■最終的には、高速を降りて一般道を走らなければならないのが人生というもの


■オススメ度

 

『万引き家族』がハマった人(★★★)

チョン・イルさんのファンの人(結構ショッキングかも)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.5.1(シネマート心斎橋)


■映画情報

 

原題:고속도로 가족(高速道路の家族)、英題:Highway Family

情報:2022年、韓国、128分、G

ジャンル:ある事情から高速道路のサービスエリアで詐欺を働く一家を描いたヒューマンドラマ

 

監督&脚本:イ・サンムン

 

キャスト:

チョン・イル/정일우(ジャン・ギウ:サービスエリアを転々とする男)

キム・スルギ/김슬기(アン・ジスク:ギウの妻、妊婦)

ソ・イス/서이수(ジャン・ウニ:ギウの娘、9歳)

パク・ダオン/박다온(ジャン・テク:ギウの息子、5歳)

 

ラ・ミラン/라미란(エム・ヨンソン:ギウに金を貸す女、中古家具店を営む訳あり社長)

ペク・ヒョンジン/백현진アン・ドファン:ヨンソンの夫)

シャオ・チェーテン/샤오 체텐イ・イェシン:家具店の従業員)

チェ・ヒョンジュ/최형주(シヌ:他界したヨンソンの息子)

 

イ・テギョン/이태경(オ・ヒョンサ:ヨンソンからの通報を受けて動く女刑事)

イ・イェジュン/이예준ナム:オ刑事の部下)

 

ソン・ヨンボム/손용범(ジウに2万ウォン貸すカップル)

ソン・イェウォン/손예원(ジウに2万ウォン貸すカップル

チャン・ジュンハク/장준학(ジウを中年男、高級車)

ホ・ブヨン/허부영(ギウを断る中年夫婦)

チャン・ソクムン/장석문(ギウを断る中年夫婦)

チェ・ソニ/최서니(ギウを断る若い女性)

 

イ・ジェウ/이재우休憩所のホットドック売りのスタッフ)

パク・テウ/박태우(ホットドックを買う少年)

 

クォン・ヒョクソン/권혁성閉店した店の店主)

キム・ボムジン/김범진閉店した店の店主)

 

アン・ミニョン/안민영中古家具店のお客様)

ユン・ジョング/윤종구中古家具店のお客様)

 

ホ・ジュンソク/허준석(留置所の男

キム・ジュニ/김준희(留置所の警官)

 

チョン・スギョ/정수교(ギウの妄想に出てくる男)

 

キム・ギリム/김기림(テクを轢きかけるトラックの運転手)

イ・ユル/이율母子保健センターの受付)

 

ソク・ホジン/석호진スーパーマーケットの客)

イ・ホンイル/이헌일スーパーの店員)

チャ・ヨンファン/차용환スーパーの店員)

 

コ・スイ/고수이(セヨン:ウニの小学校の友達)

リセム/이샘(チケット売り場の女性)

 

ファン・ジョンミン/황정민(トッポッキ露店の店主)

イ・ヨンニョ/이용녀(ジスクを診察する婦人科医)

ウ・ジヒョン /우지현(テクにお菓子をあげるコンビニ店員)

 

チョン・ヨンボム/전용범(ドファンと喧嘩になるバーの客)

チョ・ファンジョン/조환준(ドファンと喧嘩になるバーの客)

イ・スンヨン/이승용(ドファンと喧嘩になるバーの客)

 


■映画の舞台

 

韓国の高速道路内

礼山パーキングエリア

https://maps.app.goo.gl/F99kbZbmcs9kj9rp9?g_st=ic

 

舒川パーキングエリア

https://maps.app.goo.gl/Li8gYpwiKQQTJUQ58?g_st=ic

 

ロケ地:

上記のパーキングエリア

 

江華島/Ganghwado(ピクニックシーン)

https://maps.app.goo.gl/USa8Sxf9zXMRQ3rHA?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

訳あって高速道路のサービスエリアで寝泊まりするギウ一家は、エリアの利用客から金を借りては逃げると言う生活を繰り返していた

妻ジスクは身重で、長女ウニは9歳だが小学校に行けていない

末っ子のテクは5歳で、我慢の限界が来ると手に負えなかった

 

ある日、中古家具店を経営しているヨンソンから金を借りることに成功したギウ

ヨンソンは娘たちの不憫さを憐れんで、ウニに5万ウォンをあげてしまう

一家は久しぶりに腹一杯食事をすることができたが、エリア内はテント設営が禁止になっていて、とうとう追い出されてしまう

 

その後、別のサービスエリアに向かったギウたちだったが、そこでヨンソンと再開してしまう

ヨンソンは自分の時と同じように2万ウォンをせびっているギウを見て問い詰めるものの、ギウはシラを切り通す

そこでヨンソンは警察に通報するものの、彼はジスクを置き去りにして逃げてしまった

ジスクは土下座をして懇願し、「子どものためにやった」と訴えた

 

その後、警察の捜査が身を結び、ギウは逮捕される

犯人の確認のために警察署に訪れたヨンソンは、路上で呆然としているジスクに声を掛け、自分の店に連れてくる

ヨンソンの夫ドファンは呆れるものの、彼女はどうしても彼らを見捨てることができなかったのである

 

テーマ:子どものためにすべきこと

裏テーマ:負の連鎖と清算の必要性

 


■ひとこと感想

 

高速道路で生活する家族と言うネタに惹かれて鑑賞

ゴールデンウィークの特殊な番組構成のために、やむを得ず心斎橋まで出向くことになりました

 

映画は、ある家族の負の連鎖を描き、彼らに手を差し伸べる訳あり夫婦が登場します

事故死した息子を重ねているヨンソンと、行き過ぎていることを心配するドファンが描かれ、他人にそこまでする必要があるのかを問うていきます

 

テーマとして、「野良猫に餌をあげる」と言うシーンがあって、この施しは一過性の自己満足ではないかと突きつけています

ヨンソンとしては、彼らの生活が成り立つまでの支援と言う意味合いがありますが、客観的に見ても深入りしすぎな感じがします

 

本来ならば行政が担う問題ではあるものの、根本はジウが過去の清算をしていないからだといえます

投資詐欺に引っ掛かったことが原因でありますが、その後の無計画性を考えると、起こるべくして起こったことのように思えてしまいます

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

サービスエリアには何でもあるので生活できるのでは?と言う着想から作られた物語は、ネットカフェを転々とする若者を彷彿させます

本作の場合は、その状況に加えて妻が妊婦と言う時限的に窮するのが目に見えているのですね

なので、いずれこの生活には終わりがくることが見えていて、その瞬間に彼らはどうするのか?と言う難題が差し迫っていました

 

そんな彼らの元に、息子ロスのヨンソンがやってきて、必要以上の施しを与えることになります

ドファンは「猫に餌をやるな派」で、最後まで面倒見れないことに関わることを良しとしません

彼にも息子ロスの余波はありますが、他人を息子に見立てると言うことはしないのですね

 

この差がどこから生まれているかというと、ヨンソンは息子の死が自分のせいだと思っている節があります

実際にどのような事故で亡くなったのかは描かれませんが、息子は反抗期真っ最中と言う感じで、心の距離があったことを感じていたのだと思います

 

映画のラストは「理想的な生活を妄想するウニ」が描かれ、現実的には両親はともに亡くなっていることを仄めかせていましたね

両親が亡くなって施設行きになると思いますが、ヨンソンとドファンが二人を養子に取ることができれば、救われる未来に近づけるのかな、と思ってしまいます

 


ギウにとっての最適解とは何か

 

投資詐欺に遭って、しかも加害者として追われる身となったギウですが、その程度がわからないために「最適解」というものが何になるのかわかりません

でも、逃亡することで罪を重ねていることは事実で、より悪い方向へと向かっているように思えてきます

韓国の最近のニュースにて、420億円の投資詐欺で懲役16年というものがありました

これは暗号資産絡みのもので、組織的な犯行だったとされています

 

この他には、「金塊を積んだ船を発見して投資詐欺」というのがあって、被害額が9億円で懲役5年が言い渡されています

ギウの犯罪の規模はわかりませんが、自身も騙されて加担していたことが仄めかされているので、組織的な犯罪として10年前後なのかなと想像できますね

指名手配されていたわりには警察の動きは杜撰で、同じような被害が数十件あっても、ヨンソンが告発をするまでサービスエリアの映像を確認していないような感じになっていましたね

このあたりは映画的というか、実際には「同じパーキングエリアで複数の告発があれば」防犯カメラの確認はすると思います

今では個人の車にドラレコが積んでいるので、あの場所は「生活するのには困らないけど、詐欺をするとリスクが高い場所」であるように思えます

 

騙されたとするならば、犯罪の全容解明のために警察に協力した方が得策であるように思えます

でも、これは逮捕の初期段階の話なので、サービスエリアを転々として逃げている指名手配の状態だと、家族を最優先するなら別行動をすべきなのですね

身重のジスクの出産のリスクを考えると、彼女を病院に入院させて、それからギウと子ども二人でどこかに潜伏するしかない

子どもたちの教育を考えるなら、児童相談所に行かせて、ギウ単独で潜伏するしかないでしょう

 

ギウは父としての責務と義務を履き違えているし、愛情で何とかなると考えていましたが、妊婦&子連れで逃亡するのは無理でしょう

なので、パーキングエリアを転々とするよりは、自首して罪を償い、妻子は社会保護の方向に持っていくより他ありません

映画では理想的なチャンスが訪れながらも全てを台無しにしてしまいますが、そういう人間だからこそ、チャンスをチャンスと捉えられないのでしょう

ジスクはヨンソンとの生活の中で冷静になっていて、寝食を子どもたちに提供し、教育の場を設けさせることこそが、親であることの意味であると確信していきます

それゆえに、彼女の思う最適解として、離婚することを決意したと言えるのではないでしょうか

 


ラストシーンの解釈について

 

映画のラストの流れは、「ジウがバーベキューに乱入」「バーベキューの道具が倒れて引火」「ジウを止めようとしたジスクがジウ共々倒れてきた家具の下敷き」という流れのあと、消防隊によって消火、二人が見つかっています

二人が無事だったのかはわからないまま、「ウニ目線の映像」が流れ、あたかも「ジスクは助かって無事出産をして、一緒に働いている」という感じで、「ギウは刑務所にいる」という感じになっていました

このまま終われば、「ああ、そうだったのでね」という感じなのですが、映画はこのシーンの後に、「ウニとテクを抱きしめるヨンソンとドファン」のカットをで締めくくっています

 

その直前のカットで「イェジン(従業員)」が救急隊に促されてその場から退場するので、この4人のカットというのは意図的なものだと推測されます

問題は、この4ショットが映画のラストになっているということなんですね

この流れをそのまま考えると「訪れて欲しかった未来=妄想」ということになります

この妄想は4人の妄想の混合したもので、目線はウニのものになっています

 

ウニから刑務所に入っているジウに対して書いた手紙という感じになっていて、「ジスクは無事に出産し、店番として評価されている」「ウニも学校に行って友達ができた」「お父さんのように苦しんでいる人に施しを与える」というようなことが描かれていました

ギウはおそらく刑務所に入っていて、あの場にいた人が全て無事ということで、店自体の延焼もなく、単に外に置いていた中古家具だけが燃えて済んだ、という感じになっています

これらの出来事が「全て本当だったら」ファンタジーのような物語なのですが、この映画のテイストを考えると、その理想とは真逆のものになっていると考える方が良いのかなと思います

なので、ジウは死亡、ジスクもお腹の中の子どもも死亡という救いのないエンディングになると言えるでしょう

 

でも、この結末の視点を変えると「残酷なハッピーエンドになる」のですね

それはヨンソンとドファンの視点であり、広義な意味としての子どもたちの視点になると言えます

子どもたちは親と一緒にいたいと思っていて、その想いが歪んだまま両親を責め立てているようにも思えます

彼らには親がしてきたことの意味を知らないのですが、いずれ気づく時が来るのですね

そうした時、ギウのことも許せなければ、ギウに追従したジスクのことも許せなくなると思います

ジスクには自分の過去と子どもたちの反発を受け入れられるのかという試練が生じ、それは全員を苦しめることにつながるように思えます

なので、この「広義的」という解釈を考えると、あの両親から離れて普通の生活を送れることというのは最適解に近く、過去を引き摺らないことに繋がると言えます

後は、成長した二人がどのように受け止めるかですが、そればかりはわからないというのが正直なところでしょう

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

子どもが親を恨むかどうかはわかりませんが、ウチの環境も「子どもの養育には最悪だった」というのがあるので、あのまま突き進んだ先にあるものは少しだけ見えてしまう気がします

母親は子どものことを思って離婚したのですが、離婚=愛情の途絶えではないという複雑なものはずっと残っていました

子どもからすれば、子どもの将来を潰した親は憎むべき対象なのですが、それが不在(父)の方にだけ向く訳ではないのですね

なので、その後の躓きなどによって、実在(母)の方に怒りが向くということがあります

 

この感情の向かう先というのは、「そのこと」への理解度に付随するもので、私の場合だと、私が12歳、弟が9歳、妹が6歳という関係性だったので、弟=ウニ、妹=テクという感じになります

私はウニよりも年齢が上だったので、彼女があの時に捉えていた以上の理解度があり、それが「両親の代わりにならなければならない」というマインドへと向かいました

でも、下の子たちはそのようなことはわからず、何が起こったのかを教えることもできません

結果として、その後それぞれが歩んだ道の分岐できたのですが、それが「あの時が全てではない」と考えられるか考えられないかという違いに変わっていきました

 

ウニは頭の良い子どもなので、母が父を名前呼びした時に「関係性が変化したこと」に気づいていて、それがこれまでに我慢してきた母の限界点だったということと同義に思えます

ヨンソンの家に来たことで、本来親がすべきことを痛感し、そして自分の無知さを知るのですね

二人の結婚の馴れ初めはさらっとしたものでしたが、大学の時に知り合った若年結婚で、ギウはその後大学を中退したという回想がありました

この流れで「結婚に対して両家が好意的だった」というのが無理がある感じで、彼らが親族を頼らずに逃げているのも、この結婚自体にも無理があったことに繋がっているように思えます

そうした中で、親としての責務などの教育が欠落した状態で過ごしてきたので、ジスクは「小学校は無料(実際には中学も無料=私立は除く)」ということすら知らなかったのですね

なので、教育のみならず、健康面(予防接種とか)の知識もほとんどないままに過ごしてきたことになります

 

これまでに生活できてきたことの方が奇跡なのですが、「人の良さそうな人に対して困窮する子どもを演じる」というところまでできているので、相当な時間を過ごしてきたことになります

初めはギウに言われるがままだったと思いますが、映画の冒頭ではこなれた寸劇のような流暢さがありました

このまま、あの生活を続けてくと、人生は他人に頼れば何とかなると勘違いしていくでしょう

ヨンソンの保護もそのひとつではありますが、ドファンがいることでバランスが保てるような気がします

ヨンソンの過剰すぎる過保護はジスクの不在でさらに強まるとは思いますが、うまく養子にすることができれば、その過保護は少しだけ収まるように思えます

実際には、あの事件の後にウニとテクは児童相談所に行くでしょうし、そこで名乗りを挙げてもOKが出るかどうかはわかりません

小学校入学の時に親族を偽装しているということもあるので、そのあたりが発覚する可能性も加味すれば、あの4ショットが最後になるようかもしれません

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/386909/review/9f9cfab4-4d62-4878-8bfc-8c2847da244d/

 

公式HP:

https://kousokudouro-kazoku.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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