■月への夢の裏側には、私欲に塗れた過去があった
Contents
■オススメ度
宇宙開発関連の映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.7.9(T・JOY京都)
■映画情報
原題:더문(ザ・ムーン)、英題:The Moon
情報:2023年、韓国、129分、G
ジャンル:宇宙に取り残された飛行士を救うミッションに従事する宇宙センターを描いたヒューマンドラマ
監督&脚本:キム・ヨンファ
キャスト:
ソル・ギョング/설경구(キム・ジェグク:ソベク山天文台の台長、元韓国ナロ宇宙センターの「ナレ号」のプロジェクトリーダー)
ド・ギョンス/도경수(ファン・ソヌ:「ウリ号」にて月を目指す新人宇宙飛行士)
パク・ビョンウン/박병은(チョン・ミンジュ:ナロ宇宙センターのフライトディレクター)
チョ・ハンソル/조한철(キム・インシク:科学技術情報通信大臣)
チェ・ビョンモ/최병모(オ・ギョソク:科学技術情報部第一次官)
チェ・ジョンウ/최정우(韓国大統領)
ホン・スンヒ/홍승희(カン・ハンビョル:ソベク山天文台のインターン)
イ・ソンミン/이성민(ファン・ギュテ:ジェグクの親友、ナロ宇宙センターの元フライトディレクター、ソヌの父)
キム・レウォン/김래원(イ・サンウォン:ウリ号の船長、宇宙飛行士)
チョン・ジウ/정지우(サンウォンの妻)
イ・チェンム/이천무(ジェミン:サンウォンの息子)
イ・イギョン/이이경(チョ・ユンジュン:ウリ号のクルー、宇宙飛行士)
チェ・ヘジン/최혜진(ユンジョンの妻)
シン・ソウ(신서우(ユンジョンの息子)
【NASA関連】
キム・ヒエ/김희애(ユン・ムニョン:NASA統括ディレクター、ジェグクの元妻)
Daniel C. Kennedy(ムニョンの夫)
Brad Little(NASAのディレクター)
Paul De Havilland(NASAのゼネラルマネージャー)
【宇宙ステーション関連】
Jonathan Aaron Groff(ジェームズ・グレン大佐:宇宙ステーション「ルナ・ゲートウェイ」の乗組員)
Brian M. Van Heiss(アンディ・ウォーカー:宇宙ステーション「ルナ・ゲートウェイ」の乗組員)
Gina Teresa Williamson(ジュリー・アンダーソン:宇宙ステーション「ルナ・ゲートウェイ」の乗組員)
Jack Lions(ウィリアム・ジョーンズ:宇宙ステーション「ルナ・ゲートウェイ」の乗組員)
【ナロ宇宙センターのスタッフ】
ペク・スンチョル/백승철(チーフ)
ハン・スヒョン/한수현(FDO/飛行力学担当官)
キム・ドンファン/김동환(INCO/統合通信責任者)
チョン・シンファン/전신환(ガイダンス/音声統括)
イ・サンウォン/이상원(PROP/推進エンジニア)
ヨム・ジヨン/염지영(TELMU:テレメンタリー電気系統、船外ユニット士官)
イ・スンヨン/이승현(気象担当)
カン・チェヨン/강채영(GNC/ガイダンス&ナビゲーションコントロール)
チョン・ユナ/정윤하(TM/TC:テレメンタリー/テレメント担当官)
ジム・ヨンウン/심영은(医官)
イ・ジェホ/이재호(EECOM/電気、環境、消耗品担当)
イム・ジョンヘ/임정해(GPS/位置情報制御)
パク・チュンファン/박충환(全球雲合成担当官)
ペク・スンヒョン/백승현(デザイン、テクノロジー、プログラム担当)
チョ・スンヨン/조승연(パネル担当)
キム・ジュンボム/김준범(アシスタント)
ハン・スンヨプ/한승엽(アシスタント)
【その他】
パク・ソニョン/박선영(テレビのナレーター)
イ・ユンジェ/이윤재(テレビ番組の解説員、教授)
チェ・デソン/최대성(テレビ番組の解説員、教授)
エイミー・アレハ/Amy Aleha(ニュースアンカー)
キム・ヘウォン/김혜원(記者)
■映画の舞台
2029年、
韓国:
ナロ(羅老)宇宙センター
https://maps.app.goo.gl/G4dWxtFv95LiGY8X6?g_st=ic
ソベク山天文台
https://maps.app.goo.gl/sApJ42p96X9PuZmW6?g_st=ic
宇宙ステーション「ルナ・ゲートウェイ」
アメリカ:ワシントン
月
ロケ地:
韓国のどこか
■簡単なあらすじ
2020年代、韓国のナロ宇宙センターでは、ヌリ号の打ち上げ計画を推進していた
だが、発射直後に宇宙船は大爆発を起こし、クルー3名が命を落としてしまった
それから数年後、当時の責任者のジェグクは一線を離れ、ソベク山の天文台の台長を務めていた
インターンのハンビョルとそつなく業務をこなしていたが、突然、ナロ宇宙センターから呼ばれることになった
