■ナポレオンも人の子であると知ることで、歴史が身近に感じられるのかもしれません
Contents
■オススメ度
ナポレオンの半生に興味のある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.11.29(MOVIX京都)
■映画情報
原題:Napoleon
情報:2023年、アメリカ、158分、G
ジャンル:フランス皇帝ナポレオンの半生を描いた伝記的戦争映画
監督:リドリー・スコット
脚本:デビッド・スカルパ
キャスト:
ホアキン・フェニックス/Joaquin Phoenix(ナポレオン・ボナパルト/Napoleon Bonaparte:フランスの皇帝)
ヴァネッサ・カーヴィー/Vanessa Kirby(ジョゼフィーヌ皇后/Empress Joséphine:ナポレオンの最初の妻)
Erin Ainsworth(オルタンス・ノ・ボアルネ/Hortense de Beauharnais:ジョゼフィーヌの連れ子、ナポレオンの弟ルイの妻)
(成人期:Isabella Brownson)
Benjamin Chivers(ウジェーヌ・ド・ボアルネ/Eugène Rose de Beauharnais:ジョゼフィーヌの連れ子)
(成人期:Sam Meakin)
Jannis Niewöhner(イッポリト・シャルル/Hippolyte Charles:ジョゼフィーヌの愛人、フランスの軍人)
Zina Esepciuc(エミリー・デ・ボルアネ/Émilie de Beauharnais:フランスの裁判官、ジョセフィーヌの親戚)
Kevin Eldon(コルヴィサート:ジョゼフィーヌの医師)
ベン・マイルズ/Ben Miles(コーランクール/Caulaincourt:ナポレオンの側近)
ルディヴィーヌ・サリエ/Ludivine Sagnier(テレサ・カバラス/Thérésa Cabarrus (Madame Tallien):社交界の名士)
【ナポレオンの家族】
マシュー・ニーダム/Matthew Needham(リュシアン・ボナパルト/Lucien Bonaparte:ナポレオンの弟)
シニード・キューザレック/Sinéad Cusack(マリア・レティシア・ラモニ/レティシア・ボナパルト/Letizia Bonaparte:ナポレオンの母)
Harriet Bunton(ポーリーヌ・ボナパルト/Pauline Bonaparte:ナポレオンの妹)
Michael O’Connor(シャルル・ヴィクトール・エマニュエル・レクレール/Charles Leclerc:ポーリーヌの夫)
Charlie Greenwood(カロリーヌ・ボナパルト/Caroline Bonaparte:ナポレオンの妹)
Audrey Brisson(エリーザ・ボナパルト/Elisa Bonaparte:ナポレオンの妹)
【ナポレオンの部下(軍人)】
ジョン・ホリングワース/John Hollingworth(ミシェル・ネイ元帥/Marshal Ney:勇敢の中の勇敢と称される元帥)
ユセフ・ケルクール/Youssef Kerkour(ルイ=ニコラ・ダヴー元帥/Marshal Davout:ナポレオンの部下、指揮官)
マーク・ボナール/Mark Bonnar(ジャン=アンドリュ・ジュノー/Jean-Andoche Junot:フランス軍のポルトガル侵攻の指揮官)
ダヴィデ・トッチ/Davide Tucci(ラザール・オッシュ/Lazare Hoche:フランスの将軍)
アブバカール・サリム/Abubakar Salim(トマ=アレクサンドル・デュマ将軍/General Dumas:フランスの軍人)
スコット・ハンディ/Scott Handy(ルイ・アレクサンドル・ベルティエ元帥/Marshal Berthier:ナポレオンの参謀長)
Edward Mercieca(ジャン・バティスト・フランソワ・カルトー将軍/Jean Baptite François Carteaux:ナポレオンの部下)
Arthur McBain(ジャン・ガブリエル・マルシャン将軍/Jean Gabriel Marchand:イタリア遠征の将軍)
Thom Ashley(シャルル・ド・ラ・ベドワイエール/Charles Angélique François Huchet de La Bédoyère:フランスの軍人、ナポレオンの副官)
【マリー・アントワネット関連】
フィル・コーンウェル/Phil Cornwell(サンソン/ブルノー/Sanson ‘The Bourreau’:ルイ16世を処刑した執行人)
チャサリン・ウォーカー/Catherine Walker(マリー・アントワネット/Marie-Antoinette:オーストラリア大公妃、後のフランス女王)
Honor Kneafsey(マリー・アントワネットの子ども)
Alexander Shaw(マリー・アントワネットの子ども)
【政治関連:フランス】
タハール・ラヒム/Tahar Rahim(ポール・バラス/Paul Barras:フランスの政治家、国民公会軍司令官、革命指導家)
イアン・マクニース/Ian McNeice(ルイ18世/Louis XVIII:フランス王)
ポール・リス/Paul Rhys(シャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴール/Talleyrand:フランスの外交官)
ギャヴィン・スポークス/Gavin Spokes(デイビッド・オスカー・ムーラン/Moulin:フランスの政治家)
Catherine Harvey(ムーランの妻)
Julian Wadham(ジャン・デ・カルバセレス/Jean de Cambaceres:フランスの法律家、ナポレオン法典の起草者の1人)
Benedict Martin(ロジェ・デュコ/Roger Ducos:フランスの政治家)
Sam Troughton(マクシミリアン・ロベスピエール/Maximilien François Marie Isidore de Robespierre:追放され処刑されるフランスの政治家)
Julian Rhind-Tutt(エマニュエル・ジョセフ・シエイエス/Emmanuel Joseph Sieyès:フランスの政治家)
John Hodgkinson(ジョセフ・フーシェ/Joseph Fouché:フランスの政治家)
David Verrey(ルイ=ジェローム・ゴイエ/Louis-Jérôme Gohier:フランスの法務大臣)
Ed Eales White(アンギャン公ルイ・アントワーヌ/Louis Antoine,Duke D’Enghien:フランスの政治家)
【政治関連:諸外国】
Robin Soans(ピウス7世/Pope Pius VII:コンコルダートを結ぶ教皇)
Richard McCabe(ウィットワース卿/Lord Whitworth:イギリスの外交官)
ルパート・エヴェレット/Rupert Everett(ウェリントン公アーサー・ウェルズリー/Arthur Wellesley, Duke of Wellington:イギリスの政治家)
エドゥアール・フィリポナ/Édouard Philipponnat(アレクサンドル1世/Alexander I, the Tsar of Russia:ロシアの皇帝)
Tom Godwin(オーストラリア大使)
【友人他】
アンナ・マウン/Anna Mawn(マリー・ルイーズ大公妃/Archduchess Marie-Louise:ナポレオンの2番目の妻)
サム・クレーン/Sam Crane(ジャック=ルイ・ダヴィッド/Jacques-Louis David:新古典派のフランスの画家)
Jonathan Barnwell(ブリュエーヌ:ナポレオンの秘書)
Abigail Weinstock(エレオノール・ドニュエル/Louise Catherine Éléonore Denuelle de La Plaigne:ナポレオンの実験の相手、愛人)
■映画の舞台
1793年、フランス革命後~1821年
フランス:パリ
フランス:トゥーロン
オーストリア領モラヴィア:アウステルリッツ
ロシア:モスクワ
エジプト:カイロ
オーストリア:ウィーン
イタリア:エルバ島
ベルギー:ワーテルロー
イギリス海外領土:セントヘレナ島
ロケ地:
イギリス:リンカーシャー州
リンカーン大聖堂
https://maps.app.goo.gl/yqnC4wwHHm4628af7?g_st=ic
バッキンガムシャー
ストウハウス/Stowe House
https://maps.app.goo.gl/L5Sk8364Ei4oaJUi9?g_st=ic
ウェストウィコムパーク/West WycombePark
https://maps.app.goo.gl/grUH4R1Uzgj3qXuc9?g_st=ic
オックスフォードシャー
ブレナム宮殿/Blenheim Palace
https://maps.app.goo.gl/qX1meubUbgxWsi3E7?g_st=ic
ウェストサセックス州
ペットワースハウス/Petworth House
https://maps.app.goo.gl/ZsDAVT8CoHmjTCXb8?g_st=ic
ノーサンプトンシャー州
ボートンハウス/Boughton House
https://maps.app.goo.gl/AqGYFjQTH6B78aSKA?g_st=ic
ロンドン:グリニッジ
旧王立海軍大学/Old Royal Naval College
https://maps.app.goo.gl/4wih2YUG4pkbyWFL9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
1789年、フランス革命が起こり、マリー・アントワネットは処刑されることになった
その現場にいた若き将校ナポレオン・ボナパルトは、新しい時代を作るべく、ポール・バラスの命により作戦を実行する
その作戦に勝利したナポレオンだったが、フランス国内は退廃し、その管理が十分に行えているとは思えなかった
その後、フランス軍の総司令官に上り詰めたナポレオンは、ある社交会にてジョゼフィーヌという女性と出会った
連れ子がいるにも関わらずジョゼフィーヌと結婚したナポレオンだったが、彼女は自由奔放で、彼の部下と不倫をしていた
ナポレオンと弟のリュシアンはクーデターを企て、2人はそれを成功させる
そして、とうとうフランス皇帝の地位に上り詰め、ジョゼフィーヌも皇后となった
だが、2人の間にはいまだに子どもができず、さらに領地拡大を目論むナポレオンは、兵を犠牲にして戦いを続けるのである
テーマ:もしもの先にあった純愛
裏テーマ:ナポレオンを転落させた焦燥
■ひとこと感想
ナポレオンに関しては、一般知識程度ですが、あまりにも有名なので、細かな史実を入れておきたい人以外は予習が必要ないかもしれません
それよりも、フランス革命当時の欧州の諸外国の状況と関係を知っているかということが問題で、今とは国の形も名前も全く違ったりします
映画は、ナポレオンの快進撃というよりは、ナポレオンとジョゼフィーヌの純愛を描いていて、ジョゼフィーヌが主役のようにも見えてきます
2人が引き裂かれた理由を一言で言えば、「ナポレオンはフランスと結婚した」ということになるのでしょう
物語としては、ナポレオンの自伝をダイジェストで見る感じになっていて、ある程度の有名な戦争は盛り込まれているという感じになっています
ドルビーシネマで観ましたが、砲弾の音響ぐらいしか寄与するところはなかったので、無理して追加料金を払う必要はないかもしれません
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
史実系なので何がネタバレになるのかわかりませんが、フランス革命から臨終までを描いていて、ほぼ人生全部に近い印象があります
とは言え、ジョゼフィーヌと結婚する前の婚約者はスルーだし、いろんな戦争が結構スルーされています
予告編でもアウステルリッツが描かれているし、よく見るとワーテルローまでネタバレしちゃってますね
主要キャストだけで50人近くいて、ほとんどにwikiがある状態
ある程度カテゴリーでまとめて、モブは排除(データが重すぎるので)しても、このボリュームになっています
パンフレットはそこまで凝ったものではありませんが、何も知らない人向けという感じになっていますね
なので、歴史に詳しい人だと読むところはあまりないかもしれません
■歴史背景について
映画の冒頭は「フランス革命」になっていて、これは「ブルボン絶対王政」を市民が倒した革命となっています
これによって、封建的特権を廃止し、人権宣言、王政の廃止、憲法の制定などが起こり、共和政というものが生まれています
この時に若き将校だったナポレオンは、マリー・アントワネットのギロチン処刑を見ていたという流れになっていました
これらの流れは世界的に起こっていて、イギリス革命(1639年〜1651年)、アメリカ独立宣言(1776年)に続く流れになっています
18世紀のブルボン朝の身分社会は「アンジャン=レジーム(Ancien régime)」と呼ばれていて、第一身分(聖職者)、第二身分(貴族)などがありました
第三身分と呼ばれる層は人口の大部分を占め、各都市のブルジョワ(商工業者)が経済力を高めていった結果、人権意識や自由への意識というものが芽生えてきます
そして、啓蒙思想という「従来の封建社会のキリスト教的世界観に対して、合理的な世界観を説き、人間性の解放を目指す」というものが広がっていきます
シャルル・ド・モンテスキュー(Charles-Louis de Montesquieu)による三権分立論、ヴォルテール(Voltaire)の宗教的寛容論、ジャン=ジャック・ルソー(Jean-Jacques Rousseau)の社会契約説などが起こり、それらの思想はドゥニ・ディドロ(Denis Diderot)とジャン・ル・ロン・ダランベール(Jean Le Rond d’Alembert)が『百科全書』によってまとめられていきます
フランス王室は財政状態が悪化しているにも関わらず宮廷の贅沢三昧が指摘され、さらに悪化によって行き詰まったルイ16世による「全国三部会」によって、第一身分、第二身分にも課税が行われるようになります
さらに財政困難の対策をしていたネッケルを罷免したことで、パリ市民に衝撃が走り、「バスティーユ襲撃事件」というものが起こってしまいました
これはバスティーユにある牢獄を市民が襲撃した事件で、これがフランス革命の始まりともされています
■ナポレオンとはどんな人?
主人公のナポレオン・ボナパルト(Napoléon Bonaparte)は、1769年生まれで、フランス革命当時は20歳の若者でした
活躍によって、1799年から第一領事としてフランス共和国の指導者となり、1804年からフランスの皇帝として、フランス帝国の指導者となりました
フランス皇帝としては約10年間の短期で、彼の起こした「ナポレオン戦争」での犠牲者は300万〜600万人ともされています
ナポレオンはコルシカ島にて、イタリア貴族の子孫の家に生まれます
フランス軍に従事しながらも、フランス王政に対して批判的で、革命を支持していました
フランス革命後、1793年に共和党を支持する「Le suuper de Beaucaire」を出版し、オーギュスタン・ロベスピエールの支持を得ることになります
そして、トゥーロンの戦いに参加し、共和国軍の上級砲手兼砲兵指揮官に任命されました
その後、第一次対仏同盟のフランスの作戦の一環として、「サルデーニャ王国」への攻撃を立案し、「サオルジョの戦い」にてナポレオンの作戦は実行されます
この作戦の成功を機に、ロベスピエールはナポレオンをジェノヴァ共和国(クリミア半島あたり)に派遣することになりましたが、ロベスピエール家の失脚に巻き込まれています
映画では描かれていませんが、1795年頃にデジレ・クラリー(Désirée Clary)と婚約をしていましたが、それを破棄するに至っています
1795年、ナポレオンは西軍に配属され「ヴァンデ戦争」への従軍を拒否し、正規軍の名簿から外されています
それでも、テルミドール反動の指導者であるポール・バラスによって見出されることになります(映画の冒頭あたり)
王党派を壊滅に追い込んだナポレオンは、名声と富を獲得することになり、内務司令官へ昇進し、イタリア軍の指揮をすることになります
この頃にジョゼフィーヌと出会いますが、彼女はポール・バラスの元愛人でした
イタリア軍を指揮したナポレオンはサルデーニャ王国軍(現在のイタリア北部付近)を打ち破り、オーストリア軍と「マントヴァの戦い」を繰り広げます
そして、「カスティリオーネ」「バッサーノ」「アルコレ」「リヴィリ」にてオーストリア軍に勝利し、フランスに決定的な勝利をもたらすことに成功します
その後、南ドイツでシャルル大公に押されていたフランス軍でしたが、シャルル大公はナポレオンを警戒して軍をウィーンに撤退させ、「タルヴィジオの戦い」にてナポレオンに敗北することになります
オーストリアへの進軍を果たしたナポレオンはウィーンに近づき、それによって「レオーベン条約」を締結させることになり、フランスは北イタリアの大部分を支配することになります
その後、ナポレオンはピエール・オージュロー(Charles Pierre François Augereau)将軍をパリに派遣し、王党派を粛清するクーデターを決行します
これによってポール・バラスと共和国同盟者に主導権が戻り、ナポレオンはオーストリアと「カンポ・フォルミオ条約」を締結させ、英雄としてパリに凱旋帰国することになりました
そして、フランスの新外務大臣に就任したタレーランと共にイギリス侵攻の準備を始めていきます
映画では、ここまでを前半のダイジェストっぽく描いていて、その後も「エジプト遠征」「戴冠式」「モスクワ遠征」などを矢継ぎ早に紹介していきます
印象的な戦いを映像化しつつ、その背景ではジョゼフィーヌとの関係、マリー・ルイーズとの結婚に至る流れの方を綿密に描いていました
ナポレオンの功績の詳細を書くと、それだけでブログが終わってしまうので割愛しますが、より詳しく知るならば専門書などを読み漁った方が良いと思います
サラッと英語版wikiなどを拝見しましたが、引用や語句を調べているだけで日が暮れてしまうと感じました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、ナポレオンの功績を描いている映画のように思えますが、実質的には「ジョゼフィーヌとの恋愛映画」だったのだと思います
ナポレオンほどの英雄も1人の女性に翻弄された歴史があるというテイストになっていて、彼女との出会いと別れまでの方が詳細に描かれているのですね
後半は2人が交わした書簡がナレーションで示されるなど、2人の結婚と離婚は「フランスのために行われた」という感じになっています
歴史の影に女性ありとは言いますが、ナポレオンと言えども普通の男性なので、このような人生はあって然るべきものであるように思います
映画では、不妊による離婚と後継のための再婚を描いていますが、それがどのような未来を作ったのかまでは描けていません
ナポレオンにはたくさんの子どもが居ましたが、そのいずれもが早々と途絶えているという歴史がありました
歴史を俯瞰してみると、瞬間的にフランスに舞い降りた英雄という感じになっていて、歴史の大きな動きというのは一個人の動きでうねりを見せても、大局は更なる大きなうねりの中で動いているように思えました
映画は、ナポレオンを知るための教科書になるというよりは、ナポレオンに興味を持つきっかけになるかもしれないというものになると思います
歴史に詳しい人からすれば物足りず、初心者だと意味がわからないという微妙な歴史映画なのですが、歴史で起こったことの表面をなぞることよりも、そこに生きた人に興味を持つことの方が重要であると思います
ナポレオンという名前を知らない人がいない「英雄と称された人」でさえ、等身大の人物であり、日々起こる感情というものが歴史を作っていることを実感できます
そう言った意味において、本作は「歴史は人間が作っている」ということを再確認できる映画ではないでしょうか