■変わり果てた祖国の中にいて、彼らの住処はヒンターランドと呼ばれるに至っている


■オススメ度

 

不可解な殺人事件を扱ったミステリーが好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2023.9.14(T・JOY京都)


■映画情報

 

原題:Hinterland(辺境の地)

情報2021年、オーストリア&ルクセンブルク、99分、PG12

ジャンル:第一次世界大戦の帰還兵を巡る殺人事件を追うミステリー&スリラー映画

 

監督ステファン・ルツィビツキー

脚本ロバート・ブッフシュベンダー&ハンノ・ピーター&ステファン・ルツィビツキー

 

キャスト:

ムラタン・ムスル/Murathan Muslu(ぺーター・ペルグ:帰還兵の中尉、元警察官)

 

リブ・リサ・フリース/Liv Lisa Fries(テレサ・ケルナー博士:事件を調べる解剖医)

マルク・リンパッハ/Marc Limpach(ポリゼイラット・ヴィクトリア・レナー:ぺーターの旧友、警視)

 

マックス・フォン・デル・グローベン/Max von der Groeben(ポール・セヴェリン:兄の行方を探している地元の警察官)

Matthias Schweighöfer(ヨーゼフ・セヴェリン:行方不明のポールの兄)

Maximillien Jadin(ホフマン:警官)

 

アーロン・フリエス/Aaron Friesz(コバックス:若い帰還兵)

スタイプ・エルツゥエグ/Stipe Erceg(バウアー:帰還兵)

Timo Wagner(クラアーノ:帰還兵、中尉)

Lukas Walcher(ヘレシュマティ:帰還兵)

演者不明(オイゲン・リヒター:帰還兵、騎馬隊長)

Tystan Putter(ヤスタ:船上で死ぬ帰還兵)

 

マルガレーテ・ティーゼル/Margarethe Tiesel(スボティック:ぺーターの邸宅の世話人)

Miriam Fontaine(アンナ・ペルグ:ぺーターの妻)

Marlene Pribil(マレーネ・ペルグ:ぺーターの娘)

 

Germain Wagner(シュタルケンベルク伯:君主活動の中心人物)

 

Markus Schleinzer(財布を盗む男)

 

Fabian Schiffkorn(バーホフ:警官)

Andreas Radlherr(ウィエンタル:警官)

Stanislaus Dick(聖シュテファン大聖堂の警官)

Leopold Selinger(聖シュテファン大聖堂の警官)

 

Milton Martins(船長)

Kangjing Qiu(アヘン売り)

Manfred Dungl (退役軍人)

Sabine Herget(平和主義者)

Josef Borbely(闇市場のディーラー)

Ronald Seboth(ポン引き)

Nadiv Molcho(シオニスト)

Dagmar Schwarz(シュテファン大聖堂の女性)

Alois Frank(醸造所の従業員)

 


■映画の舞台

 

1920年、

オーストリア:ウィーン

 

ロケ地:

全編ブルーバックによるスタジオ撮影

 


■簡単なあらすじ

 

1920年、第一次世界大戦を終えて帰国したぺーター・ペルク中尉たちは、命からがらウィーンへと戻った

祖国は敗戦し、今やオーストリア共和国と名前を変え、人々は貧困に喘ぎ、退役軍人もホームレスになる始末だった

 

ある日、警視のレンナーに呼び出されたペーターは、そこで一緒に帰還したクラアーノの遺体と再開する

何かで背中を打ち殴られた後があり、首には何かで締めたような跡も見つかっている

解剖医のケルナー博士とともに捜査を開始することになったペーターは、犯人が示す「19」と言う数字に興味を示していた

 

そんな折、今度はリヒターの死体が見つかり、親指一本だけを残して、全ての指が切断され、これも19を表していた

ぺーターは、大戦中の収容所での出来事を思い出し、そこで起きた壮絶な悲劇について想いを馳せる

そして、19と言う数字が示すものに少しずつ近づいていくのであった

 

テーマ:敗戦国の末路

裏テーマ:数字が示す怨念

 


■ひとこと感想

 

多忙のため、ブログの下地を作る間もなく、事前情報ゼロで参戦

背景がおかしいなあと思っていたら、案の定ブルーバックによるCG合成になっていました

歪んだウィーンの街並みが不気味で、戦争直後ということはわかってもWW1かWW2なのかを理解するまでに少しばかり時間がかかりましたね

 

映画は、戦争に負けたウィーンが舞台で、そこで起こる退役軍人連続殺人事件を追う、という展開を迎えます

ペーターが元刑事で、戦争に行かなかった旧友は出世しているという奇妙な関係で、その関係性の深さというものが徐々に判明していきます

 

物語的には、ミステリー要素が小説的で気になりましたが、警告を発するよりも、さっさと殺して行かない犯人像はよく分かりませんでしたね

おおっ!という展開になって、お前が犯人か!という展開のはずなのですが、犯人とわかった瞬間でも「誰?」という感じになっていて、何か見逃していたのかなあと思ってしまいましたね

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画はネタバレがない方が楽しめますが、答え合わせの瞬間に全てが理解できるかと言われると微妙な感じになっていましたね

戦時中の収容所で生き延びるために行ったことが、戦争後も彼らを縛り付けるという感じになっていましたが、当時の背景がほとんど説明されないので、察するのは大変な映画になっています

 

オーストリア=ハンガリー帝国から戦争に突入したあたりの流れを知っていないと、途中で出てくるお偉いさんの嫌味がわからないという感じになっていますね

帝国側の人間に恨みを持つ人間が多く、共和国制に変わったものの未来が見えない国だったという印象があります

そんな中で殺人事件が起こり、当局を嘲笑する流れになっているのですが、犯人の選定に関して言えば、ミステリーとしては邪道であると思います

 

最初はモブのように思えた警官が、後半からはぺーターのバディのような存在になっていましたが、レンナーからバトンタッチをする理由はあまり感じません

むしろ、最初からセヴェリン弟を警視にしておいても良かったのかなと感じました

 

画面も非常に暗く、帰還兵が6人ほどいたように思えましたが、確認できたのは5人くらいでしたね

誰が殺されていったのかもわからない感じになっていて、ともかく「19」だけを強調していましたね

その意味はざっくりと分かりますが、説明が下手な感じに思えました

 


歴史背景について

 

映画の時代背景は、第一次世界大戦後のオーストリア・ウィーンになっています

1800年代後半にはオーストリア・ハンガリー二重帝国時代があって、1914年のサラエヴォ事件を機に、セルビアとの戦争が勃発することになりました

第一次世界大戦は、ドイツ帝国&オーストリア=ハンガリー帝国&オスマン帝国&ブルガリア帝国の「中央同盟国」と、イギリス&フランス&ロシアを筆頭にした「連合国」との戦いになっています

ちょうど第二次産業革命が起こったことで、技術革新と塹壕戦の膠着状態によって、多数の死者が出た戦いでもありました

戦争が長引いたこともあり、ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国、ロシア帝国の4つの国は革命によって崩壊に至っています

 

1918年9月29日、中央同盟国の中で停戦協定が起き始め、最初に締結したのはブルガリアでした

その後、10月30日にオスマン帝国がムドロス休戦協定を締結して降伏しています

オーストリア=ハンガリー帝国が白旗を上げたのは10月29日、ヴィットリオ・ヴェネトの戦いを最後に崩壊状態になっていました

10月に入ってから、ブダペスト、プラハ、ザクレブで独立宣言が出され、11月3日に休戦協定に同意することになりました

 

このオーストリア革命によって、臨時国民議会が発足し、暫定政府が定められます

新政府は社会民主党が担い、ドイツ=オーストリア共和国となりました

映画では、この時期にピーターたちが帰ってくることになっています

 

その後、ドイツとの合併がなくなって、オーストリア共和国になり、オーストリア連邦国という名前になって、第二次世界大戦に突入し、またドイツによって併合されるという歴史へと向かっています

オーストリアは長らくハプスブルグ家の帝政になっていましたが、それが崩壊したのが第一次世界大戦ということになります

これによって、帝国主義から二大政党制へとなり、第一共和国時代を迎えることになっています

 


タイトルの意味

 

映画のタイトルは「ヒンターラント」で英語の綴りは「Hinterland」となります

なんで「Dなのにト」なのかは分かりませんが、言葉の意味としては「後背地」という意味になります

「後背地」というのは地理用語で、「港湾の背後にある陸地」という意味があり、「港から積み出す物資を供給したり、港に陸揚げされた物資を供給する範囲」という意味になります

いわゆる、港の背後にある街というイメージになりますね

 

「Hinter」には「道徳的または社会的な尊敬を失った人」という意味があり、これはそのままピーターたちの立場を表していますね

国のために戦争をしたけれど、敗戦によって社会的な地位は最下層になっていますので、這い上がれないほど底辺という意味合いにもなっています

この言葉は地理用語ですが、初期の入植者は沿岸部から追いやられて、後背地に追いやられていたという歴史があります

転じて「目に見える場所の向こう側」という意味にもなるので、「無視されている場所」という意味にもなっています

 

また、比喩的な表現として、「曖昧なもの」「不明確なもの」「よく理解されていないもの」とか、「未知なるもの」という意味もあります

歴史的な流れを踏まえると、共和国に追いやられている状況を指しますし、ぺーターからすれば「戦争から帰ってきたけど理解できない状況」という見方にもなります

また、帰還兵が連続で殺されている状況も「理解できないもの」なので、そういった意味としても通じるように思えます

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は、全編ブルーバック撮影ということが話題になっていて、鑑賞した人も背景の違和感をずっと感じていたと思います

明らかにCGだよねという感じになっていて、それがリアルを狙っていないところが不思議な街並みになっています

歪んでいるというよりは何かが欠けているという感じになっていて、その不協和さがぺーターたちの心理状況を表しているようにも思えてきます

 

ブルーバック撮影ということは、いわゆる何もないところで演じているわけで、少しの小道具以外は全部CGということになります

この手法によって不可思議でリアルという世界観の演出に繋がっていて、全体的に青みがかっているのも特徴的だったと思います

映画は背景の美術を作るのにコストがかかるので、今回のように全編CGという作品も今後登場すると思います

実写なのかどうか問題は浮上しますが、今でもほとんどの作品でCG補正が行われているので、潔く全部やっちまいましたというのは逆に好感が持てます

 

物語は一応ミステリーもので、帰還兵連続殺人事件の顛末が描かれ、それは収容所時代の裏切りの連鎖ということになっていました

そして、犯人が事件を追っている刑事の兄貴ということになっていましたが、この人物の顔認識がほとんどできていなかったので、個人的には「え? 誰?」って感じになっていましたね

会話の流れから「ああ、死んだことになっている兄貴か!」と分かりましたが、「死んでた発言」のミスリードがひどすぎるようにも思えてきます

とは言え、トリック暴きを楽しむ映画ではなく、委員会のメンバーを全員殺すという衝動的な殺人なので、いずれは犯人にたどり着いたでしょう

 

ぺーターも自分が狙われていることは薄々気づいていたようで、それよりもセヴェリン(弟の方)にどうやって隠そうかという感じになっていました

犯人が挙がってしまえば隠せるものではないのですが、弟が知る必要のない兄の話でもあったので、ぺーターとしては逮捕するよりも、殺してしまってなかったことにしたかったのかもしれません

彼らにとっては戦地も祖国もヒンターランドになってしまっていたので、あの世界で生きる意味はなかったのかもしれません

ぺーターは最終的妻子のもとに戻りますが、彼女たちに話せない過去を抱えたまま生きて行かざると得ないと思うと、家庭内でもヒンターランドになってしまうのでしょうか

それを考えると、切なくてやりきれないなあと思います

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

Yahoo!検索の映画レビューはこちらをクリック

 

公式HP:

https://klockworx-v.com/hinterland/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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