センターでは、「ウリ号」の月面着陸プロジェクトを推進していたが、月の軌道に乗ったものの、巡回母船が太陽フレアの影響で動かなくなってしまった
船長のサンウォン、クルーのユンジョンが死亡し、新人宇宙飛行士のソヌだけが宇宙で孤立してしまったのである
テーマ:選択の代償
裏テーマ:能力と適性
■ひとこと感想
韓国初の月面着陸を目指すプロジェクトを描いたフィクションで、かつての責任者がトラブルによって呼ばれるという内容になっていました
設定としてはよくあるタイプのもので、優秀な人材が事故によって現場を離れて、その理由が重いという内容になっています
映画の冒頭で、このプロジェクトが韓国の主導で、他国の警告を無視して行なっているという前提が説明されていて、妙にリアルな流れになっていました
そして、NASAのトップが韓国人で、呼ばれるエンジニアの元妻というところも話を作り込んでいるように思います
物語としては王道を行くものになっていますが、フィクションなので多めにみてねというシーンが多かったですね
でも、映像的な迫力と、わかっていてもハラハラするエンタメになっていて、そう言ったツッコミは気にしなくても良いようになっています
とは言え、ラストは思いっきり韓国目線ファンタジーだなあと思ってしまいました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
韓国の独力による月面着陸を描いていて、そのプロジェクトの難しさというものがリアルに描かれていました
とは言え、科学的にツッコミどころの多い内容になっていて、予期して防げそうなトラブルが多かったように思います
映画は、優秀な元責任者が現場に舞い戻り、過去にあった出来事と絡むように、友人の息子が助けるべき宇宙飛行士という設定になっていました
ジェグクの優秀さというものは現センター長のミンギュ以下のスタッフはわかっているけど、大臣と次官は知らないというところが息抜きになっていましたね
誰かのモノマネをしているのかなと思ってしまいますが、そこはスルーすべき案件なのでしょう
物語は、かつての事故の責任は何なのかというミステリーがあり、それを口に出せずにいた過去というものが想起されます
そこでジェグクは自白をすることになりますが、その動機が自分を助けるためではないというのが良かったと思います
ラストのサプライズも映画的でしたが、こういう終わり方も作風にあっていたように思えます
■韓国の宇宙開発事情
今年のニュースにて、韓国で航空宇宙庁(Korea AeroSpace Adiministration=KASA、우주항공청)というものが新たに発足されることになりました(5月27日)
これまでは、未来創造科学部(Ministry of Science, ICT and Future Planning=KARI)がその任務を主導してきましたが、これが新たな局面を迎えることになっています
映画は、KASA発足前の制作で、この時点ではKASA設立に向けた動きは始まっていました
2022年の11月に、韓国政府が「火星に韓国の宇宙船を着陸させる」「月への到達が可能なロケットを5年以内に開発する」という目標を掲げています
これは2032年に資源採掘を実施する計画を盛り込んだ「宇宙経済ロードマップ」によるもので、このプロジェクトを推進するために、KASAが中央行政機関としてすべてを指揮するという方針になっています
この動きが2023年に動き出し、法案が提出され、2024年1月に国会を通過して設立に至っています
尹大統領は予算を拡大し、2045年までに約100兆ウォンの投資を融資し、宇宙開発を全面的に支援する方針を打ち出しています
発足間もないので、公式HPでもほとんど情報がありませんが、「NASAのアルテミス計画との連携」などを含めたコンタクトを取っている状態のようですね
今後、どのような展開を迎えるかはわかりませんが、対外的な部分においての韓国の信頼度がどのようなものかで、NASAとの連携がうまくいくかどうかが決めるように思います
映画では、NASAをはじめとした宇宙機関から「やめておけ」と言われたのに暴走している様子を描いていて、このあたりが今後を予知しているようにも思えますね
フィクションの制作において、独自研究で突っ走って暗礁に乗り上げると思われていること自体が、韓国国内でもそこまで期待されていないのかなと邪推してしまいます
■月面着陸に対する世界的な取り組み
現時点の月面探査計画と言えば、NASA主導の「アルテミス計画」で、これにはアメリカ、日本、カナダ、イタリア、ルクセンブルク、UAE、イギリス、オーストラリアなどが参加しています(現在37カ国ぐらいまで拡大中)
月への有人探査ミッションが主な目標で、具体的には「2025年までに最初の女性、そして次の男性を月面に着陸させること」を目指しています
これまでの計画が「アポロ計画」で、今度は「アルテミス計画」なのですが、これはギリシャ神話にちなんでのものでした
アポロ計画のアポロンは太陽神で、アルテミスは月の女神なのですが、この二人は神話上では双子という設定になっています
映画にも登場した「ルナ・ゲートウェイ」はアルテミス計画で構築が予定されているもので、持続的な月面探査活動に向けての中継基地として、月の軌道上を周回する役割を担っています
将来的には4名の宇宙飛行士が年間30日程度滞在し、火星有人探査に向けての拠点になるとされています
2017年に発足し、2022年11月16日にアルテミス1号が打ち上げられています
これはSLS(スペース・ローンチ・システム)とオリオン宇宙船の無人飛行となっていて、オリオン宇宙船を月面周回軌道に投入するというものでした
これに続くのが2025年のアルテミス2号で、こちらはアルテミス計画では初の有人ミッションとなっています
4人が乗ったオリオン宇宙船にて地球を周回し、様々なテストを行ってから、自由帰還軌道に乗って、月を周回したあとに地球に帰還する予定となっています
さらに、2026年にはアルテミス3号が計画されていて、これが月面有人着陸を担うミッションとなっています
このミッションにて、人類初の女性、有色人種の宇宙飛行士を含む4人のクルーを乗せたオリオン宇宙船が月に送られ、HLSとドッキングするという予定になっています
その後の2028年にはアルテミス4号が計画され、月軌道プラットフォームゲートウェイに向かう有人ミッションとなっています
事前にゲートウェイを構成する2つのモジュールが支援ミッションによって打ち上げられる計画となっています
映画は、このゲートウェイが完成している未来の話で、KASA(映画では前身の組織)がヌリ号プロジェクトで失敗し、今回のウリ号プロジェクトに向かう様子が描かれていました
それだけでは面白くないのでヒューマンドラマを付け足していますが、映画では宇宙開発ミッションよりはドラマが重視されていますね
あとは、NASAの要人に韓国人(おそらくアメリカ人と結婚して永住権を獲得していると思われる)がなっているところがファンタジーですが、有能でアメリカ国籍を有していれば抜擢されることもあるでしょう
そのあたりは韓国映画なので微笑ましく眺めていれば良いのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、宇宙に一人取り残されたらどうする?という内容で、それをどのように助けるかというのが命題になっていました
新人宇宙飛行士が取り残されるというハンデがあり、しかも彼と因縁のあるロートルが登場するという流れになっています
かつてナレ号プロジェクトで責任者だったジェグクの積年の後悔というものが露呈することになり、自分自身が宇宙開発に関わってはいけない人間であると痛感していたことになります
それでも、月に近い場所が彼の居場所になっていて、山奥にある天文台が棲家になっていました
ジェグクをわざわざ呼び寄せないとダメな理由は希薄なもので、現実的には「資料があれば必要ない」存在だったと思います
数年前の設計に関わっていたと言っても、彼はフライトディレクターという統括する立場だったので、設計には設計のエンジニアというものがいます
彼以外にどうにもできないという体制自体が本来ならばあり得ないのですが、このあたりは話を盛るために不可欠な配役だったということになります
彼が天文台に引きこもっている存在である必要もなく、あの秘密を抱えたまま現役を続けていることの方がよほどキツい展開になっていたでしょう
ソヌの父ギュテの後を継いで責任者となっているけど、その資格が自分にあるのかを問い続ける
そんな中で、ソヌが父の成し得なかった夢に邁進する様子を見て、彼自身は自分の背負っている十字架の重さを知る、ということになります
映画は、逃亡したものが必要とされて舞い戻り、問題を解決しても前線を去ることになります
これで良かったのかは何とも言えませんが、過去を乗り越えて、次世代にバトンをつなぐという意味でも、現役のままの方が良かったと思います
ギュテのように自分の始末をつけることもできずに惰性で現役を続けている
この不甲斐なさに喝を入れるが如く、ソヌが彼の元にやってくる来て、真実を知った時に彼がどう思うのか
その時に真正面から向かえない立場であることはある種の欠損のように思えてしまいます
そう言った意味も含めて、天文台引きこもり設定はなかった方が良かったのではないかと感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101012/review/04019474/
公式HP: