■あなたの中にいる神様は、人を殺せと仰っているのでしょうか?


■オススメ度

 

フランス・バタフラン劇場テロ事件について考えたい人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2023.11.14(京都シネマ)


■映画情報

 

原題:Vous n’aurez pas ma haine(あなたは私の憎しみを得ることはありません)、英題:You Will Not Have My Hate(あなたは私の憎しみを得ることはありません)

情報2022年、ドイツ&フランス&ベルギー、102分、G

ジャンル:テロにて妻を失ったジャーナリストの投稿後を描いた自伝的映画

 

監督キリアン・リートホーフ

脚本ヤン・ブラーレン&マルク・ブルームハウム&キリアン・リートホーフ&ステファニー・カルフォン

原作アントワーヌ・レリス『Vous n’aurez pas ma haine(2016年)』

 

キャスト:

ピエール・ドゥラドンシャン/Pierre DeladonchampsAntoine Leiris/アントワーヌ・レリス:テロで妻を失ったジャーナリスト)

カメリア・ジョルダナ/Camélia Jordana(エレーヌ・レリス:アントワーヌの妻、バタフラン劇場テロ事件の被害者)

ゾーイ・イオリオ/Zoé Iorio(メルヴィル・レリス:アントワーヌの息子、17ヶ月)

 

クリステル・コルニル/Christelle Cornil(ジュリー:アントワーヌの姉)

Thomas Mustin(アレクサンドル/アレックス:アントワーヌの弟)

 

アン・アズレイ/Anne Azoulay(アニー:エレーヌの妹)

ファリダ・ラウアジ/Farida Rahouadj(シルヴィ:エレーヌの母)

 

ヤニック・ショワラ/Yannick Choirat(ブリュノ:エレーヌと劇場に行った友人)

 

Anaïs Dahl(イザベル:保育園の母)

Maelle Giovanetti-Metzger(保育士)

Marie Burchard(クレール:保育園の母)

Anaïs Dahl(トマ:保育園の母)

 

Léonard Berthet-Rivière(保育園児マキシムの父)

Sébastien Deleau(「kiosque」のオーナー)

Sabine Cloos(病院の受付)

Lucie Aron(病院の受付)

Marie-France Abuka(病院の受付)

 

Marcos Adamantiadis(警察官)

Frédéric Vonhof(警察官)

 

David Vormweg(救急医)

Yahara Samare(医師)

 

Gina Haller(心理学者)

Anna Amalie Blomeyer(テレビのメイクアップアーティスト)

Emmanuelle Gilles-Rousseau(地下鉄の女性、被害者の友人)

Yassine Agezal(配達人)

Maud Mallet Henry(教師)

Jonathan Failla(M・カーライト:番組のホスト?)

Nicola Ransom(ウェストン夫人:インタビュアー?)

Cyril Cordonnier(不動産業者)

Grégory Duvall(地下鉄の警察官)

François Hollande(フランス大統領、本人役、アーカイブ)

 


■映画の舞台

 

2015年11月13日、

パリ同時多発テロ

フランス:パリ

バタクラン劇場

https://maps.app.goo.gl/zmpuCLuZX26YeqCE7?g_st=ic

 

ロケ地:

フランス:パリ

 


■簡単なあらすじ

 

2015年11月13日、ジャーナリストのアントワーヌ・レリスはルポの原稿を書いていたが、途中で行き詰まっていた

妻エレーヌは友人のブリュノとバタフラン劇場で開催されるイーグルス・オブ・デスメタルのライブに行くことになっていて、息子のメルヴィルの面倒を見ることになった

 

劇場の隣のスタジアムではサッカーの試合が行われていて、街は活気に溢れていたが、アントワーヌはそれらには関心を持てなかった

夜になり、メルヴィルが眠った頃、エレーヌのアニーから連絡が入る

それは、妻が出かけた劇場にて発砲事件が起こったというものだった

 

アントワーヌは妻とブリュノに連絡を入れるものの留守番電話になってしまい連絡がつかない

警察に連絡しても埒が明かず、アントワーヌはメルヴィルを義母に託して、各病院を回っていく

だが、まったく安否が確認できぬまま時間だけが過ぎていく

 

事件から2日後、ようやく妻と再会を果たすことになったアントワーヌは、亡骸を前に心を冷静に保つことに必死になっていた

そして、その夜にアントワーヌは自身のフェイスブックにある文章を投稿することになったのである

 

テーマ:未来のためへ

裏テーマ:悲しみは誰のもの

 


■ひとこと感想

 

事件のことはニュースで見聞きした程度で、その後の投稿の件についてはまったく知りませんでした

投稿を元に書かれた原作本も読んだことがないので、本作の内容には驚いてしまいました

彼がどうしてあの文章を書いたのかは察することはできますが、心の内まではわかりません

 

映画は、アントワーヌ目線で事件の概要を描き、彼自身の「達観にも似た行動」というものが描かれていきます

おそらく彼は正義感の強い男で、メルヴィルがいなければ暴走するタイプだったと思います

自制を込めた文章で自分自身を鎮めることに繋がっていて、何とか人間性を保つことができていたように思います

 

人間関係を把握するのが少し難しいですが、そこまで複雑な感じにはなっていません

投稿については、映画のチラシに日本語訳が載っているのですが、知らない方が良いように思えました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

事件はイスラム国の行動によって無関係の人間が巻き込まれたというもので、この事件のみならず、多くの場所で起こっている現在進行形の問題であると思います

事件の被害者になるかどうかは運次第というところもあって、同じ場所にいても生き残る人もいれば、亡くなってしまう人もいます

混雑した劇場なら、銃弾で死ななくても、群衆による圧死ということも考えられます

 

事件には犯人がいて、彼らの目的は様々なものがありますが、無関係者を巻き込むことで利益を得たり、目的を達することに重きを置いています

このあたりの複雑な構造を阻止することは難しく、起こった出来事に対しての報復をするということでしか、現在の対策はありません

その連鎖がずっと起こっているのですが、アントワーヌの言葉はそれらの連鎖に対するアンチテーゼのようなものだったと思います

 

列車で出会う女性から「代弁してくれてありがとう」と言われるように、恨んで仕返しをしようと思う人がいる一方で、アントワーヌのように相手のステージに立たないという選択肢をする人もいます

結局のところ、その行為が無意味であると知らせることですらも無力で、テロ行為自体がビジネスになっている以上、無くならないのではないでしょうか

 


憎しみの連鎖

 

本作で描かれているのは、「パリ同時多発テロ事件November 2015 Paris Attacks)」でした

これは、イスラム主義者による組織的な犯行で、フランスのパリと北部郊外のサン=ドニにて発生しました

21時16分、スタッド・ド・フランス・スタジアムの外で、スタジアムに入るのに失敗した犯人が周囲の施設を攻撃したものでした

このグループの他に2つのグループが同時に動いていて、混雑したカフェやレストランを狙ったグループと、バタクラン劇場に乱入したグループがいました

犯人は警察と揉み合いになった末に、ベストに仕込んだ爆弾で自爆したとされています

グループは全部で6グループいて、死者は130人(他に犯人が7人)、怪我人は最低でも416人とされています

 

動機としては、「イスラム過激主義」による「フランスのISIL空爆に対する報復」と語っています

この報復は「シャンマル作戦(Opération Chanmmal)」と呼ばれるもので、イスラム国の拡大を抑制し、イラク軍を支持するために行われた軍事作戦でした

2014年9月19日に始まり、シリアに対する空爆は2015年9月末まで行われています

ちなみにこの作戦はこのブログ執筆中の段階で「継続中」とされています

フランス側の死者は2名、ISIL側の死者は少なくとも2500人以上とされていて、2000箇所以上の標的が破壊されたとされています

 

この作戦の背景には、ISILの国境を越えた領土拡大があり、それがテロ国家の建設に繋がっていると危惧しているフランス政府の声明がありました

ISILの活動をフランスの脅威と捉えているのですが、これは1947年までシリアがフランスの委任統治領だった歴史が絡んでいると考えられます

また、シリアは内戦状態にあり、アラブの春を起点とした転換期のど真ん中にいると言えます

 


悲しみの先にある孤独

 

アントワーヌがあの文章を書いたのは、自分を抑制するためだと語られますが、同時に「感情を書き留めておく」という意味合いがあると思います

その時の感情はその時にしか言語化できず、それによって、当時の感情が蘇ることもあります

彼自身はものすごく敵を憎み、これ以上のない怒りというものを抱えていました

それをぶつける先というものがなく、メルヴィルも理解できないし、ブリュノにあたるのも筋違いな感じになっています

 

人はあり得ないほどの怒りを感じた時、それを瞬間的に発散する傾向があります

でも、アントワーヌのように、妻の生死が不明のまま2日を過ぎてくると、喪失の先にあるものを考えることになります

ブリュノによって生まれた空白の1日というのは、それを加速させる意味があり、この時点で奇跡を信じられる人の方が少ないでしょう

そうした先にある冷静というものは、孤独を感じさせ、まるでこの世に自分しかいないような感覚というものを植え付けることになると思います

 

彼があの文章を書いたことで、あの時点の感情が凝縮され、それは言葉の奥にあるものを記憶に留めることになります

怒りの奥にあるのは妻への愛であり、喪失の恐怖であり、1人でメルヴィルを育てなければならないという使命感のようなものでしょう

喪失を抱えると同時に考える未来というものは、メルヴィルの運命を考える必要があります

メルヴィルは17ヶ月と幼いですが、大人が有する感情というものは読み取れます

そう言った意味において、行動を抑制するために、まずは思考からというのがアントワーヌが至った結論のように思えました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、事実ベースの出来事をある人物の視点にて描いていきます

それゆえに、共感も多ければ反発も多いというのが正直なところでしょう

とは言え、どちらも当事者からほど遠い場所にいる意見なので、「その時」に自分が思うことは、今言っていることと真逆のことかもしれません

 

幸いにも、テロを含む不慮の事故によって、突然親しい人が亡くなるという経験がないので自分を重ねることはできません

あくまでも、第三者視点で状況を眺めるという感じになっていて、アントワーヌの危うさにハラハラするという感じになっています

メルヴィルの年齢の子どもを抱えている人ならば、この空気を全く読まない感じに彼の心情が理解できるのかもしれません

 

子どもというのは正直なもので、どんな状況でも自分が最優先になります

それは当然のことで、でもその分吸収が早い時期でもあります

アントワーヌの一挙手一投足に反応し、自分が危険ではないように察していくことになるのですが、この時期の言動は感情と論理の根幹を作っていくことになります

 

アントワーヌの宣言は、いわばメルヴィルに復讐者になってほしくないという想いがあり、もし子どもがいなければ同じことを書いたかは分かりません

事件からもうすぐ8年ぐらいになると思いますが、メルヴィルは状況を理解し始めていることでしょう

彼自身が母の死に対してどのような感情を持つかは分かりませんが、アントワーヌの想いが少しでも伝わっていれば良いと思わざるを得ません

 

テロは恐怖を盾に交渉するものですが、その効果がなければ単なる快楽殺人です

神の名の下に行っていて、それを正当化しようとしても、人を殺すという行為を選択する以上は、快楽殺人犯と何ら変わりがありません

神というのは、その人の中にある心そのものなので、行動によって、善悪とか存在価値は定まるものではないでしょうか

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

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公式HP:

https://nikumanai.com/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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