもなく、彼の頭脳を信じろと言われているのも同然なのですね
それに従事した人々は笠原自身よりも偉大だと思うし、歴史に名を残す被実験者だったと言えます
理想や理念を伝えることは、人類にとって永遠の課題であり、伝達の段階で「誤解」や「曲解」が生まれてしまいます
同じ目線で同じように物事を見るためには同程度の見識と理解が必要であり、医者と患者にはかなりの隔たりがあると言えます
人を信じる時には権威だけでは信じられないもので、最終的には人となりを信じることになると言えます
そう言った人物というのは稀有なものなのですが、笠原自身が信じてもらえたのは、ひとえに妻の存在が大きかったように思いました
笠原の最大の理解者である妻は、彼ほどの知識を持ってはいません
でも、夫が信じているものを信じる心を持ち、それを代弁者として「同じ責任を負う覚悟」というものを持ち合わせていました
特に今回のケースでは外国で成功したというところがネックとなっていて、どちらかと言えば閉鎖的な日本だと受け入れ難さと言うものは高かったと思います
最大の障壁が「地元の役人だった」と言う構造は、今の時代にもそのまま当てはまるのかも知れません
役人からすれば、笠原の行動の結果そのものよりも、今の体制が変わることを恐れていたと思います
仕事が増えることよりも、自分たちがルールを作る側だったのにも関わらず、民間の方でルールが生まれてしまうことの方が怖い
そんな中でも政府側に協力者を得られたと言うことが打開策となっていて、小役人を動かすには大きなところを刺激すると言うのは、今も昔も変わらなかったりします
そう言った観点から映画を見ると、世の中を変えるためには「ルールを支配する層」をいかにして動かしていくのか、と言うところに尽きるのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101296/review/04699491/
公式HP:
https://movies.shochiku.co.jp/yukinohana/
