■才能の開花に必要なのは、やはり「愛」なのかもしれません
Contents
■オススメ度
ニコラス・ケイジさんが好きな人(★★★★)
『フェイス/オフ』が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.4.3(MOVIX京都)
■映画情報
原題:The Unbearable Weight of Massive Talent(巨大な才能の耐え難い重さ)
情報:2022年、アメリカ、107分、PG12
ジャンル:人気俳優がスペインの富豪に呼ばれ、その島の権力闘争に巻き込まれるヒューマンドラマ
監督:トム・ゴーガン
脚本:トム・ゴーガン&ケビン・エッテン
キャスト:
ニコラス・ケイジ/Nicolas Cage(本人役/ニッキー:仕事を精力的にこなす人気俳優&イマジナリーフレンド)
ペドロ・パスカル/Pedro Pascal(ハビ・グティエレス:ニコラスの大ファンの富豪)
シャロン・ホーガン/Sharon Horgan(オリヴィア・ヘンソン:ニコラスの元妻)
リリー・モー・シーン/Lily Mo Sheen(アディ・ケイジ:ニコラスの娘)
ティファニー・ハディッシュ/Tiffany Haddish(ヴィヴィアン・エッテン:CIAエージェント)
アイク・バリンホルツ/Ike Barinholtz(マーティン・エッテン:CIAエージェント、ヴィヴィアンのパートナー)
アレッサンドラ・マストロナルディ/Alessandra Mastronardi(ガブリエラ・ルチェシ:ハビのアシスタント)
パコ・レオン/Paco León(ルーカス・グティエレス:ハビのいとこ)
ジェイコブ・スパキオ/Jacob Scipio(カルロス:ルーカスの部下)
ニール・パトリック・エリス/Neil Patrick Harris(リチャード・フィンク:ニコラスのエージェント)
ジョアンナ・ボビン/Joanna Bobin(シェリル:ニコラスのセラピスト)
カトリン・ヴァンコヴァ/Katrin Vankova(マリア・デリガード:誘拐事件の被害者)
デヴィッド・ゴードン・グリーン/David Gordon Green(本人役:映画監督)
デミ・ムーア/Demi Moore(オリヴィア・ケイジ:ニコラス・ケイジの元妻役)
アンナ・マクドナルド/Anna MacDonald(アディ・ケイジ:ニコラス・ケイジの娘役)
■映画の舞台
スペイン:マヨルカ島
https://maps.app.goo.gl/YtMVKYrbSCTVNk8J7?g_st=ic
ロケ地:
クロアチア
Dubrovnik/ドゥブロブニク
https://maps.app.goo.gl/BdUx1U5ZmDJjYJDeA?g_st=ic
ハンガリー:ブダペスト
Urania National Film Theater
https://maps.app.goo.gl/WW4KxXZxGSTQgQTx9?g_st=ic
アメリカ:カリフォルニア州
シャトー マーモント/Chateau Marmont
https://maps.app.goo.gl/u2hxBgSoo89p3jSG7?g_st=ic
サンセット・タワー
https://maps.app.goo.gl/yoorQPwSDycpuaAr9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
映画スターのニコラス・ケイジは、ホテル住まいの散財家で多額の借金を背負っていた
次回作に意欲を見せても、なかなか話はまとまらず、娘からはウザがられる始末だった
ある日、エージェントのフィンクから、スペインの富豪からオファーがあることを告げられる
破格の金額だったが、映画出演を優勢したいニコラスはそれを拒む
だが、にっちもさっちも行かなくなり、やむを得ずオファーを受けることになった
スペインで菜園を営んでいるハビは、ニコラスの大ファンで、彼を主役にした映画を作りたいと考えていた
彼はなかなかそれを言えずにいたが、意を決してそれを伝える
ニコラスは戸惑いながら、2人で良い映画を作ろうと伝えた
だが、そんな折、CIAがニコラスを拉致し、ハビはマフィアで選挙妨害のために政治家の娘を拉致しているというのである
そして、ハビの家に出入りできるニコラスに潜入捜査官になれと迫るのであった
テーマ:才能の使い方
裏テーマ:信念と狂気
■ひとこと感想
ニコラス・ケイジさんがニコラス・ケイジ役で登場するメタ映画ですが、さらにその奥があるという、かなり込み入った構成になっていました
映画鑑賞理由もこのメタ構造で、どんなことになるのかなと思っていましたが、さらなるメタになっていたのは面白かったですね
