■服従を包括する絶対的視点でも埋められない渇き


■オススメ度

 

邦画を観た人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.6.4(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:언더 유어 베드(あなたのベッドの下で)、英題:Under Your Bed(あなたのベッドの下で)

情報:2023年、韓国、99分、R18+

ジャンル:ある男の狂気的な偏愛を描いたスリラー映画

 

監督&脚本:SABU

原作:大石圭『アンダー・ユア・ベッド』

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キャスト:(情報少なく自信なし!)

イ・ジフン/이지훈(キム・ジフン:鑑賞魚店の店主)

 

イ・ユンウ/이윤우(イェウン:夫に逆らえない妻)

 

シン・スハン/신수항(ヒョンオ:イェウンの夫、精神科医)

   (幼少期:ホン・ソウ/홍서우

チョ・サエル/최새엘(ヒョンオの父)

オ・ジウォン/오지웅(ヒョンオの母)

 

キム・スオ/김수오(ユ・ジフン:ジフンの店の常連客)

 

イ・ス/이수(誘惑するヒョンオの患者)

 

アン・フィテ/안휘태(捜査する刑事)

ジン・デヨン/진대연(捜査する刑事)

 

イ・ウンヒョン/이은현(?)

ホ・スン/허승(?)

 

ホン・アロン/홍아론(逮捕する刑事)

イェ・ジョアン/여조한(逮捕する刑事)

 

ファン・ジョンへ/황정해(スーパーの客)

ナ・ユジョン/나유정(?)

ヒョン・テイ/현태이(?)

イ・ソヒ/이소희(ホテルの従業員)

 

パク・ジュンピン/박준핀(バレエ指導)

 


■映画の舞台

 

韓国:ソウル

 

ロケ地:

韓国:ソウル

ソウル大学

 


■簡単なあらすじ

 

ソウル郊外にて、観賞用の魚の販売店を営むジフンは、大学時代から想いを馳せている女性がいた

ある日、彼の店にその女性がやってきたが、彼女はジフンのことを覚えていなかった

ネオングッピーを気に行った彼女に、ジフンは商売にならない水槽をサービスし、餌は自分の店で買って欲しいと告げた

 

ジフンは彼女の家に水槽を設置し、その時に自宅の暗証番号を覚える

彼がそうしたかったのは、大学時代の彼女とはまるで別人のように変わり果てていたからだった

 

それからジフンは彼女の家を監視し、スマホにも盗聴器を仕掛けるようになった

彼女は暴力的な夫から酷い仕打ちを受けていたが、ジフンにはどうすることもなかった

 

テーマ:支配構造

裏テーマ:幸福の正体

 


■ひとこと感想

 

邦画版を過去に鑑賞していて、ヤバい作品だなあと思っていました

そんな作品を韓国でリメイクするとなるとどうなってしまうのかと思っていましたが、キャストを韓国俳優に変えただけという感じになっていました

韓国映画でR18+は珍しい印象で、セックスシーンもガッツリと描かれていました

 

ベッドの下に隠れるというお約束は冒頭のシーンからすでに登場していて、スマホに盗聴器を仕掛けているので、動きを完全に察知して、神がかり的な回避行動になっていました

魚を買う謎の客も不穏さを演出していて、それがどのように繋がるのかが見所にように思います

 

それにして暴力描写が容赦ないですね

ボッコボコになる妻の描写が痛々しくて、そのメイクをするだけでも相当大変だったように思います

妻には病弱の父がいて、その治療費のために耐えているのですが、さすがに我慢の限界が来たところで転換点を迎えます

そこからはお約束という感じになっていましたね

どのように正体を現しどうなるのか、それがアロワナ客と結びついていたのは面白かったと思います

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

24時間監視男というヤバいネタではありましたが、暴力夫とのセックスの間には、大学時代の隠し撮りを見て心を落ち着かせるなど、どこまで何もしないつもりなんだろうと思って見ていました

暴力夫も強烈な過去を持っていて、妻との間にSM関係を作り上げているのですが、そこに敬意がないことが一番の要因だったように思います

 

ジフンが動くキーワードが「イェウンの殺してください」で、この言葉によってジフンの希望というものが絶たれてしまいます

それによって行動に移すことになったのですが、これまでに助けられる場面はたくさんあったと思うので、あそこまでボロボロになるまで放置しておく心境は理解できません

 

映画は、大学時代に忘れられたことが起点になっていて、でもその復讐をしているわけではないので引っ張りすぎているように思いました

事を起こしてから思い出すことになりますが、それによって何かが変わるということもないのですね

ラストは観念的な話で、人生のタイムラグによって本当の自分に会えるかもという会話があったりしますが、そこまで現実逃避をしないとダメなのかはよくわからない部分があったように思いました

 


ジフンがしたかったこと

 

ジフンはイェウンのことを好きだったのだと思いますが、彼女を自分のものにしたいということは考えていないように思えます

彼のセリフでは「あの時の輝きはなかった」というものがあったので、ジフンにとっての永遠の光であることを望んでいたのでしょう

それを阻害するものは何かを調べていくうちに、夫からの暴力を見つけるのですが、彼はそれを見ても全く動かないのですね

これは、夫が言う「共同作品」を理解しているからなんだと感じました

 

暴力に対する抵抗、無抵抗はその関係性を揺るがせるに足る場合と、さらに悪質で過激なものにする場合があります

イェウンの場合の抵抗は「状況を悪化させる」方だったのですが、それは「彼女の抵抗が彼女由来ではないから」なのですね

彼女は家に帰りたい理由が「父が危篤だから」と言う理由を述べますが、夫はそれを洗脳だと否定しています

これは、イェウン自身が親の借金や治療費を工面するために、夫に近づいてきた過去があるからでしょう

 

イェウンは、自分をこの状況に追い込んでいる父を恨むどころか、まだ親だと思っている節があって、それが夫には理解できない感情になっています

それを前面に出して抵抗することで、夫は不可解な妻の部分を見ることになり、同時に「作品」が汚れていると考えていました

彼にとっての作品は「二人の感情で完結するもの」であり、そこで繰り広げられる暴力も二人で完結するものである、と言う一種の哲学のようなものがありました

 

この考え方に対して、ジフンは共感している部分があって、それは夫が自分の代弁者に近いからなのかな、と感じました

ジフンは決してイェウンに暴力を振るえないけど、その服従の関係に心を奪われていました

それは、その服従があるからこそ、ジフンの店に来るときの安堵が生まれるからなのですね

その落差を維持しつつ、一線を超えないように監視しているのかな、と感じました

 


もう一人のジフンの存在意義

 

映画には、もう一人のジフンとして「観賞魚店の客」が登場していました

主人公はキム・ジフンがフルネームで、客のフルネームは「イ・ジフン」なので、完全一致にはなっていません

それでも、同じ名前(姓名の名の方)なので親近感が湧くのだと思います

同じ苗字は家系などの表しますが、名に関しては親がその子供だけにつけたものなので特別に感じられます

ちなみに「ジフン」は漢字で書くと「智勳、知勳」なのですが、二人の名前がそこまで一致しているのかはわかりません

 

映画内で、もう一人のジフンになったかも知れないと言うニュアンスのモノローグがあり、彼の中では「感情に正直になって破壊的になったジフン」が自分の中にもいることを悟っていたように思えます

そして、イェウンの「殺して」と言う言葉が、内なる暴力的なジフンを蘇らせることになっています

このもう一人のジフンは、主人公を抑制する舞台装置のようなもので、彼から発せられる不穏さと言うものを彼は感じ取っていました

そして、もう一人のジフンはずっと「何かを言いたげだった」ようにも見えてきます

 

もう一人のジフンは魚が死んだことで文句を言いに来ていて、彼は執拗に「謝れ!」と言っていました

あの魚がどうやって死んだのかはわかりませんが、そのエピソードの前に「ジフンの店にイェウンが来てティータイムになった」と言うものがありました

そこで浮かれたジフンに釘を刺すかのようなタイミングで登場するのですが、この時の行動が、殺害事件の遠因であるように思えます

そして、魚をわざと殺してジフンのせいにして謝罪を求めますが、そこには心からの謝罪などはありませんでした

 

この件の後にもう一人のジフンは社長夫人を殺めることになるのですが、死を前にして怯え、懇願するかのような描かれ方をしていたのは印象的でしたね

おそらくは、もう一人のジフンが見たかったものがそこにあって、それは生殺与奪の権利を得た、絶対的強者との関係性に起きる「真の服従」だったように思います

そして、この行為はイェウンと夫の間にもあったのですが、実際には傍観しているジフンとイェウンの間にもありました

それゆえに、「殺して」と言うワードが出たことで、ジフンが動くことになったのかな、と感じました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、日本で公開された『アンダー・ユア・ベッド』のリメイク作品で、オリジナルよりも暴力描写が激しくなった印象があります

本作には、性的描写も暴力描写もどちらも必要なものになっていて、それを深く追求した結果、このような表現になっているのでしょう

イェウンと夫の性交と暴力をリアルに感じられなければ意味がないわけで、視点がジフンに固定されている以上、彼が生々しさを感じ、行動に至る経緯を細かく描写していく必要があります

 

本作には、いわゆる変態しか出ていないのですが、誰しもが抱える衝動を極端に描いているだけだったりします

その中でも特徴的なのが支配欲の描き方で、夫は「暴力による服従」、イェウンは「関係性強要の服従」、客ジフンは「表面的服従」、そして主人公ジフンは「包括的服従」と言う感じになっています

夫の妻に対する服従は、妻によって規定されていて、その関係を動かせるのは妻の方だったりします

客ジフンは魚の生殺与奪を拡大させて、社長夫人を殺すに至りますが、主人公ジフンに対しては表面的な謝罪を要求していました

 

主人公ジフンはこれらを俯瞰的に見ている立場で、夫婦の関係をいつでも終わらせられる立場にありました

構造的には「夫婦を管理している立場」なのですが、彼の支配欲求は歪なもので、暴力の最中は「過去の映像をオーバーラップさせて逃避している」のですね

全ては、あの時の光を再現するためで、そのために必要な暴力は見るけど、セックスは見ないと言う感じになっていました

このあたりの微妙なニュアンスが絶妙で、美しいところだけを見ると言う「観賞魚」にも通じる部分がありました

 

そんな中で、観賞魚の死と言う「見たくない部分」を見ることになった客ジフンは精神的に崩壊し、事件を起こしてしまいます

それを見た主人公ジフンが「自分も彼になる可能性があった」と言うのですが、観賞魚を通じて、同じような属性であることに気づいていたのだと思います

ジフンは猟奇的な一面を押さえつつ、本能に従うことができる人間ではあるものの、夫婦の関係を完全には断ち切れていません

この後の夫婦がどうなるかはわかりませんが、彼はもう彼らを見ることはできないのですね

それでも、彼の中では「止まったままの時間」が脳内にこびりついているので、その絶頂が「イェウンの殺して」と言う言葉で永遠にリフレインするのかな、と思いました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/101535/review/03890096/

 

公式HP:

https://movies.kadokawa.co.jp/underyourbed/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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