■エンディングの起用と質感を考えれば、ライトなホームドラマ以上のものにはなり得ないのですね
Contents
■オススメ度
親バカの物語が好きな人(★★★)
宮沢賢治の作品が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.5.5(イオンシネマ久御山)
■映画情報
情報:2023年、日本、128分、G
ジャンル:実在の作家、宮沢賢治の生涯を父との関わりを重視して描いたヒューマンドラマ
監督:成島出
脚本:坂口理子
原作:門井慶喜『銀河鉄道の父(2017年、講談社)
キャスト:(わかった分だけ)
役所広司(宮沢政次郎:賢治の父、質屋)
菅田将暉(宮沢賢治:作家を目指す青年、長男)
(幼少期:幡上駿成)
森七菜(宮沢トシ:賢治の妹、長女)
(幼少期:根本真陽)
豊田裕大(宮沢清六:賢治の弟、次男)
(幼少期:番家一路)
中村莉久(宮沢シゲ:賢治の妹、次女)
(幼少期:てん子)
石川萌香(宮沢クニ?、三女)
坂井真紀(宮沢イチ:賢治の母)
田中泯(宮沢喜助:賢治の祖父)
池谷のぶえ(政次郎の店の客、反物を売る女性)
こんばやし元樹(政次郎の店の客、1円にもならない鎌を売りにくる男)
水澤紳悟(懇願する農民?)
井上肇(本屋?)
益岡徹(賢治の主治医)
石川紗世(看護師)
石川淋(看護師?)
小林きな子(列車の客?)
たれやなぎ(車掌)
■映画の舞台
明治29年〜昭和
岩手:花巻市
東京:上野
ロケ地:
岐阜県:恵那市岩村町
https://maps.app.goo.gl/NsiM2vNF6nFmXvnD6?g_st=ic
昭和堂(おそらくこの辺:国柱会館)
https://maps.app.goo.gl/GEzMNhei9fFA3GbQ9?g_st=ic
木村邸
https://maps.app.goo.gl/9AYbKTjKYacfqFjw8?g_st=ic
遍照山浄光寺
https://maps.app.goo.gl/kkS2wUEizcDSuXHL9?g_st=ic
京屋家具店
https://maps.app.goo.gl/YNCKnqvcxdg55oFX8?g_st=ic
岐阜県:恵那市明智町
明智町
https://maps.app.goo.gl/fDYWy63mAqjuX3WS8?g_st=ic
さつき旅館
https://maps.app.goo.gl/FaWxSeofDyFrGw3p9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
岩手・花巻にて生まれた賢治は、質屋の父・政次郎とイチに育てられ、妹トシ、シゲ、クニと弟の清六たちとともに楽しく過ごしていた
父は賢治に跡を継いでほしいと考えていたが、彼には商才がなく、情に絆されて「1円にもならないもの」で5円貸したりと散々な金銭感覚をしていた
政次郎は彼を高校に行かせたが、祖父・喜助は「文学や音楽にのめり込む」ことを懸念していて、その思惑は的中する
だが、大学に行きたいと言い出した賢治が選んだのは農民の大学で、賢治は自分なりの方法で農民の役に立ちたいと考えていた
賢治は妹トシを溺愛していたが、彼女が病魔に襲われてからは、さらに不安定な精神性を披露し始める
病に伏してからは、幼少期の約束を思い出して、彼女のために物語を描き始める
だが、トシの体は一向に良くならず、24にして亡くなってしまった
賢治はその時の想いを認めた詩集「春と修羅」を自費出版するものの、世間には見向きもされない
だが、父は「ワシが宮沢賢治の一番の読者になる」と言って、文筆業を続けさせた
そして、そんな賢治にも病の足音が近づいてきてしまうのである
テーマ:創作の原点
裏テーマ:兄妹愛の深さ
■ひとこと感想
宮沢賢治の父親の話だと思っていたら、内容はガッツリと「宮沢賢治の生涯」と「トシへのVOVE」に支配されていましたね
賢治の最期で父の存在感が増しますが、それまでは空気に近い存在になっていました
映画は、宮沢賢治の作品を読んでいることが前提になっていて、どこでどの作品がどのような感じに作られたかを描いていきます
なので、最低限『風の又三郎』『銀河鉄道の夜』『春と修羅』あたりは押さえておいた方が良いでしょう
映画は、どちらかといえば「作品が生まれる土壌」を描いているので、その瞬間を知りたい人には良いですが、家族愛と感動!を期待すると肩透かしを喰らうと思います
でも、最悪なのはエンディングの選曲でしょうねえ
映画館でどよめきが起こったのは久しぶりでしたね
余韻を感じたかったので聴覚を切断して、エンドロールだけを眺めるハメになりました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
てっきり「父親の妻との馴れ初め」がメインで、賢治が生まれたら終わる系かと思っていましたが、ガッツリと宮沢賢治の自伝になっていましたね
それはそれで良いのですが、映画のスタイルだと「宮沢賢治はシスコンで変人」という感じになっていて、彼が文筆業で名を馳せた経緯は完全にスルーになっていました
映画のラストで唐突に出てくる「宮沢賢治全集」ですが、それまでの実績を考えると、どこが博打を打ったのか気になってしまいますね
史実では、文圃堂というところが刊行したのですが、それに関わった弟・清六の存在が薄くて悲しそうになります
その後の賢治の作品の校正に深く関わった人物だったので、賢治が彼に原稿を託すことに繋がったエピソードが欲しかったなあと思いました
物語は、家族愛ベースでネタ元が宮沢家という感じになっていますので、その方面の作品が好きなら良いかもしれません
でも、何度も書きますが、エンディングの選曲は雰囲気に合っていなかったので、アレンジを施したインストルメンタルにして、予告編などで使用すれば良いのになあと思いました
■『銀河鉄道の夜』あれこれ
映画のタイトルの元にもなっている『銀河鉄道の夜』は、1934年に刊行された小説で、宮沢賢治の死後に刊行されました
初稿の草稿は1924年頃で、1931年まで推敲が繰り返され、1934年の文圃堂版全集(映画で父が手にしていたもの)にて刊行されました
推敲が何度かなされていて、1〜3稿と4稿では大きな改稿が行われたと言われています
この間で題名が変わったり、冒頭の3章分、結末のカムパネルラの顛末などは第4稿にて追加されたものだとされています
物語は9章に分けられていて、草稿での小番号は「1、3」のみが振られていました
主人公はジョバンニという空想好きの少年で、新聞配達と活版印刷所で働いています
始まりは、授業中に天の川について質問されたジョバンニは答えを知っていても答えず、同級生のカムパネルラも答えないというシーンから始まります
そこからジョバンニの日常が描かれる中で、「銀河のお祭りに出かける」のですが、そこで紆余曲折があって、「銀河鉄道」に出会うという流れになっています
その銀河鉄道にはカムパネルラも乗っていて、その列車に乗って二人が銀河を旅する中で、様々なものに出会っていくのですね
映画では、完成した『銀河鉄道の夜』を父・政次郎が読み始めるところで終わりますが、この小説が生まれた経緯は何となく読めますが、刊行に至るまでのお話はすっ飛ばされていましたね
賢治は清六に原稿を託していますが、それは史実通りのことですが、実際には「好きにしろ」という感じで渡していました
それを何とか形にしようと奮闘したのが清六で、作家の高村光太郎らの助けを借りて刊行に繋がっています
このエピソードだけでも映画になりそうですが、本作ではキーアイテムの一つとして登場しただけなので、ちょっともったいないかなあと思いました
■創作の誕生と家族の物語の親和性
本作は「家族愛」を前面に押し出していますが、「風の又三郎」と「春と修羅」、「銀河鉄道の夜」に関しては、創作の過程が少しだけ描かれていました
そのどれもが妹絡みということもあって、賢治の創作の原点は「幼少期の妹との約束」がベースになっています
物語を語ることよりも、妹の喜ぶ顔が見たいという原動力があり、それが彼を支えていたようにも思えます
個人的には「創作の生まれる瞬間」というものがとても大好きで、病に臥した妹のために「風の又三郎」を書き始めるシーンなどは胸熱展開でしたね
その後の「春と修羅」と「銀河鉄道の夜」は物足りなさがありますが、ストーリーのメインではないのでやむを得ないかもしれません
創作の現場において、家族との距離感が壊れるという描かれ方が多く、作家とは家族を犠牲にしても創作に打ち込むというのがテンプレートのようになっています
でも、本作における創作は「妹のため」という、とてもプライベートなことを描いているので、第一読者の反応が描かれるという稀有な作品になっています
作家を支える家族としては、父親がそれを担っているのですが、本作での描かれ方は少々物足りないように思えます
特に、父親の目線で賢治の創作と関わっている割には、父が賢治のためにしてきたことが弱く思えるのですね
映画の描かれ方だけだと、「一風変わった息子を受け入れながら、生きるために作家活動を続けさせた」というように見え、経済的かつ心理的な支援をしているように見えます
でも、裏を返せば「賢治のわがままを放任している」ようにも思え、その寛容さの原点がどこにあるのかはわかりません
ある意味、過保護で過干渉ではありますが、賢治の人生を端折っている部分が多いので、父親の賢治LOVEだけが強調されているのですね
でも、その割には妹の出番がやたら多く、しかも賢治の一生を描こうとしているので、人物描写のバランスがあまり良いとは思えませんでした
このあたりは原作からの抽出が問題となっているのでしょうが、描かれる歳月の長さを考えると、連続テレビ小説などの舞台で描く方が良かったように思えました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は「新時代の父」というテーマがあり、これまでの父親が行わなかったことを強調しています
息子の看病をする父とか、進路に関して譲るなどのように、厳格に見えるけれど、流されまくる父親を描いていました
実際の宮沢政次郎は実業家であり地方政治家として活躍し、浄土真宗の篤信家でもありました
作家・賢治との関わりの中でも、マーケットリサーチが重要で、本屋に行って調べさせたりもしていましたね
このあたりのアプローチが実業家っぽいのですが、映画では全く描かれていませんでした
人のために生きるという信念があり、質屋事業に関して賢治と言い合う場面もありました
質屋事業を側から見ていると賢治のような観点になるのですが、家族を養うという役割と地域住民の役に立つということを両立させる以上、商売は厳格に行わなければなりません
でも、結構隙の多い人物として描かれていて、このあたりの柔和さというものが、新しい父親像への布石となっています
映画は「家族愛」を前面に押し出し、とりわけ「父親の無償の愛」をフォーカスしていました
この部分が強調されすぎていて放任に見えるのですが、一人の息子を想う父として関わりすぎている部分はありましたね
ここまでベッタリだと母親の出る幕がないのですが、それに対して妻がはっきりと物を申すあたりも「新しめ」ということなのかもしれません
本作は、ベタなホームドラマが好きな人だと楽しめる反面、要素の抽出に偏りがあるのでスカスカに感じる人もいるように思います
特に宮沢賢治について詳しい人からすれば苦言を呈したくなるようなこともあると思いますし、ホームドラマとして描くために「削りまくったヤバい話」が「映画ですら描かれない」というところに不満を抱くかもしれません
なので、作る人が違えばもっとドライでエグ味のある映画になったと思うのですが、そっち方面に行っても興行的には見合わないように思います
キャスティングを見るだけで、そっち方面には行かないことはわかってしまうので、そのあたりが弱さなのかなあと思いました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/384810/review/4686050b-12e9-4fa3-a434-e658d2cccb45/
公式HP: