■隠しきれない色気の中で、エスターは少女を脱皮している
Contents
■オススメ度
前作『エスター』を見た人(★★★)
とんでも設定のホラーを観たい人(★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.3.31(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
原題:Orphan:First Kill
情報:2022年、アメリカ、99分、R15+
ジャンル:療養所が逃亡した孤児が裕福な家庭に潜り込むホラー映画
監督:ウィリアム・ブレント・ベル
脚本:デビッド・コッゲシャル
キャスト:
イザベル・ファーマン/Isabelle Fuhrman(エスター・オルブライト/リーナ・カルマー:サールン療養所から逃亡する孤児)
(BD:Knnedy Irwin&Sadie Lee)
(幼少期:Morgan Easton-Fitzgerald)
ジュリア・スタイルズ/Julia Stiles(トリシア・オルブライト:アレンの妻、慈善活動家)
ロッシフ・サザーランド/Rossif Sutherland(アレン・オルブライト:娘の失踪を憂う芸術家)
マシュー・フィンラン/Matthew Finlan(ガナー・オルブライト:エスターの兄)
Hiro Kanagawa (ドナン:エスター失踪を捜査していた刑事)
Samantha Walkes(シーガー医師、コネチカットの精神科医、エスターの主治医)
Dave Brown(ディミトリ:エストニアの療養所の医師)
Gwendolyn Collins(アン・トロエフ:サルーン療養所に派遣されるアートセラピスト)
Kristen Sawauzky(イティ/フェデリカ:サルーン療養所の患者)
Jeff Strome(サルーン療養所の警備員)
Adam Hurtig(サルーン療養所の警備員)
Lauren Cochrane(リーヒー:エスターを保護するコネチカットの警官)
Brandley Sawatzky(ルネツォフ:リーナを発見するロシアの警察官)
Alec Carlos(マイク:ガナーの友人)
Jade Michael(マディソン:ガナーの友人)
Liam Stewart-Kanigan(ガナーの甥)
Andrea Del Campo(ベス:トリシアの慈善団体の同僚)
Alicia Johnson(カレン:トリシアの友人)
Marina Stephenson Kerr(オリーヴ:慈善団体の参加者)
Sharon Bajer(ガートルード:慈善団体の参加者)
Sarah Luby(クレア:病院の受付嬢)
Maxwell Nelson(病院の少年)
■映画の舞台
2007年、エストニア&ロシア
アメリカ:コネチカット州
デリエン/Darien
https://maps.app.goo.gl/8sJKZgxePTABbPZq9?g_st=ic
ロケ地:
カナダ:マニトバ州
ウィニペグ/Winnipeg
https://maps.app.goo.gl/gwJ91cMKgZsXqSUe7?g_st=ic
ウェリントン・クレセント/Wellington Crescent
https://maps.app.goo.gl/A32pQszx3aRYa7nS8?g_st=ic
ヨーク通り/York Ave
https://maps.app.goo.gl/zsCbpRRu7SLYy7Cu6?g_st=ic
ユニオン駅/Union Station
https://maps.app.goo.gl/jUH2StKXtQMW2MzF8?g_st=ic
マニトバ州議事堂/Manitoba Legislative Buillding
https://maps.app.goo.gl/QBHwgZr2ugJFDLQAA?g_st=ic
■簡単なあらすじ
2007年、エストニアにあるサルーン療養所にアートセラピストのアンが派遣される
そこに医師らに案内されたアンだったが、リーナと言う少女の姿が消えたことで、施設は厳戒態勢に入ってしまう
アンは、そこで絵を描くリーナと出会うものの、彼女はどこか異質だった
その後、リーナは注文した服を警備員から受け取ると、彼を室内に招き入れて殺害してしまう
IDカードを盗んで外に出たリーナは、そのままアンの車に忍び込んだ
リーナはまんまと逃げ出すことに成功し、アンを殺害して、彼女のPCから「自分に似た失踪者」を探すことになった
程なくして、アメリカのコネチカットに住むエスターと言う少女が失踪していると知り、彼女はエスターになりすましてわざと保護されることに決めた
エスターを確保したとの情報がアメリカに届き、事件を担当していたドナン刑事はエスターの両親にそのことを告げ,
母トリシアは身元確認のためにモスクワにあるアメリカの大使館に足を運んだ
4年ぶりの再会を果たす2人だったが、トリシアは彼女に「ある疑念」を抱き、ドナンも何かしら不審なものを感じ取っていたのである
テーマ:隠せない本性
裏テーマ:絵の中に潜む狂気
■ひとこと感想
前作『エスター』が衝撃的で、あの映画の「前日譚を同じキャストで作る」と言う暴挙がどうなるのか興味津々でした
前作のネタバレを回避するのは無理だと思うので、未鑑賞の方は注意してくださいまし
映画は、前日譚でありながら、前作とはテイストが真逆で作られていましたね
前作が徐々に犯人を追い詰めていくとしたら、本作は最初から犯人がわかっている、みたいな感じですね
制作サイドも前作を観ている前提で作っていて、ぶっちゃると「時系列」でこの作品のあとに『エスター』を観てしまうと面白さが10分の1くらいになりそうな印象があります
本作は、エスターの正体を知った上で「物語がどうなるか」を追っていくのですが、前作があるが故にエスターが生き残ることが確定しているのが微妙かもしれません
むしろ、今回の家族に入り込む前から「詐欺師」と呼ばれていた所以の方が気になってしまいますね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
本作の何がネタバレになるのかは分かりませんが、前作を観ていないと言う前提なら「エスターの予後」になりますね
とは言え、それは確定事項のようなもので、エスター自身がどのように生き永らえたのかを楽しむ映画のように思います
前作では「怯える家族」でしたが、今回は「正体を知って利用している」と言うものなので、エスターよりもタチの悪い家族が登場していました
配役的にも「悪役全開のトリシア」で、彼女の嫉妬心とか、他人を利用して自分を上げる姿勢は見事だったと思います
本作は、エスターがヤバいことは周知の上で、さらにヤバい家族に放り込まれたらどうなるか、みたいなところがありましたね
なので、早々にバレていることがわかるように作られていて、バレた相手を殺していく展開も先読みされていると言う面白さがありました
■前日譚の難しさ
前日譚が作られる映画は多数ありますが、その全ては「過去に何が起こったか」なので、結末に関して言えばネタバレしていることになります
本作を『エスター』未鑑賞で観る人ならば、「最後はどっちが死ぬんだろう」みたいな感じに思えますが、十中八九は「エスターがどのように生き残るのか」という視点で見ていくことになります
エスターの前日譚として、孤児院時代と療養所時代と療養所前というものがあり、今回は「療養所時代〜孤児院時代に移った理由」というものが描かれていました
前作を覚えている人ならば、「エスターの家族は家事で全員死んだこと」を知っているので、「炎が回り出した時」に「ああ、来たか」という思いを馳せることになるでしょう
前日譚は、「観客が何を見たいか」と一致するかどうかというものがあって、『エスター』の場合は「前回(今回の映画)の家族との間に何があったのか」というものと、「療養所になぜ入っていたのか」の二つになると思います
さすがに「前の家族とどうなっていたか?」を飛ばすわけにはいかず、また「一緒に描く」のも無理だったので、今回はワンステップ置くような感じに仕上がっています
エスターがヤバい子ども(大人)であることは周知の事実なので、今回は「実は家族の方がもっとヤバかった」という設定にしていましたね
これに関しては英断だったと思います
前作ではエスター無双みたいなところがあって、今回も同じ路線だと面白くありません
かと言って、普通の家族の中でエスターが暗躍するのも被り倒すので、今回は「家族がエスターが偽物だと知っている」という斜め上の設定で攻めることになりました
刑事も母親も何かに気づいていて、それが「エスターがおかしな子」というものと、「エスターが帰ってくるはずがない」というものを混同させていました
刑事はエスター失踪を調べていたが、その過程で帰国したエスターに家族から聞いてきた情報との相違を感じたでしょう
もしかしたら、刑事自身が「家族の侵した罪」について秘密裏に調査していたのかもしれません
母親と兄は「自分たちでエスターを殺したこと」を知っているので、突然目の前に現れた女がエスターを騙る何かであることは知っています
彼らが知らないのは「エスターの中身が33歳の成人」ということでしょう
母は偽物だとわかっているので、色んな方策でボロが出ないかを試していましたね
それがテストであると見えないように作られていたのは良かったと思います
■プロの技を駆使しても無理なものは無理
『エスター』は2009年に公開された映画で、主演を務めたイザベル・ファーマンさんは当時11歳でした
11歳が9歳を演じたことで違和感がそこまでではなかったのですが、今回は24歳時に9歳を演じることになっていて、さすがにそれは無理だろうという感じが伝わってきます
身長も骨格も変わっているので、アップの時以外は2人のボディダブルを駆使していますね
顔に関しては、メイクアップで対応されていて、顔を丸く見せるメイク(輪郭)、瞳孔を開かせるためのコンタクトなどを使用していました
パンフレットには撮影秘話がたくさん載っていますので、苦悩の限りは推し量れますね
映画としては、12歳くらいに見えなくもないショットもあれば、明らかに大人に見えるショットもあって、すべてを完璧にすることはできなかったと思います(意図的かも)
挑戦的な撮影ですが、そのハードルが高すぎたように思えます
特に正面はOKでも、横顔になると縦長の頭蓋骨が強調されるのですね
元々のエスターがポニーテールにリボンという格好なので、輪郭を髪でごまかすことができなかったのは致命的かなと思います
撮影に関してはかなり苦労したようで、共演者に厚底ブーツを履いてもらうとか、本人が中腰になるとか、遠近法を使った配置で撮影したために「相手がかなり遠くにいる」という状況の中で撮影を続けたとのこと
エスターは子どもに見える時と大人に見える時があって、それはどちらかというとわざとそうしたというふうに紡がれていますね
観ている観客を常に騙す必要があった前作とは違って、実年齢(とはいっても8歳くらい上だけど)を知っていることで、彼女の中にオン・オフというものが生まれているのだと思います
それでも、さすがに無茶だよねえというのが率直な感想でしょうか
このあたりは人種の違いもありますが、日本人は総じて幼く見える童顔が多いので、その分「見た目の年齢に関する視点」というのは鋭いのかな、と思ってしまいます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、成りすました先の家族がとんでもないサイコパスということになっていて、兄妹の喧嘩(13歳くらいと5歳)のはずみでエスターを殺めてしまっていました
その死体を隠蔽したのが母親で、それから4年後が舞台になっています
父親だけは本当にエスターが失踪から戻ってきたと思っていますが、彼自身も違和感を感じています
それは、5歳時の面影が彼の中に強烈なイメージとして残っていて、エスター自身は父からは5歳の頃の関係性を求められているのですね
実際には33歳が5歳っぽくしなければならないことになっていて、さすがにそれは無茶ということで、父親もどことなく別人では?と疑っている節がありました
映画は、エスターを娘と思い込みたい父を描いていて、でも目の前には別人のような実年齢よりも成長した娘がいる
このアンバランスさが彼をおかしな方向へ向かわせています
アレンが描く絵は蛍光塗料で裏の顔が見えるというもので、いわゆるブラックライトアートとか、ルミナイトアートと呼ばれるものでした
彼の作風はエスター失踪前から変わっておらず、でも失踪後は「隠されたもの」に嘆きや悲しみが込められているように思えます
アレンが描くエスターの肖像画があって、あの絵だけはルミナイトによる加工をしていなかったように思いました
特別な感じがあって、そこに施さないのは「父の中のエスターがあの時間で止まっているから」だと言えます
父は成長したエスターと再会したかった訳ではなく、あの日に戻りたかったので、それが肖像画として残る唯一の2人の思い出になっていました
他にもその頃の旅行の写真などを大事に持っていて、エスターを前にして「あの時は良かった」と言っているので、心のどこかでは別人であることを認識していたのかなと思いました
最終的には燃え盛る屋根の上で、エスターの入れ歯を見て気づくのですが、顔をさわるという行為がちょっと普通ではないように思いますし、エスターがさわらせたのも不思議だったように思えました
エスターは生きていく上で父親を利用しようとしていましたが、トリシアの「娘が戻ってから夜の営みがすごいの」という挑発に対して、彼女から奪ってやろうという下心が生まれていましたね
最後の「愛している」が娘ではなく1人の女性として言っているところに、身なりで普通の青春時代を過ごせなかった悲哀というものが内包されていました
おそらくは前々日譚の制作はされると思うので、その時は「幼少期役で登場したMorgan Easton-Fitzgeraldちゃんが「療養所に来るまで」を演じるのかもしれません
それはそれで楽しみではありますが、5歳くらいの子に30歳前後の狂った女を演じさせることになるので、そのハードルは意外と高いのかもしれません
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/386259/review/59f5b83a-7c16-49c4-ba59-ef40dbdeedd3/
公式HP:
https://happinet-phantom.com/esther/