■相手のどこを見てきたかによって、修羅場の発現頻度は変わってくると思う
Contents
■オススメ度
バカップルの真髄を体感したい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.10.19(TOHOシネマズ二条)
■映画情報
情報:2022年、日本、119分、PG12
ジャンル:ダメ男と付き合う4人の女性を描いたラブコメディ映画
監督:山岸聖太
脚本:根本宗子
原作:劇団・月刊「根本宗子」第10号(2015年の舞台、下北沢ザ・スズナリにて初演)
キャスト:
前田敦子(岡崎真知子:見た目重視の服飾デザイナー)
菊池風磨(朝井怜人:ヒモ体質の配信者)
伊藤万理華(安西美和:彼氏依存の金髪ギャル)
オカモトレイジ(万城目泰造:ハイテンションですぐにパニくるフリーター)
黒川芽以(北川七瀬:子持ちの風俗嬢)
三浦貴大(飯島慎太郎:プライドだけは高い子役時代がピークの売れない俳優)
趣里(櫻井鈴:元子役のバラエティタレント)
千葉雄大(星川富:あざとかわいさを売りにしている自分好きのゲイ)
■映画の舞台
東京のどこか
ロケ地:
東京都:台東区
浅草病院
https://maps.app.goo.gl/r1bGjmH9MF3tRAKe6?g_st=ic
東京都:練馬区
くすりの早宮
https://maps.app.goo.gl/67KUuJ4NtABFfw9a7?g_st=ic
東京都:足立区
ベニースーパー佐野店
https://maps.app.goo.gl/rhqXrWiKp7yzMMnk6?g_st=ic
■簡単なあらすじ
中学時代の知り合いの怜人から連絡を貰った真知子はいつしか彼を部屋に住まわせて同棲生活を始めていた
ギャルの美和とフリーターの泰造はどうでも良いことで盛り上がる仲で、美和は彼氏色に染まるタイプだった
風俗嬢の七瀬はいつも指名してくる俳優の慎太郎に隠し事をしながら、一風変わったプレイを楽しんでいる
バラエティで生計を立てる元子役の鈴は、ゲイの富と同棲生活をしていたが、鈴の心境に少しだけ変化が見られていた
2020年、この4人はコロナ禍でそれぞれの相手との時間を楽しんでいたが、それぞれの時間は長くは続かず、とうとう4人の女性は喧嘩別れして、相手を家に追い出してしまった
時は遡り、2018年、4人の女性はそれぞれ別の男と付き合っていた
真知子はデザイナーのモデルになってくれる富と、美和はしがない配信者・怜人と、七瀬は妙な自信家・泰造と、そして鈴は元子役同士の慎太郎と付き合っていた
だが、それぞれの関係性は破綻してきて、それと同じような難題が彼女らを襲おうとしていたのである
テーマ:自分勝手
裏テーマ:度量
■ひとこと感想
タイトルの響きと、キャストに興味があったので参戦
まさかの舞台原作で、編集の凝った映画になっていました
4組のカップルの幸せが一転して不幸のどん底に落ちていく感じで、全く共感できる瞬間のない稀有な作品となっていましたね
でも、この凝った編集は結構好きで、正論をぶちまける瞬間もすごかったですね
ちょっと凄いものを見た感があって、でも後半の展開で「ポカーン」となる人が続出しそうに思いましたね
まさか映画の構成が「超越してくる」とは思いもよらず、どういう脳の構造をしていたら、このような展開と演出になるのかが理解できませんでした(褒め言葉ですよ)
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
些末なせりふの先々まで行き届いていて、至言の嵐の中、正論でぶった斬る瞬間は爽快でもありました
せりふが速すぎてアレですが、良く覚えられるなあと感心してしまいます
後半の舞台劇メタ演出は個人的には好きで、「ああ、これ舞台で見たら面白いやつや」的な感じが伝わってきましたね
着地点が見えない中でも、きちんとオチがついているところは素敵だったと思います
映画は「それぞれの女性が2度クズ男と付き合う」と言う内容になっていて、過去と現在が逆になる構成も見事でした
エンドロールが流れてからのツッコミも素晴らしく、好みは分かれると思いますが、ハマる人にはハマりそうな内容でしたね
個人的には「グサッとくるところがなくて安心」と言う感じで、かと言って「バカだな」と突き放すにまでは至らない微妙な距離感でした
それぞれが2回ともクズ男と付き合うのですが、それぞれの本質が変わらないまま、同じようなジレンマになっていくところは面白かったと思います
■クズ男にハマる理由
世の中には「どうしてこんなクズ男がモテるのだろう」と不思議に思うことがあります
DV夫からなぜか離れられない妻とか、お金とか体目的にしか見えないカップルなど、世の中には多彩な関係が存在しています
それらは個人的な趣向と言ってしまえばそれまでなのですが、ここでは本作に登場する男性4人を限定にして、彼らになぜハマるのかを考えていきたいと思います
怜人はミュージシャンとかYouTuberを目指しているイマドキの青年で、いわゆる「将来設計がゆるいヤツ」ということになります
若い頃は勢いで許されても、25歳ぐらいになると「まじ、ヤバくね」と自分でも思いながら、「でも、もしかしたら」という他人任せの願望に縋って、現実を見ない人になっていきます
彼と付き合ったのは「美和と真知子」で、経済的な観点が真逆の存在でした
美和の美顔器にツッコミを入れる一方で、家賃とか仕送りなどの問題が表面化しています
この二人は「金銭感覚」の価値観の違いの中で、女性側が「相手に頼られている」という感覚を自分本位に良い方向に解釈していました
無論、破綻の原因は「金銭トラブル」から「感情の発露」が誘発されていました
泰造は自信家のフリーターで、彼と付き合っていたのは美和と七瀬でした
この二人の間で起こったのは「女性の身体と健康の問題」で、それに対する泰造の反応によって、破綻していく道を歩みます
この二人の中で起こったのは「今が楽しければそれで良い」という関係で、自由度が高く、それによってお互いの精神性が解放されています
でも、病気と妊娠によって、二人の人生を束縛する身体問題が発覚したときに、男性側の覚悟とか心情というものが露見し、それが女性を傷つける結果を生んでいます
この根拠のない自信を有するタイプに依存した女性ですが、肝心な時にその根拠のない自信が自分を守ってくれるかもしれないという幻想を抱いていて、それがないことがわかった時に破綻を迎えています
慎太郎はプライドの高い子役出身で、自分自身の過去の栄光に縋っているタイプの人間でした
七瀬との関係では、相手が業界に詳しくないというマウントの上、自分自身の優位性を保っています
鈴との関係では、相手が同じ境遇で同じ悩みを持っているという感じになっていて、七瀬とは全く逆の関係性になっていました
無知がゆえに起こる優越感と、既知がゆえに起こる同調性
無論、これが破綻するのは「優越感がかりそめであると男性が認知した時」と、「相手との共感性のバランスが崩れた時」になっていました
いわゆる、慎太郎のプライドが崩れ去る瞬間に、それに合わせていた女性側との間で「勝手に男性側の心が折れる」ということになっていて、その折れたという感覚に女性は気づくことができません
最後の富に関しては、恋愛関係になってしまった同性愛者との関係ということになっていて、この関係は真知子も鈴も同じように「相手を好きになっていく」というプロセスを踏みます
でも決定的な違いは、「同性愛者と知っていたか」というところになっていて、富への好意というものが最終的には自分を傷つけることになります
富は過去の自分の傷を背負っていて、それを忘れられる時間を共有してきましたが、それが叶わないとなると、「自分が傷つかないように振る舞う」のですね
それが女性側を傷つけることになっていて、女性側の好意というものが蔑ろにされてしまいます
趣向と感情が表面化した時に、それまでの共生関係が破綻するので、どちらかが気持ちを抑え込まない限りは、その関係を続けることはできません
この四人の男性は全員自分本位で、相手の感情への配慮が足りません
それゆえに破綻に向かうのですが、それぞれが相手の感情に無頓着というわけではなく、それを理解するための感性が乏しいと言えます
言い争いになっても、相手の発する言葉の裏側を読めないのですが、それが平常時には魅力になっているのですね
常時、裏側を読まれて接する男性というのはとても疲れますので、それぞれの女性の心の平穏の先にあったのが、裏表のない人物だったということになっていました
でも、彼らは裏表がないことに加えて自分本位度が強すぎたために、女性から突き放される結果になっていますね
■超越するとはどう言うことか
本作の「超越」とは、過去の自分の判断基準から一歩上のステージにいくこと、だと解釈できるかと思います
この映画では、女性陣は二度同じ境遇に晒され、2回目の恋愛で「1回目の恋愛を思い出して」、「このままだと同じことの繰り返しである」と認識しています
そして、彼女らの共通の結論が「寛容になる」というもので、作戦会議のようなものが開かれていました
「米を持てる」という、ほぼ最低レベルの妥協点を生み出していますが、その実「許容できる範囲」を広げたということになっていますね
女性側が賢く生きることで関係性を持続しますが、その根底にあるのは「まったく期待しないこと」になっていたのが滑稽でもありました
これまでの4人は「どこか根拠のない自信のある勘違い野郎」だったわけで、そのアイデンティティーを真っ向から否定して、「私、わかってるから」という謎の上から目線で支配されることになるのですね
これまでの男性優位が虚構であることがバレて、有事に何もできないことが発覚したので、それぞれの間で力関係が決定してしまっているとも言えます
これを母性というのかは微妙ですが、相手を完全に子どもなんだと理解することで、期待値というものが「存在しているだけでOk」になっています
実際には、彼女らも自分自身に自信が持てなくて、この関係を終わらせてしまったら次に自分を好きになってくれる人が現れないんじゃないかという不安があるのですね
なので、その不安というものを恐怖に変えることによって、彼女たちは「その恐怖に対処する道」を選んでいました
不安とは漠然としたもので、想像力によって増幅するものです
これから先に出会うであろう男性との関係はまったく想像もつかないもので、それを楽観的に捉えることもできますが、彼女たちは悲観的に捉えていました
そうして、これまでに過ごしてきてわかっている相手との関係を継続することで、想定外というものを除外していきます
その想定外の除外にもっとも有効だったのが、「相手に何も期待しない」ということで、自分に向けられた好意というものと自分自身の相手への好意というものを最優先事項に据えたということになります
これが、彼女たちのパラダイムシフトになっていて、それを言い換えると「超越する」という言葉になるではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
男女関係がうまくゆくコツは、「嫌いなことが共通すること」という持論があります
「許せないこと」を共有することで、それをお互いにしないことによって、その関係性の持続性が得られるというものですね
本作では「女性側が許せないライン」というものが男性側に伝わることによって、その境界線というものが描かれていました
女性側はそれを譲歩し、男性側は改善を試みるという変化によって、関係性が維持されていくことになっています
彼らに共通するのは「自分が無視される恐怖」で、それに気づかないことで関係性が悪化しています
その無視を分解すると、「自分がこんなに愛していることをわかってくれない」であるとか、「自分がこんなに傷ついていることをわかってくれない」というものになりますね
なので、女性側の気持ちをいかに汲み取れるかというのが、男性側に求められる資質であると言えます
この映画に登場する人物は「自分がバカである」と自認していて、それが強烈なストレスを産んでいます
それぞれがバカであるというのは、それぞれが求めているものに対してスムーズではないという意味が強く、それは「自分の感情をうまく言語化して相手に伝えられない」というところがあったりしますね
彼らは自分はコミュニケーションに長けていないことを自覚していて、これまでの関係性も感覚的な会話でわかり合っているように思っていました
でも、適切な言語化がされずに、感覚的に捉えながら、その解釈というものを共有化していません
それが、関係の破綻への火種になっていた、と考えられるのではないでしょうか
これらを是正するにはトレーニングが必要なのですが、単純に心理学などを勉強するということではありません
学問は役には立ちますが、それは対人関係の中で引き出しが増えるだけに過ぎません
それよりも鍛えるべきことは「共感力」ということになっていて、それは「相手の立場に立って物事を考える癖をつける」ということになるでしょう
また、自分自身と相手とを分離させずに、自分に起こることは相手にも起こるし、相手に起こることは自分にも起こると考えることです
人の感情的な反応はそれほど差異がないと思います
その沸点とか感点に違いはあっても、「自分の許せないことがあったら怒る」というのは同じなのですね
なので、相手が許せないことは何かというものを学んでいくことになります
人は感情が瞬間的に沸騰すると考えがちですが、実際には小出しに様々な反応が露呈しているものだと思います
感情の言語化が難しくても、身体反応は正直なので、いつもと様子が違うということを理解できれば意外とわかってくるものでしょう
そのために必要なのは、「ちゃんと相手を見る」ということで、彼らにそれが極端になかったのは、自分ばかり見ていた(=自分だけがかわいい)という価値観が強すぎたから、と言えます
本作は、その価値観を「女性側が変えた」という物語になっていて、男性陣としては心苦しい場面が多い作品だったかなと思いました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/379835/review/f73eabc3-a046-4fa8-aa9a-b628b04ddbcf/
公式HP:
https://happinet-phantom.com/mottochouetsu/