映画は「映画の中で映画を作る」というもので、どこからどこまでが虚構なのかという面白さがありました
基本的には『フェイス/オフ』がベースになっているので、それを観ていないとキツいかもしれません
その他は「会話の中に出てくる程度」なので、ウィキであらすじぐらい読んでいればOKでしょうか
作中で登場するのは『カリガリ博士』『パディントン2』『ナショナル・トレジャー』『コレリ大尉のマンドリン』あたりですね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画の中で映画を作る作品ですが、本作の場合は「映画のシナリオを話し合う」というもので、その過程でCIAの潜入捜査員を兼任するというものでした
実際には、それら全てが映画の世界になっていて、その境目はドラッグハイのあたりからかなと思いました
親友になっていく過程で、実は極悪人なんじゃないかと疑うことになるニコラスですが、同じようにハビの心も疑心暗鬼になっていく流れになっています
ストーリーを追っていくと、映画的だなあと思えてきますが、そんまんま映画だったというのは突き抜けていましたね
最後の救出の後から「制作された映画」に変わって、嫁役がデミ・ムーアさんになっていたのはメタをネタに使う正攻法だったように思います
賛否が分かれる映画ですが、まずは『フェイス/オフ』ありきで展開しているので、それを観てからの方が良いのかなと思いました
■引用作品あれこれ
『フェイス/オフ(Face/off)』
1997年のアメリカ映画、監督はジョン・ウー
ニコラス・ケイジの役柄は、子どもを殺したテロリストのキャスター・トロイ
殺した子どもの父アーチャー(ジョン・トラボルタ)と顔が入れ替わるというもので、それぞれの社会的地位が反転し、相手のふりをしながら生きていくという物語です
『カリガリ博士(Das Cabinet des Doktor Caligari)』
1919年のドイツ映画、監督はロベルト・ヴィーネ
基本的にはモノクロ映像だが、場面に応じて、赤や緑の色が混じる演出がなされています
精神異常をきたしたカリガリ博士と、彼の忠実な患者チェザーレの物語で、2人が起こしてしまった殺人事件を追っていきます
『ナショナル・トレジャー(National Treasure)』
2004年のアメリカ映画、監督はジョン・タートルトープ
歴史学者の冒険家ベンジャミン・ゲイツの物語で、このキャラクターをニコラス・ケイジが演じています
「アメリカ独立宣言書」に秘宝が隠されていて、その謎を追っていく物語です
『コン・エアー(Con Air)』
1997年のアメリカ映画、監督はサイモン・ウェスト
軍を除隊したキャメロン・ポー(ニコラス・ケイジ)が、酒場での喧嘩で収監され、囚人専用機「コン・エアー」に乗せられます
その飛行機がハイジャックされ、事態の打開に奮闘するという物語です
『ザ・ロック(The Rock)』
1996年のアメリカ映画、監督はマイケル・ベイ
「ザ・ロック」と呼ばれるアルカトラズ島を占拠したアメリカ海兵隊が率いるテロリストと、それを制圧する特殊部隊との攻防を描いた物語です
ニコラス・ケイジは事態を収束させる特殊部隊のグッドスピードを演じ、共闘するジョン・パトリック・メイソン(ショーン・コネリー)とともに海兵隊たちと戦いながら、島からの脱出を目指していきます
『60セカンズ(Gone in Sixty Seconds)』
2000年のアメリカ映画で、監督はドミニク・セナ
窃盗のエキスパートのメンフィス(ニコラス・ケイジ)の元に昔の仲間がやってきて、弟の危機を伝えにきます
そこでメンフィスは母との誓いを破って、弟の救出のために課されたミッションをクリアするという物語です
『リービング・ラスベガス(Leaving Las Vegas)』
1995年のアメリカ映画で、監督はマイク・フィギス
売れっ子だが酒に溺れて転落したベン(ニコラス・ケイジ)が、高級娼婦のサラ(エリザベス・シュー)と出会い、関係を持つという物語です
サラはマフィアと関係があり、その問題を何とか凌ぐものの、2人の関係には「ある条件が必要」として、その行方を追っていくことになります
『パディントン2(Paddington2)』
2017年のイギリス&フランスの映画で、監督はポール・キング
街の人に愛されるパディントンが、仲の良いルーシー叔母さんの願いを叶えるために、飛び出す絵本を手に入れようと奮闘する物語です
■メタ構造の嵌め込み方
本作は「映画の中で映画を作る物語」で、制作過程よりは「共同脚本を考案する」様子を描いていきます
初稿はハビが書いたもので、そこからテーマを見つけ出し、さまざまなアイデアを出し合うという内容になっていました
当初の物語はヒューマンドラマで、その友情を試すシナリオが用意されていました
でも、CIAへの協力を機に「元ある映画から逸脱」していきます
ハビがマフィアだと聞かされて、その隙を狙おうとする物語は、どこかコメディタッチで、ユーモアと緊張をうまく織り込んでいたシナリオになっています
どこからが「映画の中の映画」かですが、おそらくは「フィンクがシナリオを捨てて読ませなかった場面から」だと思います
あの時点でニコラスが演じたかったのは「出演できなかった映画」で、実はもう一つの候補がありました
このもう一つのシナリオの内容が今回の作品(試写のシーンまで)だと思います
フィンクは価値のないシナリオだと捨てますが、それを拾ったニコラスが「自分の当て書きのシナリオ」を見つける
そのシナリオを書いたのが「ニコラスのファンだけど富豪ではないハビ」なのかなと思いました
メタ構造としては、「ハビとのアイデアトーク」「完成されたシナリオ」「映画制作」「試写会」という流れを汲んでいて、CIA登場のシーンから「アイデアトーク」が始まっていると思います
2人の男女を見て妄想するシーンがあったように、当初は「現地で会った観光客がCIAだった」というアイデアがあって、それをシナリオに組み込んでいくことになりました
「CIAから事件解決まで」は実に映画的なので、その前後となる「ハビとの出会いと脚本の存在」と「映画のクライマックス」以降は現実パートということになります
仲良くなった2人が「観光客をCIAにする(クレジットではヴィヴィアンとマーティンは夫婦)」ところから暴走が始まっていて、現地では「ルカスの暗躍」もなく、単に思いつきを話し合っていただけでしょう
メタ的な感じに仕上げる時、一番気をつけないといけないのは「階層を一つ降りた瞬間」が「ひょっとしたらあそこから?」と思えることです
それがはっきりしすぎててもつまらないので、本作ぐらいの「ここかな?」と振り返られるポイントがいくつかあるのは良いと感じました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、熱烈なファンによる「当て書きシナリオ」で、ハビ自身の熱烈度も誇張されていると思います
自分とニコラスが共闘する流れの中で、自分が手に入れられないものをシナリオに組み込むと、映画制作の際にスタッフが集めてくれたりします
そういった効果を狙っていたのかわかりませんが、ファン冥利に尽きる方策かなと思います
映画では、「板挟みになる」という状況をうまく利用したシナリオになっていて、人気俳優がまさかのスパイというものと、大ファンが実はマフィアという対比構造を生み出していました
それらは「誤解」のまま進みますが、観客側には「ハビがマフィアかも」と思わせているのですね
ニコラス視点で描かれているので、「ニコラスはいつバレるのか」という緊張感と、「ハビは本当は何者?」というのが同時に成り立っていました
ハビも実はルカスの言いなりで、それを打開したいと考えていましたが、ガブリエラに危険が及ぶことを避けていました
それ故に、ハビの葛藤が昇華されるシーンも最高で、それを担うのが「崇拝するニコラス様」という「ファンなら一度は夢見るようなシナリオ」になっています
映画は、ハビがヒロインのようにも見え、彼自身の熱愛が「ニコラスの家族内不和」というものも解消していきます
これらは映画の中でだけ起こっていることなのですが、試写に2人が来ているように「家族も美化して描かれる満足」というものが存在します
妻はデミ・ムーアが演じていて、彼女としても大女優に演じられることで満足を感じていたと思います
映画制作にはニコラスも関わっているので、家族の描き方は「ニコラスの家族に対する想い」と重なるのですね
それゆえに、映画の中でこそ描ける本音というものがありました
面と向かっては言えないセリフも、映画の中のキャラクターとして言わせるのですが、これは「既存のラブソングを借用して愛を伝える行為」に似ているようにも思えますね
そう言った意味において、家庭内不和を吹き飛ばすきっかけを作ってくれたハビという存在は俳優冥利に尽きるでしょう
そして、その感謝を「喝采を独り占めさせる」という粋な演出を行なっているので、WIN-WINになっているエンディングは心地良くもありました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/385348/review/f700b821-6f71-4dae-9a8c-ca84c84ee025/
公式HP: