■冬の厳しさには、春を待つための準備が宿っている
Contents
■オススメ度
同性愛者を取り扱った映画に興味がある人(★★★)
監督の自伝に興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.12.14(アップリンク京都)
■映画情報
原題:Le Lycéen(高校生)、英題:Winter Boy(冬の少年)
情報:2022年、フランス、122分、PG12
ジャンル:父の喪失に喘ぐ17歳の再生を描く青春映画
監督&脚本:クリストフ・オノレ
キャスト:
ポール・キッシュ/Paul Kircher(リュカ・ロニ:父の訃報にふさぎ込む17歳)
ヴァンサン・ラコスト/Vincent Lacoste(カンタン・ロニ:リュカの兄、美大卒)
エルワン・ケポア・ファレ/Erwan Kepoa Falé(リリオ・ロッシオ:カンタンのルームネイト、カンタンの同窓生)
Lawa Fauquet(リリオの母)
ジュリエット・ビノシュ/Juliette Binoche(イザベル・ロニ:リュカの母)
クリストフ・オノレ/Christophe Honoré(クロード・ロニ:事故死するリュカの父)
Adrien Casse(オスカー:リュカの高校時代の恋人)
Anne Kessler(ソニア:カンタンとリリオの恩師)
Elliot Jenicot(ティエリー:リリオを買う男)
Pascal Cervo(ブノワ:リュカと話す神父)
Matéo Demurtas(ガブリエル:パリでリュカと関係を持つ青年)
Antoine Matanovic(ミロ:リュカの同級生)
Lancelot Jardin(コリン:リュカの同級生)
Milo Laudenbach(ヴィクトル:リュカの同級生)
Thomas Regnard(寄宿舎の管理者)
Wilfried Capet(セクー:?)
Jean-Philippe Salerio(ロゾン氏:リュカの両親の隣人)
Raphaël Defour(ドーヴェル医師)
Paul Joaquim Pereira(看護師)
Adèle Grasset(リュカのいとこ)
Isabelle Thevenoux(イザベルの妹)
Rose-Marie Minassian(クロードの母)
Philippe Detroy(イザベルの父)
Jacqueline Chatelet(イザベルの母)
Hugues Louagie(政治の話をする叔父)
Christophe Mirabel(政治の話をする叔父)
Rémi Giordan(いとこ)
Basile Larie(いとこ)
■映画の舞台
フランス:パリ
ロケ地:
フランス:パリ
■簡単なあらすじ
17歳の高校生のリュカは、親元を離れて寄宿舎で生活し、高校に通っていた
ある日、両親の隣人ロゾンといとこ、兄のカンタンが彼を訪れる
ロゾンは父クロードが事故に遭ったと告げ、彼らは故郷へと舞い戻った
だが、父はすでに死亡していて、親戚一同が集まっていて、悲しみを慰め合っていた
父は車を運転中に反対車線に入って事故を起こしていたが、どうしてそうなったのかは不明のままだった
葬儀の打ち合わせをする最中、精神的におかしくなったリュカは取り乱し、鎮静剤を打つまでパニックを起こしてしまう
リュカは葬儀に参加することもなく、ただ父の喪失に明け暮れるだけだった
カンタンはリュカを心配し、パリで1週間だけ面倒を見ることになった
カンタンは同じ美大出身のルームメイト・リリオと住んでいて、近くキュレーターが彼の作品を評価しにくるという
そこでリュカはパリの街で時間を浪費することになったのである
テーマ:喪失からの回復
裏テーマ:空虚を埋めるもの
■ひとこと感想
17歳の高校生が突然父親を亡くしたというもので、ポスターヴィジュアルからLGBTQ+の香りが漂っている作品になっていました
事前の知識はほぼゼロだったので、青春時代の過ち云々かと思っていましたが、意外な方向性だったように思えました
映画は、リュカのモノローグにて紡がれる回想録のようなもので、彼がどの時点から過去を語っているのかはわかりません
彼の情緒不安定さというものをメインに描いていて、その繊細さを汲み取る映画になっていました
父との思い出を語り、兄にないものに嫉妬し、最終的にはパリで出会った青年のために「あること」をしていくのですが、PG12で良いの?というぐらいガッツリとしたセックスシーンが登場していました
登場人物はさほど多くはありませんが、名前を呼び合うシーンが少ないので、人権関係を把握するのに時間を要する感じになっていました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は回想録になっていて、高校時代の恋人との赤裸々なシーンから、葬式でパニックになるとか、母親と喧嘩してリスカするなど、暴れまくる精神性を描いていきます
同性愛者がたくさん登場するのですが、R15+になってもおかしくないシーンが思った以上に多かったりします
物語は、リュカの壊れそうな心とその行動を描いていくのですが、物語の起伏がほぼないので、フランス語のリズムと合わせて船を漕いでしまいそうになります
なんとか持ち堪えましたが、パンフレットのストーリーを読んでいると「睡眠鑑賞」していた部分もあったように思えました
父の喪失に喘ぐ17歳ですが、色々とわからないことが多かったですね
家族と疎遠にしている理由は母親から距離を置きたいからだと思いますが、兄との距離感が微妙な感じで、年齢差もよくわかりません
美大卒と高校生なのでおそらく5歳くらいは離れているのでしょうか
かなりコンプレックスを持っているようですが、この兄弟は種違いなのかなと思ってしまいました
■タイトルの意味
映画の原題は「男子高校生」と言う意味ですが、英題では「冬の少年」と言うタイトルになっていました
この「冬」は春になる前と言う意味があって、リュカが立ち直るために必要な準備期間であったことがわかります
この物語は監督の自伝なので、おそらくはこのような出来事もしくは心情の変化というものがあったのだと考えられます
この冬の時代を迎えるにあたり、不安定な17歳がどのような行動を取るかと言うのは読めないところがあり、突発的な行動を起こしやすい時期でもあります
体が大人になっても、心はまだ準備段階と言う人もいれば、身体ともに大人になっているけど、社会的には子ども扱いなのでジレンマを感じると言う人もいます
映画におけるリュカはまだ心が追いついていないと言う感じに描かれていて、父親の突然の喪失をどう受け止めて良いのかわからない感じになっていました
リュカには父、兄、母がいるのですが、兄の喪失からの立ち直りは早めに思えます
それは、彼自身が大人であること(大学卒業はしている)と、もしかしたら「義理の父だった」のかなと思いました
この関係性は映画の中で説明されないのですが、リュカが幼いと言っても、兄の受け止めがかなり冷静なのは、少しばかり違和感がある感じになっています
映画では、一週間限定で弟の面倒を見ることになりますが、この兄弟の関係性もベッタリと言う感じではなく、少しばかり距離を感じるものになっていたように思えました
■再生のために必要なこと
父親の事故死と言うショッキングな出来事から立ち直るのは容易ではなく、父親との関係性が深ければ深いほど、時間を要すると考えられます
個人的にはその経験がないのでリアルな感想を述べられませんが、青春期に受ける「事実の重さ」と言うのは、大人の今と比べればかなり重さが違うと感じます
私の場合は、中学時代にかなり拗れたため高校デビューはなかったのですが、その当時は少しのことでも擬似的な体調不調などがあって、病院に連れて行ってもらっては異常なしと言うことがあったのを覚えています
リュカは、最終的には「自分は世界に不要なんだ」とまで思い込みリストカットをしてしまうのですが、必要とされるために彼が欲したのは「人肌」だったのだと思います
ゲイであることを家族が知らなかったのかはわかりませんが、オスカーとの関係、リリオとの関係、ゆきずりのガブリエルとの関係を得たのちに、商売男のティエリーと関係を持とうとします
ティエリーとの関係は、リリオの事情を消すためのものでしたが、それが兄にバレて思いっきり怒られていましたね
リリオはゲイですが、兄はそうではないので、このあたりの複雑な関係はあったように思えました
映画では、リュカが父の事故死から立ち直る過程を描いているのですが、落ちるところまでいかないとダメと言う感じになっていました
自身の反省を踏まえた告白のようにも思えますが、こう言ったときに家族がどうやって支えられるかと言うのが命題なのだと思います
リュカの苦悩は彼の中で成熟し破裂するのですが、彼自身が多くのサインを発していたことを、家族は自分の生活と思考を優先して気付かずにいたと言うことが描かれていたように思えました
一番わかりやすいのは、兄の仕事の様子を見たいと言ったシーンですが、そこで気づいて許容できるかどうかと言うのは、かなり難しい問題であるように思えます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、ガッツリとした絡みのシーンがあるのですが、一応PG12止まりになっています
同性愛者系の映画は気にせずに観ますが、その中でもかなりリアルさを感じる描写になって驚きました
基本、リュカが受けの方になっていますが、快楽を追求するかのような体位にこだわりを感じましたね
単に体を合わせて、それらしい描写をしていると言うのではないところに本物っぽさを感じてしまいます
物語は、青春の一ページと言った感じで、痛々しくも輝いて見えるものになっていました
映画内ではリストカットまでしてしまうのですが、これらの闇が全て、明るい未来に向けての布石と言う感じに描かれていたと思います
それと同時に、ここまで落ちないと上がれないほど、父親の喪失というものは大きかったのかなと感じました
家族関係として、映画を通じて感じるのは、母親との不仲、兄との不仲というものが「精神的なベース」の中であり、それがリュカ目線で振り切っているという感じになっています
実際にはそこまでの不仲ではなくても、わかってもらえていないという感覚がリュカにはあるので、その不理解に感じている根底に同性愛というものがあるのだと推測されます
誰にも言えない秘密を抱えていることで、腹を割って話せないというものがあり、父親との関係もそれに近いものがあったのでしょう
それゆえに、中途半端な状態での別離というのが、さらにリュカを苦しめる結果になっていました
近しい人を亡くした経験がある人ならわかる、悲しみの時間差というものがあり、リュカの場合にもそれは訪れていました
その時間差が他の家族と違うことで軋轢を生むのですが、これは誰にでも起こり得ることなのだと思います
母親の立場として息子たちに見せない側面もあるでしょうし、それがない故に息子はドライにも感じてしまう
このあたりの距離感というものは独特なものがありますが、相手の立場にならないとわからないもののように思えてきます
リュカは母と向き合えず、兄とは分かり合えず、神父と話しても答えを得られていません
その先にあったリリオへの想いと、ゆきずり&商売男との逢瀬は刹那的でもあり、自暴的でもありました
痛みを感じることで「在る」ということを確信するのですが、あの時点でのリュカには、それしか方法がなかったのかもしれません
そう言った意味において、大人ができることと言うのは、深いところで繋がってあげることも大事ですが、「生」の実感を肌感覚で感じられる距離感を保つことのように思えてきます
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP: